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究明編
破損ファイルの考察
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「ど、どうしたんだい? そんなに慌てて」
勢いよく扉を開いたので、杜村は目を丸くして真澄の方を見る。
真澄は一言謝ってから、すぐにスマートフォンを杜村の方へと向けた。
「すみません、依頼していたデータの復元が出来たんですけど、これ」
「……満生台で起きている一連の事件について……って」
文章の書き出しを見ただけで、杜村は驚愕の表情を浮かべた。それから文の中頃あたりまで来ると、この記録を遺した人物についてもハッキリと理解する。
「文章の中で、龍美さんという呼び名が出てくる。この雰囲気からすれば、まず間違いなく文章は八木さんの遺したものだ……!」
「僕もそう感じました。そしてここには、事件について八木さんが至った結論が書かれてある」
「そうだね……これはあくまでも八木さんが至った結論……」
何度か仁科龍美へ語りかけるような記述があることから、八木はこれを直接龍美へ渡すことが出来ず、託すような形になっただろうことは推測できる。
杜村曰く、八月一日に観測所が地震による土砂崩れに巻き込まれたことからも、その可能性は高かった。
文章は八木が事件について考察し、それをまとめたという一文から始まる。
早々にWAWプログラムの名を出した彼は、それが電波によって人の脳に作用し、ルナティック……狂人化を引き起こすものだと結論付けていた。
天体と地層……天地のどちらもを調べる研究者だった八木。そんな彼が計画の内容をそう推察したきっかけは人工地震であり、仮に久礼貴獅が人工地震を起こせるほど高出力の電磁波発生装置を保有していたとすれば、人体に影響を与えるような電波を照射することも不可能ではない、という論理の発展だった。
八木は子どもたちがまさに実践していたEMEが、ルナティック波長を放つ際にも用いられたと仮定。月に送られ、再び地に降り注ぐ電波が人々を狂わせるのだとしている。
そして、八月二日というタイムリミットが到来した際、大規模な実験によって満生台が終わりを迎えるかもしれない、とも。
「龍美さんと八木さんは、ここまで辿り着いていた、と」
「完璧な答えとは言えない。WAWプログラムと混同してしまっているがゆえに、それが貴獅さんの目的だと思われているけれど……それでも二人はやっぱり、人々を洗脳できる機構があることまでは掴めていたんだ」
八木はあくまでもルナティックという言葉選びをしているゆえ、電波が直接人の脳を侵すのではという考えになってしまったようだが、もし彼がブレイン・マシン・インターフェースという可能性に気付いていれば。レッドアイという通信プログラムに疑いの目を向けることも出来たのだろうか。
「……八木さんほどの知識があれば、もう少しで計画を止める、ということも出来たかもしれない」
「少なくとも、真実の一側面には辿り着いていた。……ある意味、月の狂気というのがノイズになってしまった感じもありますね」
「ノイズか……」
真澄の言わんとしていることを理解し、杜村は少し考え込む。
「実際、八木さんもレッドアイの使用者だったんだよ。ほら、ムーンスパローの通信に使っているのはレッドアイだけど、そもそも子どもたちにノートパソコンを譲ったのは八木さんだったし」
「初期化して子どもたちが新たにレッドアイを入れたわけじゃなくて、元々八木さんがレッドアイを使っていたと……」
ならば余計に、レッドアイというプログラムに疑念を感じるチャンスは多かったように思える。
「龍美ちゃんのややオカルトに寄った考えが、八木さんの仮説に作用してしまったのか、或いは」
「或いは?」
「……いや、逆説的過ぎる」
杜村は、それ以上仮説を進める前にそう言って、頭を振る。
しかし、今の流れからすれば、彼の言いたいことが真澄には予想できた。
「こういうこと、ですか」
真澄は口元を手で覆いながら、言葉を噛みしめるようにゆっくりと、吐き出した。
