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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】

終章 伍横町幻想

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 ――こうして六月九日は無事に終わり、それから二ヶ月ほどが足早に過ぎた。
 全てが終わって、安堵した反面、やっぱり寂しい気持ちがあるのも事実だ。
 だけどそう、ミツヤくんが口にしたように、僕らは再会できることを、知っているのだし。
 ……それに、あれから頻繁に集まるけれど、その度に賑やかだし。
 僕らは事件の後、降霊術に関連したものを処分していくことにした。
 降霊術が残り続けるのはきっと、新たな悲劇を生むことにしかならないだろうから。
 風見さんもきっと、同じ気持ちだろう。
 一度生まれてしまった禁忌を、完全に消し去ることは難しい。
 ドール以外にも、霊にまつわる怪しげな研究をする組織の噂も耳に入ったりしている。霊を想起させる、GHOSTという名の組織だ。素性は一切不明だが、その動向は注視しておかないといけないだろう。
 新たな悲劇を生まなくするために。
 関わった人間として、出来る限りのことはやっていきたいと思う。

 ……さて、ここからは事件以後の面々の話。





「……へへ、んじゃ俺の勝ちってことで。今日の昼飯はハルナのおごりな」
「あー、もう!」

 大学の食堂で、ミツヤとハルナが向かい合って座っていた。
 やけに騒がしいのだが、これが二人の日常である。
 この日はトランプ勝負で昼食の代金をどちらが払うか賭けていたらしく、完敗したハルナが頭を抱えて呻いていたのだ。

「今日で三日連続なんだけど! あんたまたイカサマ使ってるんじゃないでしょうね?」
「あれは仕方なかったんだよ……蒸し返すな」
「いいわよ、その代わり今回のはナシで」
「……はー……」

 ミツヤとハルナは、ずっと変わりなく過ごしている。
 変化があったとすれば、ミツヤが一人暮らしを始めたのを機に、ハルナが頻繁に彼の家へ通うようになったことくらい。
 互いの両親は既に、互いの関係を全面的に認めているようで、卒業後には結婚するのではとも言われている。
 本人たちは、周りの言葉など気にしていないようだが。





 マヤは、伍横町が元通りになると同時に少年刑務所へと戻っていた。
 幸い、彼が刑務所を抜け出したことはバレなかったようで、彼は事件後も模範囚として過ごしていた。

「……変われた、かな」

 ただ、あの日のことはマヤの心を少し前向きに変えたらしい。

「僕にとっての『また会う日』には、皆は僕を迎えてくれるのかな……」

 寂しい気持ちはある。それでも、今の贖罪が、いつかの再会に繋がることを信じて。
 マヤは今日も、一日を償っていく。





 ミオとミイナは、事件後からよく連絡を取り合うようになり、いつの間にやら交際を始めていた。
 それは、ツキノに認めてもらったミイナが努力したおかげだったのだろう。
 最初はツキノと違うタイプのミイナに戸惑っていたミオも、今では仲良く過ごしている。

「ねー、ここの服買ってほしいなーっ」
「って、先週も言ってたね……。結構粘り強いなー、ミイナは……」
「ふふ、私は諦めない女なんだからねー。ね、買ってよ、ミオ!」
「……参ったなあ……」

 ……まあ、どちらかと言えばミオが押しに負ける場面は多かったが。





 ――そして、僕たちはと言えば。

「はい、マスミさん。ここに置いておくね」
「ん……ありがとう、アキノ」

 お盆に乗せて持ってきた紅茶とケーキを、アキノが机の上に置いてくれる。
 ここは僕の家だが、最近は毎日のようにアキノが遊びに来ていた。
 両親もすっかりアキノのことが気に入っており。
 殆ど通い妻のようになってしまっている。

「朝からずーっとだけど、何を書いてるの?」
「うーん……回顧録というか、備忘録というか。事件のことを、一通り書いてみてるんだ」

 決して単調な箇条書きではなく、そのときに感じたことなども詳細に。
 やや物語風に、僕はこれまでの冒険を書き綴っている。

「へえー……なんでまた?」
「この事件を口外するつもりはないし、まあ誰に言ったところで信じてはもらえないだろうけどさ。とりあえず、僕らの中だけでは、ずっと残しておきたい経験じゃないかな、と思ってね」

 霧夏邸では、湯越郁斗という人物も回顧録を遺していた。
 あれは誰に見せるものでもなかったが、事件の際にミツヤたちの光明になった。

「僕も、いつか何かの役に立つと信じて、事件のことを記録しておきたいんだよ」
「マスミさん……」

 アキノは、理解ある目で僕を見つめてくれる。

「頑張ってね、マスミさん」
「……ああ」

 彼女の笑顔が、今では僕の大切な支えになっていた。

 そんな感じで、僕たちは平穏な毎日を送り続けている。
 これで、降霊術を巡る僕らの物語は終幕だ。
 沢山の別れに、沢山の涙を流した悲しい事件だったけれど、僕らは僕らの内だけにそれをしまい、再会のときまで、生きていくことにしよう。

 それでは、どうか。

 また会う日まで。
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