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究明編
秘密基地の昼下がり
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「さあ、そろそろね」
木々の間を進むことしばらく。
鬱蒼とした森の中、少し拓けたその場所に陽だまりが落ちている。
蚊帳が吊られ、地面はきっちりと雑草を処理して、安っぽいけれどテントまで張って。
私たち四人で作り上げた、それは立派な秘密基地……。
「わあ……凄い」
「ふふ、そうでしょう?」
お世辞ではなく、明乃さんは眼前に広がる光景に目を輝かせてくれている。
私たちの秘密基地は、彼女の童心をちゃんとくすぐることが出来たようだ。
「この場所は、全部四人で?」
「そう言ってもいいわね。掃除や取り付けは自分たちでしたし、持ち寄ったものも自分の物だとか、家で不要になった物だから……唯一違うとすれば、パソコン関係くらいかしら?」
秘密基地にあるもので、家庭以外から調達したものはそれくらいだ。中古のノートパソコンと、無線を送受信するためのお手製装置。前者は八木さんから譲り受けたもので、後者は私たちでお金を出し合って秤屋商店で購入し、組み上げていったものだった。
月面反射通信を行うための設備について、明乃さんへ簡単に説明すると、
「へえ……その歳でそんなハイテクなことをやっていたというのが驚きですよ。パソコンはテントの中に?」
「ええ、雨が降っても濡れないよう、機械類はちゃんとしまってあるわ。今日の活動内容で通信装置……ムーンスパローも使うから、見逃すこともないわよ」
「ムーンスパロー……良い名前ですね」
「こそばゆい気持ちもあるけどね」
秘密基地の中には既に玄人と龍美が到着している。虎牙が待ち合わせに早く来ることはほとんどないので、彼が迎えに来るときは最後になってしまうものだ、と私は当然のように諦めていた。まあ、今回はさほど遅れはなかったはずだが。
「さて! そんじゃメンバーも揃ったし、今日の作業を始めるとしますかー」
龍美の号令で、各自がテキパキと、或いはのんびりと行動を開始する。明乃さんが、何が始まるんだろうとワクワクしながら見ているのが面白い。
テントから出てきたダンボール箱。そこから取り出したのがノートパソコンだ。そして、もう一度テントに入った龍美は次に機械のパーツを持って出てくる。
玄人と虎牙は、作業の出来る場所作りが役目だ。机と椅子を一所に集めていく。そうして出来上がったスペースに龍美がパソコン類を置いて、作業は始まる。
「しっかし、ここまで来るのに相当苦労したな。四月に始めて、もう三ヶ月も経つぜ」
「あんたは機械引っ付けるのがメインでしょ。システム面は私と玄人でどうにかしてきたんだから」
「いや、ネットの情報を頼りに、だけどね。この街、どこからでも無線が使えるし」
和気あいあいとした空気の中、進んでいく機器の組み立て。……もしも例えるとすれば、この空気感は高校生の部活動だろうか? 本格的な工作部などがあれば、こういうこともしたりするかもしれない。
「……きっかけは何だったんです?」
口元に笑みを浮かべつつ、明乃さんが訊ねてくる。
「秘密基地は龍美の発案ね。生徒の中でも私たち四人が一番仲が良くって、頻繁に集まっていたの。玄人の家や龍美の家、虎牙の家でも遊んだわね。でも、私の家は病院だから、そこで遊ぶというのが難しくて……だったら、もう一つ別の遊び場を作っちゃいましょうなんて案に話が転がっていっちゃったわけ。
ムーンスパローについては順序があるんだけど、まずは龍美が懇意にしている八木さんからパソコンを貰ったのが始まりね。それで何か面白いことをしてみようってことで、確かアマチュア無線の話題を最初に出したのは玄人だったはず」
「へえ……というか、パソコンをくれるっていうのが驚きですね。買うと十万円くらいはするんじゃないですか?」
「私は正確な価値なんて知らないけど、多分新品だったらそれくらいは? もう使ってないからってことで結果的に譲ってくれたんだけど……太っ腹よね。それかお金に無頓着か」
八木さんの性格からすれば、恐らく後者の可能性が高いだろう。不要だと判断したら、躊躇いなく処分するような人なのだ。そもそもここにいたら、中古品を売ってお金にするなんてことも困難だろうし。
「ともあれ、貴重なパソコンの提供があったがゆえに妄想が妄想のまま終わらなかったというわけ。大人にも負けないような大きなことをする……そんな目標を掲げて作り上げていったのが、ムーンスパロー」
「本当に、大人顔負けですね。……ちなみに、ムーンスパローという名前の由来は」
「私がおねだりしたわけじゃないわよ? ジャンケンで勝った人の名前からとるって流れになったの。ムーンは月面反射通信という方式からで、スパローは私の名前に入っている雀という漢字から。思えば玄人だったら何になったのかしら……そうなったら悩んでたかも」
後半、独り言のようにそんなことを言っていると、明乃さんはくすりと笑った。
