この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗

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本作品に登場する用語については、実在・非実在のものが混在しているため、以下のような記号を先頭に表記し区別いたします。
また、当該一覧については三章までに明らかとなった情報を全て含みますのでご注意ください。

●本作品における独自の用語や組織名等
★現実に存在する用語や組織名等(但しオカルト等、科学的に証明されているものに限らない)



●満生台
本作の舞台となる小さな街。かつては三鬼村と呼ばれ、人口は減少の一途を辿る集落であったが、医療センターの創立を皮切りとしたニュータウン化によって人口はV字回復を果たしている。
『満ち足りた暮らし』がスローガンであり、医療センターを中心に現在は通信技術の発展へ注力しており、住民の関心は近々稼働が予定されている電波塔問題へと向けられている。


●電波塔(通称・満生塔)
満生台の北部、山中の小高い場所に設置され、近々稼働の予定されている電波塔。この稼働により満生台の通信技術は更に発達し、より良いサービスが受けられるようになると住民たちは説明されている。
しかし、電磁波による身体への悪影響を心配する住民も多く、また古くから住んでいる者からは、新たな物を次々に導入していくことへの嫌悪感からか、昔からの伝承を持ち出し『祟りがある』という忠告の言葉も出ている。

この電波塔は、後述するWAWプログラムのための装置であり、住民の反対を押し切ってでも設置する必要性があったのである。


●満生総合医療センター
満生台の人口が回復するきっかけとなった大型の医療施設(あくまで街の規模と比較した場合には、だが)。牛牧高成が自身の夢のために創立したもので、定期的な健康診断等もあり住民の全てが世話になっているといっても過言ではない。

実態として、この病院は早々に経営難に陥っていた。そこに手を差し伸べたのがGHOSTであり、牛牧は病院存続のため、組織へほぼ全ての権利を譲り渡している。ゆえにこの場所は医療施設であると同時に、組織の研究施設と化しているのである。


●盈虧園
満生台で唯一の学び舎であり、主人公たちはここで学校生活を送っている。
盈虧とは月の満ち欠けを指しており、人生にはそうしたプラスやマイナスの経験が大事なのだという意味が込められているという。

実際にそれは間違いではないが、名前の元となったのは盈虧院という別の施設。GHOSTが運営する、児童養護施設の名前である。


●盈虧院
日本各地にかつて存在した児童養護施設。現在はその全てが閉鎖されている。
GHOSTが買収した言わば被験者の選別場であり、孤児ゆえに問題が表に出ないという悪辣な発想の下に運営されていた。
主人公たちを含めた数人がこの施設に過去在籍していた孤児で、満生台へ引っ越すことになったのは彼らが被験者としてリストに入っていたからという裏事情がある。


●GHOST
正式名称を【Genetic Hazard Observation Structure】……遺伝危機監査機構。とは言っても、あくまで表向きに考えられた名称であり、実態は遺伝子の情報を研究・管理するような機関ではない。
GHOSTは『人類の正しき進化』を掲げ、非人道的な実験・研究すら厭わない裏社会の組織であり、日本の各地で恐るべき計画を次々実行に移している。主な研究テーマとしては現在、人間の魂魄と、その存在出来る領域についてが主流の模様。
本作においても満生台でWAWプログラムと呼称される計画を進め、それは実行に移されることとなった。
組織の起源は戦時下の日本軍……陸軍科学研究所まで遡るため、後述する802部隊とは同じ系譜であるといえる。


●WAWプログラム
満生台において、GHOSTが取り組んでいる計画。子どもたちの調査および久礼貴獅の説明によりその全貌が判明している。
Waxing and Waning――盈虧の頭文字を取って名付けられたWAWプログラムは、満生台において霊体空間を創造、住民たちから魂魄を乖離させ(殺害とほぼ同義であろう)その空間に住まわせるというもの。肉体が抱える問題を取り払い、病も怪我も帳消しにして過ごすことが出来るのだという。そのために、現実世界と別れを告げなければならないとして。
霊体空間である信号領域を創造するためには強固な霊的エネルギーが必要で、そのエネルギーと電気信号が非常に近似しているというGHOSTの研究成果によって、街は信号を効率的に展開できるよう通信技術の改良を続けてきた。そして、領域を構成する魂魄もまた強固であるほどに良いという理由から、身体的、或いは精神的に負荷を抱えた人間を住民として誘致したのである。
二〇一二年八月二日、久礼貴獅は自身の娘である久礼満雀を主として、装置を稼働させた。
そして歪な匣庭は産み落とされたのである。


