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究明編
全てを繋ぐプログラム
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「レッドアイという名称に、802の数字……偶然らしいものも二つ合わさると、怪しさが増してきますね」
「当時の軍が電波兵器を研究していたとして……通信用プログラムだとされているこのレッドアイが、同じ流れを汲むものだったら」
「表向きはただの通信ソフトに見せかけた、電波兵器になりえるもの……」
推測に推測を重ねた仮説ではあるものの、結論はそこに行き着いてしまう。
さらに言えば、それを推進したのが他ならぬ永射孝史郎……GHOSTの一員だったことだ。
彼は久礼貴獅のように、愛する者のため信号領域を生み出そうなどという理念はなかっただろう。
人物像からみて、上からの指示に従って計画を進め、昇進を目指すような行動パターンだったと予測される。
「少なくとも、永射の役割は監督者だったはず。貴獅さんが良くも悪くも家族のために計画を利用しようとしている以上、どこかで組織の不利益になるようなことをしでかす可能性もあったわけだからね。問題は、永射がもう一つの計画を具体的に知っていたか、そして彼がその別計画を動かすつもりだったのか……」
「さっぱりですね。それを知ることも現状では難しそうだ……」
永射という人物が、果たしてあの事件でどこまでの重要性を持っていたのか。
組織から大役を任された切れ者だったのか、或いはスケープゴートだったのか。
今の自分たちには分かる由もない。
「今言えるのは、永射の主導で街の様々なものにレッドアイを採用した機器が設置されていたということくらいだね。計画の大元であるここの装置も、電波塔も、病院の設備や義肢なんかにもね」
杜村はそこまで言って、突然表情を凍りつかせた。
それがどうしてなのか、真澄も数秒遅れて理解する。
彼は、自分が語った言葉の中に驚くべき符合を発見してしまったのだ。
「……まさか、ブレイン・マシン・インターフェース……」
「杜村さん。やっぱり……怪しいですよ、それは」
「ああ……しかし、なるほど……」
どうして今まで気づかなかったのだろうと、杜村は舌打ちする。
だが、ここまで連想出来たのは新たな発見があったからこそに違いない。
電波。洗脳。そして、それを繋ぐ……プログラム。
プログラムは、インストールされていなければ効果を発揮することは出来ない……。
「ブレイン・マシン・インターフェースと言えば、僕も聞いたことはあります。名前の通り、脳と機械を接続する技術のことですよね? つまり、満生台に住まう住民たちで義肢などの補助装具が必要な人達は、全て最新式の装具……BMIを採用したものを使うことになっていた。そして僕らの仮説が正しい方向であれば……そのソフトとして採用されたものこそ」
「レッドアイに他ならなかった……!」
脳への電波攻撃が行われたとして、それが100%の効力を発揮出来るかと言えば否と断定してもいいだろう。人間の思考を掌握出来るような強力な電波を直接照射するというのは現実的でない。しかし、住民たちに予め電波を受け入れる受信装置が取り付けられていたとしたら? それは時限爆弾のように機能し、電波が照射された瞬間に、否応なく脳への信号を送信してしまうことになる……。
「下地は着々と準備されていたってことなのか……」
「ここへ移住してきた人の多くが、身体的ハンディキャップを背負っていたのにはそちらの理由もあったということですね。魂の強度が信号領域の強度にもなり得るのは前提として、もう一つ。攻撃的な電波を受信する装置を仕込んでおくことも出来るから……」
「それが真実だとしたら……あまりにも酷い。どこまでも効率的で、残忍な……」
しかし、きっとそれがGHOSTなのだ。
人類の正しい進化のためと謳いながら、多くの悲劇、多くの骸を積み上げていく。
崇高な目的? 馬鹿を言ってはいけないと真澄は怒りに拳を握り締める。
その血みどろの道の、どこが崇高だと言えるのか――。
「……あッ……」
そこで、杜村がそんな声を上げながら自分の耳を押さえた。
青ざめた表情。どうしたのかと真澄が問いかけるも、
「……いや、大丈夫。怒ったせいでちょっと頭が痛くなっただけさ」
「そう、ですか」
本当かどうかは分からないが、実際に辛そうな顔はしている。
なので真澄は、あえてこれ以上の追及はしないことにした。
「信号領域を生んだWAWプログラム。その裏に隠されてきたものが、だんだん見えてきたような気がするね」
「ええ、まだ幻か実体かは分かりませんがね。でも、進歩だと信じましょう」
真澄が言い、杜村はそうだねと頷く。
「後は、この装置を使って信号領域内と通信が出来るかどうか。レッドアイに疑惑が向いた後ではありますけど、悪用されたのは六年前ですし」
「メッセージを送るという目的だけだ。この事件が終わったら、もう誰にも使われることがないようにしよう」
最早、ダウンロードすることも出来ないプログラム。