まあ、今のはいらぬ思案だったかもしれない。
木々の間を進むことしばらく。
鬱蒼とした森の中、少し拓けたその場所に陽だまりが落ちている。
蚊帳が吊られ、地面はきっちりと雑草を処理して、安っぽいけれどテントまで張って。
私たち四人で作り上げた、それは立派な秘密基地……。
「わあ……凄い」
「ふふ、そうでしょう?」
お世辞ではなく、明乃さんは眼前に広がる光景に目を輝かせてくれている。
私たちの秘密基地は、彼女の童心をちゃんとくすぐることが出来たようだ。
「この場所は、全部四人で?」
「そう言ってもいいわね。掃除や取り付けは自分たちでしたし、持ち寄ったものも自分の物だとか、家で不要になった物だから……唯一違うとすれば、パソコン関係くらいかしら?」
秘密基地にあるもので、家庭以外から調達したものはそれくらいだ。中古のノートパソコンと、無線を送受信するためのお手製装置。前者は八木さんから譲り受けたもので、後者は私たちでお金を出し合って秤屋商店で購入し、組み上げていったものだった。
月面反射通信を行うための設備について、明乃さんへ簡単に説明すると、
「へえ……その歳でそんなハイテクなことをやっていたというのが驚きですよ。パソコンはテントの中に?」
「ええ、雨が降っても濡れないよう、機械類はちゃんとしまってあるわ。今日の活動内容で通信装置……ムーンスパローも使うから、見逃すこともないわよ」
「ムーンスパロー……良い名前ですね」
「こそばゆい気持ちもあるけどね」
秘密基地の中には既に玄人と龍美が到着している。虎牙が待ち合わせに早く来ることはほとんどないので、彼が迎えに来るときは最後になってしまうものだ、と私は当然のように諦めていた。まあ、今回はさほど遅れはなかったはずだが。
「さて! そんじゃメンバーも揃ったし、今日の作業を始めるとしますかー」
龍美の号令で、各自がテキパキと、或いはのんびりと行動を開始する。明乃さんが、何が始まるんだろうとワクワクしながら見ているのが面白い。
テントから出てきたダンボール箱。そこから取り出したのがノートパソコンだ。そして、もう一度テントに入った龍美は次に機械のパーツを持って出てくる。
玄人と虎牙は、作業の出来る場所作りが役目だ。机と椅子を一所に集めていく。そうして出来上がったスペースに龍美がパソコン類を置いて、作業は始まる。
「しっかし、ここまで来るのに相当苦労したな。四月に始めて、もう三ヶ月も経つぜ」
「あんたは機械引っ付けるのがメインでしょ。システム面は私と玄人でどうにかしてきたんだから」
「いや、ネットの情報を頼りに、だけどね。この街、どこからでも無線が使えるし」
和気あいあいとした空気の中、進んでいく機器の組み立て。……もしも例えるとすれば、この空気感は高校生の部活動だろうか? 本格的な工作部などがあれば、こういうこともしたりするかもしれない。
「……きっかけは何だったんです?」
口元に笑みを浮かべつつ、明乃さんが訊ねてくる。
「秘密基地は龍美の発案ね。生徒の中でも私たち四人が一番仲が良くって、頻繁に集まっていたの。玄人の家や龍美の家、虎牙の家でも遊んだわね。でも、私の家は病院だから、そこで遊ぶというのが難しくて……だったら、もう一つ別の遊び場を作っちゃいましょうなんて案に話が転がっていっちゃったわけ。
ムーンスパローについては順序があるんだけど、まずは龍美が懇意にしている八木さんからパソコンを貰ったのが始まりね。それで何か面白いことをしてみようってことで、確かアマチュア無線の話題を最初に出したのは玄人だったはず」
「へえ……というか、パソコンをくれるっていうのが驚きですね。買うと十万円くらいはするんじゃないですか?」
「私は正確な価値なんて知らないけど、多分新品だったらそれくらいは? もう使ってないからってことで結果的に譲ってくれたんだけど……太っ腹よね。それかお金に無頓着か」
八木さんの性格からすれば、恐らく後者の可能性が高いだろう。不要だと判断したら、躊躇いなく処分するような人なのだ。そもそもここにいたら、中古品を売ってお金にするなんてことも困難だろうし。
「ともあれ、貴重なパソコンの提供があったがゆえに妄想が妄想のまま終わらなかったというわけ。大人にも負けないような大きなことをする……そんな目標を掲げて作り上げていったのが、ムーンスパロー」
「本当に、大人顔負けですね。……ちなみに、ムーンスパローという名前の由来は」
「私がおねだりしたわけじゃないわよ? ジャンケンで勝った人の名前からとるって流れになったの。ムーンは月面反射通信という方式からで、スパローは私の名前に入っている雀という漢字から。思えば玄人だったら何になったのかしら……そうなったら悩んでたかも」
後半、独り言のようにそんなことを言っていると、明乃さんはくすりと笑った。
まあ、今のはいらぬ思案だったかもしれない。
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