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Eighth Chapter...7/26
会いたい思いと裏腹に
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試験は何ら問題なく終わり、すぐに終礼となる。双太さんも病院関係者として、昨日の一件の処理を手伝わされているらしく、この日もすぐに学校から出ていかなくてはならないそうだ。満雀ちゃんは、もうちょっとだけ僕たちと一緒に過ごしたそうだったが、大人しく双太さんと病院に帰ることに決めてくれた。
「虎牙から、まだ連絡来ないのよねえ」
「こんなに心配させてるんだから、早く謝ってもらわないと」
まだ、チャットの既読はつかない。スマホを見ていないのか、通知だけを見てチャットを開いていないのかは不明だが、何にせよ、一分一秒でも早く連絡が欲しかった。
「満雀ちゃん。双太さんと一緒だけど、気をつけて帰るんだよ」
それに、双太さんのことを気にかけてもあげてほしい。そういう意味も込めて、僕は満雀ちゃんに言う。
「……」
「……満雀ちゃん?」
もう一度名前を呼ぶと、満雀ちゃんはぴくりと反応して、
「あ、ごめんなさい。……色々あったせいで、ぼーっとしちゃってました」
「あはは……仕方ないね。でも、考えすぎるのは駄目だよ」
自分は散々悩んでいるのに、棚上げしてるよなあ。
「ありがとう、玄人くん。……ごめんね」
「謝らなくても。……いつも通り、明るく笑えるようになればいいね」
「うん」
いつも通りが、今はとても遠い。
双太さんが戻って来たので、僕と龍美は満雀ちゃんを彼に任せて、二人で先に教室を出た。
「ねえ、玄人。ちょっと、佐曽利さんの家に行ってみない?」
「虎牙のことで、かな」
「うん。何か知ってるとしたら、やっぱり佐曽利さんでしょうし」
その意見には賛成だ。僕が頷くと、龍美は決まりね、という笑顔を浮かべて、佐曽利さんの家の方へ歩き始める。僕は龍美にばれないところで苦笑して、後をついていった。
「……でも」
「ん?」
「昨日、永射さんを見つけた後、佐曽利さんの家が一番近かったから、押し掛けたんだけどね。家の中に、虎牙はいなかったんだよ」
「うーん……まあ、全部は見てないんでしょ?」
「それは、そうだけどね」
居間で待っていたので、虎牙の部屋には立ち入っていない。だから、ひょっとしたらいたのかもしれないが、もし彼がいたら、たとえ体調が悪くても顔くらいは出してくれていたと思うのだが。
「佐曽利さんが知ってるなら、学校に連絡入れないのも変だしね……」
「……ええ」
佐曽利さんは寡黙で、気難しそうな性格だが、その辺りはしっかりした人のはずだ。連絡もなしに虎牙を休ませるようなことはしないだろう。
そこに何か理由がなければ。
その後もぽつりぽつりと会話をしつつ、僕らは佐曽利さんの家の前まで到着する。窓から薄っすらと、明かりが見えるので、佐曽利さんは在宅しているようだ。
玄関扉を何度か、控えめに叩く。そのまましばらく待つと、スリッパの音が聞こえて、ガラガラと引き戸が開かれた。
「……こんにちは、真智田くん、仁科さん」
「どうも、佐曽利さん」
佐曽利さんはいつもの作業着で、僕らの前に現れた。むすっとして、如何にも疲れがたまっていそうな顔つきだが、彼はこれが普段通りだ。
「突然すいません。その……虎牙が、心配で」
「佐曽利さん、虎牙って風邪でも引いてるんですか?」
「……うむ。やはり、心配して来てくれたんだな」
佐曽利さんは、無表情のまま腕組みをする。
「連絡を入れるのが遅くなってしまったが、もう杜村くんへ電話はしておいた。虎牙は、少し体調を崩しているだけだから、安心してほしい」
「そ、そうなんですね」
佐曽利さんの言葉は、何となくだが、予め考えておいた台詞という感じが否めなかった。龍美ももどかしそうな表情をしているので、そう感じているようだ。
「お見舞いしちゃ駄目ですか?」
「今は安静にしてもらいたいのでな。また今度にしてくれると、ありがたい。……とは言っても、きっとすぐに治って、登校出来ると思うが」
「安静に、ですか」
遠回しに、会わせられない、と言っているわけだ。佐曽利さんは頑固だから、無理強いしても意味はないだろうな。
「分かりました。すぐ治して、またあの馬鹿の顔を見れるのを待ってます。遅かったらお見舞いに来てやりますから」
「……ああ、よろしく頼む。すまないね」
佐曽利さんは、やはり表情を変えずに、僅かに頭を下げた。そして、玄関扉が閉められ、僕と龍美が二人、残されたのだった。
「駄目ね。本当だとは思えないけど、これ以上聞けなさそうだわ」
「そうだね。でも、少なくとも佐曽利さんは虎牙がどこかにいるって分かってそうだったけど」
「それくらいが収穫かしら。不安が減ったような、増えたような」
「僕としては、減ったと思いたいね」
「そりゃ、私もよ」
龍美はそう言い、ほんの少しだけ笑った。
「……帰ろっか」
「そうね」
大体想像していた通りの展開だったが、それは仕方ない。僕らは佐曽利さんの家を後にし、元来た道を戻っていった。
幾度目かの分岐路で、龍美と別れることになる。
「じゃ、また明日ね」
「そうだね。……気をつけて」
「ふふ、玄人に言われてもね。そっちこそ、気をつけなさいよ」
「……ん、ありがとう」
