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究明編

ワームホールの可能性

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「……EME通信、か」

 再びモニタに視線を移しながら、真澄は呟く。

「子どもたちは、この秘密基地で外部と通信をとろうとしていたんですよね?」
「良くて受信出来るかな、くらいの考えだったみたいだけど」
「……電波の受信」

 口元に手を当て、真澄はしばらく思案してから、

「こういう通信の場面が繰り返されているとして。過去には外部からの電波を受信していたものが、今なら領域外の電波を受信出来るようになっている……なんてことがあれば」
「……ううん、どうだろうな……」

 如何にGHOSTに所属していたといっても、杜村は信号領域に関する知見がそう深くない。もちろん真澄も専門的なことなど分からないし、GHOST自体も未だ研究中の分野なのだ。どんな仮説も、肯定や否定は頭ごなしに出来るものではなかった。

「観測装置に、何か気になる動きがあったりは?」
「勿論、波形が静かなままということはない。もしかしたら、単なる揺らぎとみなしていたものが外部へ繋がるワームホールのようになっている可能性も、ないとは言い切れないけれど……」

 あるとも言い切れない。事件による大きな感情の動きなどが、匣庭の中で揺らぎとして認識されているだけかもしれないのだと、杜村は慎重な姿勢をみせる。

「そうですね……たとえば、こちらから同じ通信方式でメッセージを送信する、なんてことを試してみるのもいいかもしれない」
「同じ通信方式で、か……」

 真澄の提案に、杜村はううむと唸った。
 決して論理的な話ではない。しかし、未知の領域に足を踏み入れている以上は、どんなことでも試行することが重要なのだろう。

「よし、一つ試してみるとしよう。それが信号領域の中に届いてくれるなら、かなり大きな進歩になる」
「ええ。望みは薄くとも、まずはやってみないと」

 二人はそう言って頷き合う。

「……あ。そうか、試すにしても一つ問題点があるな」
「問題点?」
「うん。この街で使われていた通信用プログラムのレッドアイなんだけどね……今はネット上でダウンロードすることが出来ないんだ。加えてこの地下室にはパソコンが残されてなくて、今一つだけあるのは僕が持ち込んだものなんだよ」
「通信用プログラム……ふむ」

 真澄は秘密基地の映像に目を向けたまま、

「杜村さん。あなたは事故後、秘密基地の様子を見に行ったりはしましたか?」
「いいや、全員の死亡が確認されてしまって、子どもたちの集合場所でしかなかった秘密基地をあえて調べてみようとは思わなかったから」
「だとしたら、どれだけ被害を受けているかも不明と」
「……確かに、秘密基地がある北西部については、土砂崩れもそれほど激しくはなかったけれど……」
「一度、見に行ってみませんか?」

 その提案を、杜村は特に断る理由もなかった。
 土砂によって全てが流されている可能性は否定出来ない。というより、他の場所がそうである以上秘密基地も消失していて不思議ではない。
 それでも、残っている可能性はゼロでないなら。

「……分かった。行ってみよう、彼らの秘密基地に」

 そうして真澄と杜村の二人は、六年の時を経て子どもたちの聖域へと足を踏み入れるのである。
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