全てに片が付いたら、これを削除して終わらせようということで二人の意見は一致する。
「当時の軍が電波兵器を研究していたとして……通信用プログラムだとされているこのレッドアイが、同じ流れを汲むものだったら」
「表向きはただの通信ソフトに見せかけた、電波兵器になりえるもの……」
推測に推測を重ねた仮説ではあるものの、結論はそこに行き着いてしまう。
さらに言えば、それを推進したのが他ならぬ永射孝史郎……GHOSTの一員だったことだ。
彼は久礼貴獅のように、愛する者のため信号領域を生み出そうなどという理念はなかっただろう。
人物像からみて、上からの指示に従って計画を進め、昇進を目指すような行動パターンだったと予測される。
「少なくとも、永射の役割は監督者だったはず。貴獅さんが良くも悪くも家族のために計画を利用しようとしている以上、どこかで組織の不利益になるようなことをしでかす可能性もあったわけだからね。問題は、永射がもう一つの計画を具体的に知っていたか、そして彼がその別計画を動かすつもりだったのか……」
「さっぱりですね。それを知ることも現状では難しそうだ……」
永射という人物が、果たしてあの事件でどこまでの重要性を持っていたのか。
組織から大役を任された切れ者だったのか、或いはスケープゴートだったのか。
今の自分たちには分かる由もない。
「今言えるのは、永射の主導で街の様々なものにレッドアイを採用した機器が設置されていたということくらいだね。計画の大元であるここの装置も、電波塔も、病院の設備や義肢なんかにもね」
杜村はそこまで言って、突然表情を凍りつかせた。
それがどうしてなのか、真澄も数秒遅れて理解する。
彼は、自分が語った言葉の中に驚くべき符合を発見してしまったのだ。
「……まさか、ブレイン・マシン・インターフェース……」
「杜村さん。やっぱり……怪しいですよ、それは」
「ああ……しかし、なるほど……」
どうして今まで気づかなかったのだろうと、杜村は舌打ちする。
だが、ここまで連想出来たのは新たな発見があったからこそに違いない。
電波。洗脳。そして、それを繋ぐ……プログラム。
プログラムは、インストールされていなければ効果を発揮することは出来ない……。
「ブレイン・マシン・インターフェースと言えば、僕も聞いたことはあります。名前の通り、脳と機械を接続する技術のことですよね? つまり、満生台に住まう住民たちで義肢などの補助装具が必要な人達は、全て最新式の装具……BMIを採用したものを使うことになっていた。そして僕らの仮説が正しい方向であれば……そのソフトとして採用されたものこそ」
「レッドアイに他ならなかった……!」
脳への電波攻撃が行われたとして、それが100%の効力を発揮出来るかと言えば否と断定してもいいだろう。人間の思考を掌握出来るような強力な電波を直接照射するというのは現実的でない。しかし、住民たちに予め電波を受け入れる受信装置が取り付けられていたとしたら? それは時限爆弾のように機能し、電波が照射された瞬間に、否応なく脳への信号を送信してしまうことになる……。
「下地は着々と準備されていたってことなのか……」
「ここへ移住してきた人の多くが、身体的ハンディキャップを背負っていたのにはそちらの理由もあったということですね。魂の強度が信号領域の強度にもなり得るのは前提として、もう一つ。攻撃的な電波を受信する装置を仕込んでおくことも出来るから……」
「それが真実だとしたら……あまりにも酷い。どこまでも効率的で、残忍な……」
しかし、きっとそれがGHOSTなのだ。
人類の正しい進化のためと謳いながら、多くの悲劇、多くの骸を積み上げていく。
崇高な目的? 馬鹿を言ってはいけないと真澄は怒りに拳を握り締める。
その血みどろの道の、どこが崇高だと言えるのか――。
「……あッ……」
そこで、杜村がそんな声を上げながら自分の耳を押さえた。
青ざめた表情。どうしたのかと真澄が問いかけるも、
「……いや、大丈夫。怒ったせいでちょっと頭が痛くなっただけさ」
「そう、ですか」
本当かどうかは分からないが、実際に辛そうな顔はしている。
なので真澄は、あえてこれ以上の追及はしないことにした。
「信号領域を生んだWAWプログラム。その裏に隠されてきたものが、だんだん見えてきたような気がするね」
「ええ、まだ幻か実体かは分かりませんがね。でも、進歩だと信じましょう」
真澄が言い、杜村はそうだねと頷く。
「後は、この装置を使って信号領域内と通信が出来るかどうか。レッドアイに疑惑が向いた後ではありますけど、悪用されたのは六年前ですし」
「メッセージを送るという目的だけだ。この事件が終わったら、もう誰にも使われることがないようにしよう」
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全てに片が付いたら、これを削除して終わらせようということで二人の意見は一致する。
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