上 下
46 / 55
究明編

物語の黒幕

しおりを挟む
 深い、深い晦冥。
 泥の中へと沈んでいくような感覚。
 私は、どこまでも落ち続ける。
 或いは、漂い続ける。

 目の当たりにした真実。
 覆い隠されたベールの奥にあった情景。
 それと再び相まみえた私は……ようやく様々なことを思い出す。
 そして……。

「……あの世界は」

 崩れ去った匣庭。
 先ほどまであったはずの景色はとうになく。
 どこまでもただ暗闇が広がるばかりの、そこは無間地獄だった。

 ――これが、破局なのかな。

 畢竟、私には受け入れる覚悟がなかったのかもしれない。
 だからこそ、匣庭の主である私自身が、真実の記憶に蓋をしていたのだ。
 匣の蓋は、自分自身が作り出していた……なんてお笑い種なのだろう。

 ――ごめんなさい、明乃さん。ごめんなさい、皆。

 諦念だけが頭の中を支配して、私はただ謝り続ける。
 私を思ってくれた人たち全てに、ごめんなさいと言い続ける。
 落ちていく。
 どこまでも。

「……謝る必要はないよ」

 ふと。
 誰かの声が聞こえた。
 それは、さっきまで隣にいてくれた明乃さんのものではない。
 私はこの声を知っている、はずだけれど……。

「大丈夫。君は十分過ぎるほど耐え忍んだ。苦しんできた」
「私は……」
「だから……もうその十字架を外してもいいんじゃないかな」

 背負い続けてきた十字架。
 進まなければならないのだという覚悟。
 私に重く、圧し掛かっていたもの……。

「……いいの、かな」
「君にはもう、必要ないよ」

 彼は、私に優しく微笑みかける。
 ……そして、

「だから――私がいただいていこう」

 それが、八木優という男の答えだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【似せ者】刑事・磯山和宏

桜坂詠恋
ミステリー
「次々と他人の人生を盗んだ男の足跡は、一体誰のものなのか──」 ひき逃げ事件の背後に隠された闇を追う若手刑事・磯山は、捜査の過程で次々と名前と戸籍を捨てて逃亡する男「梶原」に辿り着く。 しかし、梶原がなぜ過去を捨て続けるのか、その理由は未だ謎に包まれていた。 かつての師であり元刑事の安西の助言を受け、磯山は梶原が東京で犯した罪と、彼を追い詰めた過去の真相を紐解いていく。 戸籍を捨てるたびに新たな人物となり逃げ続ける男と、それを追う刑事のミステリアスな人間ドラマ。 果たして彼らが迎える結末とは──。 「【偽者】刑事・安西義信」の後日譚!

処理中です...