●信号領域
霊的エネルギーにより構成される空間――別名を記憶世界。
人間の脳内にて伝達される電気信号と殆ど同様のものとされている。たとえば交通事故などで誰かが死亡した後、その場で気配や声が聞こえるといったいわゆる残留思念などはこの電気信号が影響しているという説が一部に浸透しているが、GHOSTは魂魄が生じさせる信号を霊的エネルギーと仮に定義付けしているのである。
エネルギーは魂魄によって強弱があり、強ければ強いほどに信号=領域も広がっていく。また、異なる魂魄が発生させる信号が重なり合い、一つの領域を構成するパターンも有り得る。
満生台における信号領域とは、久礼満雀が全ての魂魄の上に立つ領域の主……中心人物となり、他の住民たちが下部の構成員として領域の強度を高めるような形で産み出されたものである。


●三匹の鬼の伝承
満生台の旧名、三鬼村時代に存在していた鬼の伝承。
曰く、水鬼・餓鬼・邪鬼という三匹の鬼が三鬼村には存在し、祟りによって人々を苦しませていたのだという。
水鬼は水害をもたらす鬼で、村の作物に被害を与えた。
餓鬼は飢餓をもたらす鬼で、村人たちを食糧難に陥れた。
そして邪鬼は人々を狂わせ、壊してしまった……。
よくある土着の昔話のようにも思えるが、この伝承の裏には、歴史の闇に葬られたとある悲劇がある。
時は世界大戦の只中。三鬼村に日本国軍のとある組織がやって来て、半ば強引に研究所を構えた。
陸軍科学研究所……最新技術を用いた兵器製造を研究する機関である。
研究は人体実験を伴い、数多の犠牲者が生まれたが、軍部はこれを隠匿しようと画策。
当時はまだ『三匹の鬼が住み、人々を脅かす』という程度に曖昧であった三鬼の伝承を利用することとした。
具体的には、水害に乗じて被験者を処分したという事実、豊作不作に関わらず住民たちから食料を徴収していたという事実、そして逃げ出した被験者たちを住民たちが目撃してしまったという事実をそれぞれ水鬼、餓鬼、邪鬼だと定義し、伝承を上書きしてしまったのだ。
今では伝承そのものが形骸化してしまったが、その歴史には恐るべき闇が眠っていたのである。


●802部隊
三鬼村に研究所を構えた日本国軍の部隊名。その跡地は鬼封じの池にあり、主人公たちは廃墟に記された802という数字の謎に苦しめられた。
Z装置、A装置といった電波を用いた兵器を研究しており、身寄りのない人達や捕虜などを被験者として人体実験を行うなど、非道な研究を繰り返していた模様。その痕跡は有耶無耶にされ、当時の村長を脅すような形で密約が結ばれた。研究所の所長の名前と村長の名前を取り、馬野=津田密約といわれている。


●鬼封じの池
満生台の北部に位置する山の奥深くにある大きな池。正式な名称はないものの、住民はこれを鬼封じの池と呼ぶ。その名前から、伝承にある三匹の鬼が封じられたのではないかという噂もある。
真相は当たらずとも遠からず、この池の逸話も軍部によって作られたものであり、実際のところ池の底には人体実験で犠牲となった者たちの骸が眠っているのである。


●道標の碑
満生台の各地に設置されている大きな石碑。住民たちはこれを、名前の通り道標として先人たちが立てたものと認識している。
が、実のところこの石碑は慰霊碑であり、人体実験の犠牲となった八百二人の死者を悼むもの。龍美が調査をし、その数がちょうど部隊の数字と同じ八百二個であることを確認、虎牙も軍が絡んだ過去を暴き出した。
尚、現在この石碑はGHOSTの手によって改造され、監視カメラの役割を果たしている。


●ムーンスパロー
主人公たち四人が作り上げたアマチュア無線装置の名称。月面反射通信という方式を採用しており、満雀の名前からも一字とってムーンスパローとした。既に完成はしており、通信用プログラム『レッドアイ』を使って電波の送受信は行える。龍美と虎牙はこれを、久礼貴獅の通信を傍受するために使用したりもした。