無理に強がっているのが分かる顔色、声色。言葉でそれをどうにかするのは、難しく。
早くまた、虎牙のむすっとした顔を見て安心したい、してほしいと、ただ思う。
龍美はこちらに手を振りながら、歩いていく。僕も、彼女が背を向けるまではずっと、手を振り続けた。
「虎牙から、まだ連絡来ないのよねえ」
「こんなに心配させてるんだから、早く謝ってもらわないと」
まだ、チャットの既読はつかない。スマホを見ていないのか、通知だけを見てチャットを開いていないのかは不明だが、何にせよ、一分一秒でも早く連絡が欲しかった。
「満雀ちゃん。双太さんと一緒だけど、気をつけて帰るんだよ」
それに、双太さんのことを気にかけてもあげてほしい。そういう意味も込めて、僕は満雀ちゃんに言う。
「……」
「……満雀ちゃん?」
もう一度名前を呼ぶと、満雀ちゃんはぴくりと反応して、
「あ、ごめんなさい。……色々あったせいで、ぼーっとしちゃってました」
「あはは……仕方ないね。でも、考えすぎるのは駄目だよ」
自分は散々悩んでいるのに、棚上げしてるよなあ。
「ありがとう、玄人くん。……ごめんね」
「謝らなくても。……いつも通り、明るく笑えるようになればいいね」
「うん」
いつも通りが、今はとても遠い。
双太さんが戻って来たので、僕と龍美は満雀ちゃんを彼に任せて、二人で先に教室を出た。
「ねえ、玄人。ちょっと、佐曽利さんの家に行ってみない?」
「虎牙のことで、かな」
「うん。何か知ってるとしたら、やっぱり佐曽利さんでしょうし」
その意見には賛成だ。僕が頷くと、龍美は決まりね、という笑顔を浮かべて、佐曽利さんの家の方へ歩き始める。僕は龍美にばれないところで苦笑して、後をついていった。
「……でも」
「ん?」
「昨日、永射さんを見つけた後、佐曽利さんの家が一番近かったから、押し掛けたんだけどね。家の中に、虎牙はいなかったんだよ」
「うーん……まあ、全部は見てないんでしょ?」
「それは、そうだけどね」
居間で待っていたので、虎牙の部屋には立ち入っていない。だから、ひょっとしたらいたのかもしれないが、もし彼がいたら、たとえ体調が悪くても顔くらいは出してくれていたと思うのだが。
「佐曽利さんが知ってるなら、学校に連絡入れないのも変だしね……」
「……ええ」
佐曽利さんは寡黙で、気難しそうな性格だが、その辺りはしっかりした人のはずだ。連絡もなしに虎牙を休ませるようなことはしないだろう。
そこに何か理由がなければ。
その後もぽつりぽつりと会話をしつつ、僕らは佐曽利さんの家の前まで到着する。窓から薄っすらと、明かりが見えるので、佐曽利さんは在宅しているようだ。
玄関扉を何度か、控えめに叩く。そのまましばらく待つと、スリッパの音が聞こえて、ガラガラと引き戸が開かれた。
「……こんにちは、真智田くん、仁科さん」
「どうも、佐曽利さん」
佐曽利さんはいつもの作業着で、僕らの前に現れた。むすっとして、如何にも疲れがたまっていそうな顔つきだが、彼はこれが普段通りだ。
「突然すいません。その……虎牙が、心配で」
「佐曽利さん、虎牙って風邪でも引いてるんですか?」
「……うむ。やはり、心配して来てくれたんだな」
佐曽利さんは、無表情のまま腕組みをする。
「連絡を入れるのが遅くなってしまったが、もう杜村くんへ電話はしておいた。虎牙は、少し体調を崩しているだけだから、安心してほしい」
「そ、そうなんですね」
佐曽利さんの言葉は、何となくだが、予め考えておいた台詞という感じが否めなかった。龍美ももどかしそうな表情をしているので、そう感じているようだ。
「お見舞いしちゃ駄目ですか?」
「今は安静にしてもらいたいのでな。また今度にしてくれると、ありがたい。……とは言っても、きっとすぐに治って、登校出来ると思うが」
「安静に、ですか」
遠回しに、会わせられない、と言っているわけだ。佐曽利さんは頑固だから、無理強いしても意味はないだろうな。
「分かりました。すぐ治して、またあの馬鹿の顔を見れるのを待ってます。遅かったらお見舞いに来てやりますから」
「……ああ、よろしく頼む。すまないね」
佐曽利さんは、やはり表情を変えずに、僅かに頭を下げた。そして、玄関扉が閉められ、僕と龍美が二人、残されたのだった。
「駄目ね。本当だとは思えないけど、これ以上聞けなさそうだわ」
「そうだね。でも、少なくとも佐曽利さんは虎牙がどこかにいるって分かってそうだったけど」
「それくらいが収穫かしら。不安が減ったような、増えたような」
「僕としては、減ったと思いたいね」
「そりゃ、私もよ」
龍美はそう言い、ほんの少しだけ笑った。
「……帰ろっか」
「そうね」
大体想像していた通りの展開だったが、それは仕方ない。僕らは佐曽利さんの家を後にし、元来た道を戻っていった。
幾度目かの分岐路で、龍美と別れることになる。
「じゃ、また明日ね」
「そうだね。……気をつけて」
「ふふ、玄人に言われてもね。そっちこそ、気をつけなさいよ」
「……ん、ありがとう」
無理に強がっているのが分かる顔色、声色。言葉でそれをどうにかするのは、難しく。
早くまた、虎牙のむすっとした顔を見て安心したい、してほしいと、ただ思う。
龍美はこちらに手を振りながら、歩いていく。僕も、彼女が背を向けるまではずっと、手を振り続けた。
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