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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
四十一話 「謝らせてくれないか」
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ズウウン……と駆動音が鳴り続ける。
マスミたちを乗せたエレベータは、等速で目的地を――地下研究所を目指していた。
元々は研究機材なども乗せて動いていたようで、六人が乗っても特にブザーが鳴ることはなかった。
勿論、霊体であるヨウノとツキノは計算外だ。
地階に到着し、エレベータが動きを止める。
音とともに扉が開かれると、一同は外へ出た。
「ここが、研究所跡か……」
長い年月が経過していても、内部にそれほど劣化は見られない。
ネズミなどの小動物も見た感じはいなさそうだった。
ここは重要な施設に違いないし、劣化や害獣に対して何らかの対策を講じていてもおかしくはない。
何にせよ、そのおかげで苦労なく奥に向かえるのはありがたいことだ。
「お姉ちゃんたちが頑張ってくれたおかげで、ドールの記憶は戻ったんだろうけど」
「ええ……戻ったドールがどんな精神状態かは、分からない」
ここにいるメンバーとしては、儀式を行う気を失っているというのがベストだが、その可能性は恐らく低い。
考えられるのは、真実を知って錯乱状態に陥っているという可能性だ。
もしもそうであった場合、ドールが何をしでかすかは予測出来ない。
それはチャンスでもあるが、同時にピンチでもあった。
「気を引き締めて……でも、速攻で片を付けよう」
ミツヤはそう言うと先陣を切り、動かなくなった自動ドアをこじ開け進んでいく。
後のメンバーも、勇ましい彼に続いた。
製薬会社だっただけのことはあり、研究所内には様々な薬品が並んでいる。棚には埃が積もっているが、中の瓶類は綺麗なままだ。
マスミたちにはあまり詳しいことなど分からないものの、人体に有害な薬品の名前くらいは幾つか知っている。そういう名前もちらほら確認出来るため、迂闊に触るのは止めた方がよさそうだった。
「色々と区画があるみたいだけど……どの自動ドアも機能が停止してるね」
「一番目立つのは、奥の大きなドアでしょうか」
アキノが指差すのは、真っ直ぐ進んだ先にあるドアだ。
左右にそれぞれ研究区画が幾つもあるが、ドアだけで比べても一番大きい区画だと分かる。
「……きっとあの奥だわ。過去に儀式が行われたのも、あの場所だもの」
ドールの過去を見てきたヨウノが言うのだから、可能性は高そうだ。
一同は扉の前まで進み、気を引き締めて――ドアをこじ開けた。
深い、闇が広がる。
「……ドール……!」
部屋の奥に、揺れ動くローブ。
間違いなく、それはドールの後姿だった。
八人はぞろぞろと部屋の中に入っていき、そして対峙する。
ドール……そして彼の先にある、継ぎ接ぎ人形と。
「そうだ……私も」
後ろを向いたまま、ドールはマスミたちに語り掛けてきた。
「俺も……お前たちと何一つ変わらない。ただ……大切な人に、もう一度会いたかった。それだけ、だったのに……」
「……トオル……」
きっと、彼が関節人形でなければ。
その目からは、涙が溢れていたことだろう。
或いは、噛みしめた唇から、血が流れていただろうか。
そのどちらもだったかもしれない。
「そのためには、どんな犠牲も払うつもりだった。実際にもう、俺の心は悪魔に売り払ったようなものだった。ただ俺と、マミのことだけを思い続けてきた。……それが、こんな……」
トオルとしての記憶を完全に取り戻した彼は、最早今までのように『私』と称することもなく。
あの頃の仁行通として、絶望に喘いでいた。
ある意味で悲劇は、自分の存在ゆえに起きたこと。
自分が一人の人間であったなら、あんな術式は生み出されず、発動されることもまた無かった――。
「俺の存在は……!」
マミを殺しただけ。
耐え難い絶望に、『トオル』は叫んだ。
そして、最早マスミたちに構うことなく、計画の破綻も気にすることなく、最後の手段に打って出た。
「おい、やめとけ!」
「トオル、駄目!」
ミツヤとハルナが同時に訴える。
けれども、当然ながらそれに耳を傾けるような精神状態ではもうなかった。
両手を広げたドール。遅れてマスミたちは、地面に魔法円が描かれていることに気付く。
ヨウノとツキノには分かった。これはあのときの再現であると。
最も周到に用意された降霊術が、発動されようとしているのだ。
しかし――。
「きゃっ!」
術式が始まったと同時に、凄まじい風が巻き起こる。
ミオやミツヤが何とか前進しようとするのだが、足はずるずると後退するばかりだった。
「……くっ、近づけない……!」
儀式を発動させてはいけない。
誰もがそれを直感していた。
何故なら降霊術とは。
相手を心から思うことが必要となるのだから……。
「……せめて、マミ。謝らせてくれないか……」
千々に乱れた心。
絶望の果ての暴走。
そんな感情は、純粋とは呼べない。
ドールもそのことは、理解している筈なのに。
