この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗

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究明編

全ては組織に通じ

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「双太さんって、幽霊とか、オカルトとかって信じてます?」 
「……んん?」 

 七月二十日の放課後。
 決まり切ったルーチンのように私が私を演じ、その地点まで時は進んでいる。
 今は職員室で龍美が双太さんと話し込んでいた。
 龍美は年上の男性に興味があったようだから、双太さんへのアプローチも度々あった。
 まあ、彼女の場合さほど真剣なものではなかったのだろうが、幼い私は嫉妬に近い感情を持っていたものだ。
 双太さんは私の一番の理解者だと思っていたから。
 ……もちろん、今は龍美の行動に関してジェラシーなんてものはない。
 この先だって、感じることはきっとないだろう。

「突然不思議な話だね。……幽霊にオカルト、か」 
「お化けがいるかいないか、みたいなことですね」 
「うん。……そうだなあ、僕はいると思うよ」 
「……んん?」 

 オカルティックな話をすんなりと受け入れ、あまつさえ肯定する双太さんに、龍美は毎度目をパチクリさせる。
 当然、反応が変わるはずもないのだが、この表情を見るのは少し面白い。
 生真面目な双太さんがどうして、と龍美は思っているのだろうが、いやいや。
 この青年こそ、オカルト研究の最先端と言っても過言ではない組織、GHOSTに所属する人間なのだ。

「人にも善悪があるんだから、霊にもあるんだろう。それは人格か、或いは遺伝子か」 

 霊の遺伝子……GHOSTは確か、それをカルマナンバーと名付けていた。0~9までの数字に対応しそれぞれが性質によって魂の在り様が決まっていくのだとか。無論、これは先天的なものであり、後天的に獲得していくものもあるだろうが。
 まあ、この話を龍美が理解出来るはずもないし、当時の私だって真面目に話されてもキョトンとしていたことだろう。
 今だから……それこそこの状況に陥り、心が――魂が成熟したからこそ、何とか受け入れられるような理だ。
 さて、短い会話が終わり、龍美は職員室を出ていこうとする。
 ここで登場するのが玄人だ。
 彼の方は元々、病院の定期健診がある日だったので、これから双太さんと私とともに病院へ向かうことになっていた。
 基本的に、こうして健診がある場合は双太さんを含めて帰れたけれど、健診がなく、彼が教員としての仕事を片付けたい日には、病弱な私は友人たちに付添われて帰宅することになっていた。
 扉を開けた途端に玄人と鉢合わせし慌てる龍美。そんな一幕をぼうっと見送ってから、今度は玄人との会話が挟まれる。
 龍美の双太さんへの反応と同様、玄人も龍美がオカルト話をするのに少々驚きを見せる。
 彼女のイメージは玄人にとって男勝りな子、という感じだろうから、そう思うのも頷けはする。
 やはり、龍美に対する正確な評価は虎牙の方がちゃんとしているわけで。

「昔、何とか邸ってとこで起きた事件のこととかもニュースで見て気になったって言ってたし、何かそういうネタを見ちゃったから夢に出ちゃったんだよ、きっと」
「悪夢で怖がる龍美か……」

 考え込む玄人。頭の中で、怖がっている龍美がどうしても想起出来ないのだろうな。

「霧夏邸……かあ」

 そこで、観劇者として成行を見守っていた明乃さんがふいに口を開いた。
 私がそちらへ意識を向けると、世界は緩やかに静止していく。

「あら、やっぱりあなたと関係のある話だった?」
「私というより、仲間の……ですね。実は、あの邸宅に閉じ込められた当事者がいるんです。話すと長くなるので今は止めておきますが、二人とも……特に降霊術を復讐に利用しようとした満也さんの方は、今もその後悔と責任を胸に、私たちに力を貸してくれています」

 降霊術……生憎その分野に関して知識は多くないが、それもGHOSTが研究を行う内の一つらしい。
 人類の正しき進化を謳い、魂魄の解析・改ざんという神をも恐れぬ研究を続ける組織。
 それゆえに、霊を幽世から呼び降ろす研究をしているというのにも納得は出来る。

「当初、私たちの事件にGHOSTの直接的な関与はないと思っていました。事件全体の首謀者やその目的はハッキリしていましたから。ただ、鈴音町というところの方々と交流するようになってから新しい情報が得られて、降霊術の理論の原型を伝えたのがどうやら組織のトップらしいということが分かってきたんです」

 彼女らが巻き込まれた事件の中で、GHOSTという言葉や組織の別名称などは一切出てこなかったそうだ。ただ、降霊術を生み出したとされる風見某の背後に組織の影があることが分かったのだという。

「結局、全てはGHOSTに繋がるものなのかとみんな絶句しましたよ。そして、一層組織をこのままにはしておけないと決意を強めました。仲間たちは今も、それぞれのやり方でGHOSTと対峙しています」
「……崇高な志ね。私にはとても真似出来そうにないわ」
「いえ……この鎖された空間で、どれだけ苦しんでも諦めなかった満雀さんこそ凄いですよ。尊敬しちゃいます」
「ふふ、お世辞は結構よ」

 けれどまあ、嫌な感じはしなかった。
 誰かに努力を報われる日がこようとは、思ってもみなかったのだし。
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