「……この仮説が龍美さんたちの思考を誘導してしまったのか、と」
勢いよく扉を開いたので、杜村は目を丸くして真澄の方を見る。
真澄は一言謝ってから、すぐにスマートフォンを杜村の方へと向けた。
「すみません、依頼していたデータの復元が出来たんですけど、これ」
「……満生台で起きている一連の事件について……って」
文章の書き出しを見ただけで、杜村は驚愕の表情を浮かべた。それから文の中頃あたりまで来ると、この記録を遺した人物についてもハッキリと理解する。
「文章の中で、龍美さんという呼び名が出てくる。この雰囲気からすれば、まず間違いなく文章は八木さんの遺したものだ……!」
「僕もそう感じました。そしてここには、事件について八木さんが至った結論が書かれてある」
「そうだね……これはあくまでも八木さんが至った結論……」
何度か仁科龍美へ語りかけるような記述があることから、八木はこれを直接龍美へ渡すことが出来ず、託すような形になっただろうことは推測できる。
杜村曰く、八月一日に観測所が地震による土砂崩れに巻き込まれたことからも、その可能性は高かった。
文章は八木が事件について考察し、それをまとめたという一文から始まる。
早々にWAWプログラムの名を出した彼は、それが電波によって人の脳に作用し、ルナティック……狂人化を引き起こすものだと結論付けていた。
天体と地層……天地のどちらもを調べる研究者だった八木。そんな彼が計画の内容をそう推察したきっかけは人工地震であり、仮に久礼貴獅が人工地震を起こせるほど高出力の電磁波発生装置を保有していたとすれば、人体に影響を与えるような電波を照射することも不可能ではない、という論理の発展だった。
八木は子どもたちがまさに実践していたEMEが、ルナティック波長を放つ際にも用いられたと仮定。月に送られ、再び地に降り注ぐ電波が人々を狂わせるのだとしている。
そして、八月二日というタイムリミットが到来した際、大規模な実験によって満生台が終わりを迎えるかもしれない、とも。
「龍美さんと八木さんは、ここまで辿り着いていた、と」
「完璧な答えとは言えない。WAWプログラムと混同してしまっているがゆえに、それが貴獅さんの目的だと思われているけれど……それでも二人はやっぱり、人々を洗脳できる機構があることまでは掴めていたんだ」
八木はあくまでもルナティックという言葉選びをしているゆえ、電波が直接人の脳を侵すのではという考えになってしまったようだが、もし彼がブレイン・マシン・インターフェースという可能性に気付いていれば。レッドアイという通信プログラムに疑いの目を向けることも出来たのだろうか。
「……八木さんほどの知識があれば、もう少しで計画を止める、ということも出来たかもしれない」
「少なくとも、真実の一側面には辿り着いていた。……ある意味、月の狂気というのがノイズになってしまった感じもありますね」
「ノイズか……」
真澄の言わんとしていることを理解し、杜村は少し考え込む。
「実際、八木さんもレッドアイの使用者だったんだよ。ほら、ムーンスパローの通信に使っているのはレッドアイだけど、そもそも子どもたちにノートパソコンを譲ったのは八木さんだったし」
「初期化して子どもたちが新たにレッドアイを入れたわけじゃなくて、元々八木さんがレッドアイを使っていたと……」
ならば余計に、レッドアイというプログラムに疑念を感じるチャンスは多かったように思える。
「龍美ちゃんのややオカルトに寄った考えが、八木さんの仮説に作用してしまったのか、或いは」
「或いは?」
「……いや、逆説的過ぎる」
杜村は、それ以上仮説を進める前にそう言って、頭を振る。
しかし、今の流れからすれば、彼の言いたいことが真澄には予想できた。
「こういうこと、ですか」
真澄は口元を手で覆いながら、言葉を噛みしめるようにゆっくりと、吐き出した。
「……この仮説が龍美さんたちの思考を誘導してしまったのか、と」
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