「黄泉の亡者達よ、聞き給え」
迸る感情は。
理性では、抑えることなど出来ないのだ――。
「どうか……どうか、犬飼真美の御霊を……呼び戻し給え――」
轟音と閃光が、世界を満たした。
マスミたちを乗せたエレベータは、等速で目的地を――地下研究所を目指していた。
元々は研究機材なども乗せて動いていたようで、六人が乗っても特にブザーが鳴ることはなかった。
勿論、霊体であるヨウノとツキノは計算外だ。
地階に到着し、エレベータが動きを止める。
音とともに扉が開かれると、一同は外へ出た。
「ここが、研究所跡か……」
長い年月が経過していても、内部にそれほど劣化は見られない。
ネズミなどの小動物も見た感じはいなさそうだった。
ここは重要な施設に違いないし、劣化や害獣に対して何らかの対策を講じていてもおかしくはない。
何にせよ、そのおかげで苦労なく奥に向かえるのはありがたいことだ。
「お姉ちゃんたちが頑張ってくれたおかげで、ドールの記憶は戻ったんだろうけど」
「ええ……戻ったドールがどんな精神状態かは、分からない」
ここにいるメンバーとしては、儀式を行う気を失っているというのがベストだが、その可能性は恐らく低い。
考えられるのは、真実を知って錯乱状態に陥っているという可能性だ。
もしもそうであった場合、ドールが何をしでかすかは予測出来ない。
それはチャンスでもあるが、同時にピンチでもあった。
「気を引き締めて……でも、速攻で片を付けよう」
ミツヤはそう言うと先陣を切り、動かなくなった自動ドアをこじ開け進んでいく。
後のメンバーも、勇ましい彼に続いた。
製薬会社だっただけのことはあり、研究所内には様々な薬品が並んでいる。棚には埃が積もっているが、中の瓶類は綺麗なままだ。
マスミたちにはあまり詳しいことなど分からないものの、人体に有害な薬品の名前くらいは幾つか知っている。そういう名前もちらほら確認出来るため、迂闊に触るのは止めた方がよさそうだった。
「色々と区画があるみたいだけど……どの自動ドアも機能が停止してるね」
「一番目立つのは、奥の大きなドアでしょうか」
アキノが指差すのは、真っ直ぐ進んだ先にあるドアだ。
左右にそれぞれ研究区画が幾つもあるが、ドアだけで比べても一番大きい区画だと分かる。
「……きっとあの奥だわ。過去に儀式が行われたのも、あの場所だもの」
ドールの過去を見てきたヨウノが言うのだから、可能性は高そうだ。
一同は扉の前まで進み、気を引き締めて――ドアをこじ開けた。
深い、闇が広がる。
「……ドール……!」
部屋の奥に、揺れ動くローブ。
間違いなく、それはドールの後姿だった。
八人はぞろぞろと部屋の中に入っていき、そして対峙する。
ドール……そして彼の先にある、継ぎ接ぎ人形と。
「そうだ……私も」
後ろを向いたまま、ドールはマスミたちに語り掛けてきた。
「俺も……お前たちと何一つ変わらない。ただ……大切な人に、もう一度会いたかった。それだけ、だったのに……」
「……トオル……」
きっと、彼が関節人形でなければ。
その目からは、涙が溢れていたことだろう。
或いは、噛みしめた唇から、血が流れていただろうか。
そのどちらもだったかもしれない。
「そのためには、どんな犠牲も払うつもりだった。実際にもう、俺の心は悪魔に売り払ったようなものだった。ただ俺と、マミのことだけを思い続けてきた。……それが、こんな……」
トオルとしての記憶を完全に取り戻した彼は、最早今までのように『私』と称することもなく。
あの頃の仁行通として、絶望に喘いでいた。
ある意味で悲劇は、自分の存在ゆえに起きたこと。
自分が一人の人間であったなら、あんな術式は生み出されず、発動されることもまた無かった――。
「俺の存在は……!」
マミを殺しただけ。
耐え難い絶望に、『トオル』は叫んだ。
そして、最早マスミたちに構うことなく、計画の破綻も気にすることなく、最後の手段に打って出た。
「おい、やめとけ!」
「トオル、駄目!」
ミツヤとハルナが同時に訴える。
けれども、当然ながらそれに耳を傾けるような精神状態ではもうなかった。
両手を広げたドール。遅れてマスミたちは、地面に魔法円が描かれていることに気付く。
ヨウノとツキノには分かった。これはあのときの再現であると。
最も周到に用意された降霊術が、発動されようとしているのだ。
しかし――。
「きゃっ!」
術式が始まったと同時に、凄まじい風が巻き起こる。
ミオやミツヤが何とか前進しようとするのだが、足はずるずると後退するばかりだった。
「……くっ、近づけない……!」
儀式を発動させてはいけない。
誰もがそれを直感していた。
何故なら降霊術とは。
相手を心から思うことが必要となるのだから……。
「……せめて、マミ。謝らせてくれないか……」
千々に乱れた心。
絶望の果ての暴走。
そんな感情は、純粋とは呼べない。
ドールもそのことは、理解している筈なのに。
「黄泉の亡者達よ、聞き給え」
迸る感情は。
理性では、抑えることなど出来ないのだ――。
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