●レッドアイ
電波の送受信を行うための基本ソフト。フリーでダウンロード出来るため、事件発生の時点ではそれなりのシェアがあったとされる。作者はM.Umanoという人物であり、Ver8.02にて更新は終了している。
ソフト情報にて、某ミステリに登場するプログラム名からとったと書かれているものの、事件において赤目が重要な意味を持つことから、このソフトへ疑惑が向けられることもあったが、現時点で真相は不明。


●ゴーレム計画
GHOSTによる計画の一つ。人体を人形に換装することで生命の限界を超越しようとするもの。
満生台とは別の舞台にて以前実行されていた計画である。
曰く、佐曽利の技術があればその結果は違っていたかもしれないという話が出ていた。


★月面反射通信
EME通信とも呼ばれる、無線の通信方式。その名の通り地上から月へ向けて電波を発射、その反射によって通信をするものであるが、月が電波を反射する係数が低く、長距離ゆえの減衰も大きいことから効率が悪く、あくまでもアマチュア無線家が行うレベルのものに留まっている。作中では子どもたちが装置を自作し、その受信には成功している。尚、本来通信には無線技士の免許が必要。


★バイオタイド理論
月の引力による潮汐が、潮の満ち引きのみならず人体の体内水分にまで影響を及ぼしているのではないか、という説。ただし現代においても明確な根拠はない。
かつてヨーロッパでは月が人を狂わせるという説があり、今でもルナティックという言葉が残っている。作中においては、バイオタイド理論によってこのルナティックが引き起こされるのではという議論があった。


★HAARP
正式名、高周波活性オーロラ調査プログラム。アメリカで行われている研究プロジェクトの名称である。
その目的は『自然現象の理解』であり、大気や電波などを研究しているとされているが不明瞭な部分も多い。広大な敷地に無数のアンテナが建てられているなど、その規模と裏腹な情報の少なさから様々な噂が飛び交っている。
中でも陰謀論者は、これをいずれは軍事利用するものだという説を主張。無線通信の無力化、天候の制御等々。そして作中で疑惑の対象となったのは人工地震に関する噂だった。
地層への電波照射によって地殻に影響を与え、地震を引き起こす。根拠のない説ではあるものの、同時に完全な否定も出来ず、龍美は街で起きていた地震について、もしかするとこの人工地震だったのではないかという疑念を抱くようになった。


★金縛り
目が覚めた際、体が動かせなくなる事象を言う。心霊現象として有名だが、医学的には睡眠麻痺と言われ、過労や睡眠不足による中途半端な覚醒で、頭が起きていても体の動きが伴わなくなるという明確なメカニズムがある。
作中、玄人が足を動かせなくなった際に金縛りを想像したが、その裏にも明確なメカニズムが存在する。


★自動筆記
別名、オートマティスム。自分の意思と関わらず、体が勝手に文字や絵などを描く心霊現象を言う。
科学的な解明はされていないが、筋肉の無意識の動きが偶然そうなったのではという説や、或いは筆者に精神的な異常があるのではという説がある。
作中、龍美は『鬼』や『死』という文字を自らの意思とは関係なく書き上げた。この裏には、ある明確なメカニズムが存在する。


★エクトプラズム
霊の姿を可視化したもの、或いはそれに近しいエネルギー体として呼称されている、オカルト用語。
作中、虎牙の視界に白い靄が現れた際、彼はこの単語を引き合いに出した。しかし、それは勿論エクトプラズムなどではなく、ある明確なメカニズムが存在する。


★ブレイン・マシン・インターフェース
脳と機械を接続する技術を指す。具体的には、脳で考えた動きを対象の機械が行う、というようなもの。
今なお研究中の分野であるものの、技術が進んでいけば機械の遠隔操作をタイムラグ無しで行えたり、失われた身体機能を補完する役割を担ったり出来るようになるとされている。


★陸軍科学研究所
かつて戦時中、兵器およびその材料の科学研究を行っていた日本陸軍の機関名。当然ながら現在は存在しない。
中でも第九陸軍技術研究所は電波や通信技術・諜報や化学兵器に特化しており、GHOSTがこの第九陸軍技術研究所の流れを汲んでいる可能性について、とある少女が看破している。
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