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Tenth Chapter...7/28

既読

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 雨が降っている休みの日は、退屈になる。僕はテレビを点けながら、ベッドに寝転がって本を読んでいた。最近、読書をする時間もなかったし、する気分にもあまりならなかったので、久しぶりのことだ。その反動もあってか、一時間ちょっとで、軽いミステリを一冊、すっかり読み終えてしまった。『日常の謎』系統のミステリも、中々面白いものが多い。
 仰向けで読書に耽っていたので、背中が痛くなってきた。ごろりと寝転んでうつ伏せになり、枕を抱えるようにしてスマートフォンを手に取る。

「うーん……」

 時間なら沢山あるし、気になっていることをネットで調べてみようと、僕は検索サイトを開く。そして、少しだけ悩んでから、『鬼の伝承』というキーワードで検索してみることにした。
 昔読んだ小説に、昔と今では鬼のイメージが違っているという話があったのを覚えている。偶然だが、最初に開いたサイトでも、その記憶と同じ説が書き連ねられていた。
 現代において定着している鬼のイメージは、二本の角と鋭い牙が生えていて、腰には虎柄の布を巻き、手には棍棒を持った大きな身体の怪物、というものだが、これは平安時代に広まった陰陽道に起因するのだという。陰陽道では、北東、つまり艮の方角が鬼門と呼ばれ、異形のモノが出入りする悪しき方角だとされており、そこから鬼に艮、牛と虎の属性が付与されたというわけだ。それ以前、本源的な意味としての『鬼』は、『隠』と同じであり、姿の見えない、この世のものでない存在というものだったらしい。鬼は蓑笠を纏っており、それを脱いだときに、姿が見えるのだとか。
 満生台の鬼は、カテゴライズするならば、元々のイメージに近い存在だろう。だからこそ、水害や飢餓など、現象と結びつけられることになったのだと僕は思った。巨大な鬼が三匹いた、というイメージが伝わっていたのなら、それが水害や飢餓をもたらす存在とはなり難かったはずだ。あくまでも僕の考えではあるけれど。
 鬼の伝承は各地にあれど、満生台の鬼は、少し特殊な成り立ちをしているようだ。

「……ふう」

 情報サイトを上から下まで一通り読み終え、僕は欠伸を一つして、何の気なしにチャットアプリを開いてみる。通知がないので、誰も発言はしていないが、たまに見返したくなるときがあるのだ。
 友達に入っているのは、龍美と虎牙だけ。昔は周囲の流れに巻き込まれるように、友達追加させられたり、グループに入れられたりしていたが、そうした過去の人物は、全て消去してしまった。どうせ、もう会うこともないのだから、構わない。そこにいた時ですら、それほど関わっていたわけでもないのだし。

「……あれ?」

 グループチャットを開いてみて、はたと気づく。
 いつの間にか、龍美の発言に既読が二つ付いている。
 既読の内一つは勿論僕だ。そして、もう一つ付いているなら、それは虎牙がメッセージを見たということに違いない。
 僕は一瞬、安堵が押し寄せるのを感じた。しかし、すぐに冷静になって考えてしまう。既読が付いたのに、メッセージを見たのに、何も連絡をしてこないのはどうしてなのだろうか、と。アプリを開いたなら、一言くらい、何か僕らを安心させるための発言をしてくれてもいいのに。
 やはり、連絡を入れられない事情があるのだろうか。既読を付けてしまったのも、操作ミスなのかもしれない。本当は見ていないという体でいたかったけれど、誤ってチャットを開いてしまったとか。……しかし、それってどんな理由なのだろう。
 既読がついたという、たったそれだけのことでこんなにやきもきするとは思わなかったが、何となくグループチャットで虎牙に呼び掛ける気にもなれず、僕は龍美の個別チャットに連絡してみた。

『虎牙がチャットを見たっぽいんだけど、何か知ってる?』

 龍美はよく反応してくれるので、今もすぐに見てくれるかと思ったが、中々既読は付かない。彼女も忙しい時間があるのだろう。気持ちは落ち着かないけれど、どうしようもないことだ。僕は意識を切り替えようと、部屋の中をぶらぶらと歩き回った。
 さっきまで読んでいた小説を本棚に戻し、他の背表紙を眺めてみる。そう言えば、シリーズものの続編が出ていたような気がするな。すぐにスマホで検索してみると、面白そうな新作が発売されていた。その内取り寄せて読まなくては。
 龍美からの反応はまだない。まだしばらく、連絡は入らなさそうだ。結局すぐ意識に上ってきてしまうけれど、それは僕の性格上、どうしようもなさそうだな。

「……ふう」

 溜息を一つ吐き、窓際に肘を乗せて寄りかかる。空一面の厚い雲は、遥か山の向こうまで覆い尽くしていて、今が夏だと思えなくなってしまう。窓にぶつかって来る雨粒はそれほど多くないけれど、これだけ長い間降り続くというのが嫌らしい。
 ……ふと、奇妙な感覚に襲われる。何だろう。上手く表現出来ないが、居心地の悪い感じがする。
 そう……多分、視線を感じた。

「……」

 見られている。そう思い、咄嗟に下を見た瞬間。
 そこに……理魚ちゃんの姿を見つけた。
 彼女はあのときのように、雨の中を傘も差さず……赤く濁った目で、ただこちらを見つめていた。
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