上 下
164 / 176
最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】

三十四話 「お互い頑張ろうぜ!」

しおりを挟む
 光井家を出たところで、一同は儀式を行った時と同じように円陣を作る。
 そこで、これからの作戦について簡単におさらいした。

「波出家は町の中心部にある。霧夏邸へ向かう道と、途中までは一緒だ。建物は大きいし、すぐ分かるはず」
「迷うことはないでしょうけど、道中悪霊に襲われないよう、注意しましょうね」

 未だ悪霊たちは町内を彷徨っている。この空間の暴走が止まらない限り、悪霊たちも消えないだろう。
 暴走の元となる霊が、儀式で呼び戻したマモルとテラスだというのは間違いない。なので、町を元に戻すには彼ら二人を浄化する必要があるわけだ。

「これだけ大規模な霊空間が、あっさり消えるという保証もないよなあ……」

 夜空を見上げ、マスミは独り言ちる。
 悪霊には常に注意しておく必要がありそうだ、と思いながら。

「あ、そうそう。流刻園で、念のためにあれを汲んできたんだけど――」

 ミオがそう言って、懐から何かを取り出そうとしたとき。
 ふいに世界が赤と黒に点滅を繰り返した。
 この現象を、一同は過去の体験からよく理解していた。
 これは――危険な予兆である、と。

「まずいぞ!」

 ミツヤが叫ぶのとほぼ同時に、黒い霧のようなものが彼らの前に集まってくる。
 それは二つの人型を形作っていった。

「こ、この二人は……」
「風見照と……波出守……?」

 マスミの言う通り、二人の悪霊はマモルとテラスのように思われた。当然ながら全員、二人の生前の姿などは知らないが、他とは雰囲気の違う悪霊であること、二人同時に術者であるマスミたちの元へ来たことなどから類推したのだ。

「まさかこんなときに出てくるなんて……」
「気配を嗅ぎ付けられたのかも……!」

 彷徨う悪霊は、生者に対し攻撃的となる。マスミたちが狙われるのはどうしようもないことだ。
 急ぐしかない。マスミは波出家まで全力で逃げ延びるしかないかと覚悟し、全員に指示しようとした。
 ――しかし。

「ミツヤくん!」

 隊列から突然飛び出したのは、ミツヤとハルナだった。二人はマモルとテラスの霊の注意を引き付けるように動き、

「こいつらは引き受けた! そっちは頼む!」
「で、でも――」
「私たちなら大丈夫!」

 根拠は何もない。だが、決断を迷っていれば事態はただ悪化するばかりだ。
 ここは二人を信じるのが、最善の選択だろうとマスミは決断した。

「それよりミオ、清めの水を!」
「あ、うん!」

 ミツヤに求められ、ミオは先ほど取り出しかけた瓶を取り出す。
 流刻園の地下室で汲んできた清めの水だ。
 瓶を放ると、ミツヤは見事にそれをキャッチし礼を告げる。

「サンキュ! じゃあ、お互い頑張ろうぜ!」
「……任せたよ!」

 そうして彼らは二手に分かれ、ミツヤたちは墓地を、マスミたちは波出家を目指し駆け出すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか―― 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。 鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。 古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。 オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。 ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。 ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。 ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。 逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

ラビリンス~悪意の迷宮~

緑ノ革
ホラー
少年、空良が目を覚ますと、そこは不思議で不可解な迷宮だった。 迷宮から生きて出ること。 それが空良に与えられた唯一の目的だった。 果たして空良は、悪意ある存在から逃れ、無事に迷宮から出ることはできるのか……? 注意・主人公はマイナス思考のメンタル激弱引きこもりです。精神的に弱い主人公が苦手な方は読まないことをおすすめ致します。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

異界劇場 <身近に潜む恐怖、怪異、悪意があなたを異界へと誘うショートショート集>

春古年
ホラー
身近に潜む恐怖、怪異、悪意があなたを異界へと誘うショートショート集。 通勤通学、トイレ休憩のお供にどうぞ♪ Youtubeにて動画を先行公開中です。 2023年2月28日現在、通常動画とショート動画合わせて約50本の動画を公開しています。 次のURLか、Youtubeにて"異界劇場"とご検索下さい。 https://www.youtube.com/@ikaig 是非、当チャンネルへのお越しをお待ちしております。 第6回ホラー・ミステリー小説大賞参加中! 😊😊😊投票をお願いします😊😊😊

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

みえる彼らと浄化係

橘しづき
ホラー
 井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。  そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。  驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。 そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?

処理中です...