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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
十四話 「事件に繋がっている気がする」
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「じゃあ、僕とミイナちゃんが……というか、みんなで集めた情報の整理から始めるね」
先陣を切ったのはミオだった。
提案者ではあったが、彼はブレーン役としては一番年下だったから、まずは自分からと切り出したのである。
「霧夏邸、三神院、流刻園で起きた三つの事件では、沢山の犠牲者が出た。僕らの大切な人が、無残にも命を奪われることになってしまった。そして、その犠牲者の中に、何故か共通してあることが起きた人たちがいたんだね。
まずは、霧夏邸で亡くなった河南百合香さん。次に、三神院で亡くなった流谷あいさん。最後に、流刻園で亡くなった吉元詠子ちゃん。この三人はいずれも事件後、遺体の一部が欠損していた。ユリカさんは足、アイさんは手、エイコちゃんは胴体……というように、一部が奪い去られ、見つからなかった……」
そこでミオが一息吐くと、後を引き継ぐようにミイナちゃんも口を開く。
「ドールがそれをした目的は恐らく、そのパーツを組み合わせ、一つの人体を作るため。……では、どうしてドールは継ぎ接ぎの人体を求めているのか。そこには……ある一人の女性が関係しているみたいです」
その女性の名は、ミツヤとマスミたちも別な筋から知ることが出来ていた。
だから、情報の正しさは保証されている。
その女性の存在は、証明されている。
「女性の名前は、犬飼真美」
ミイナの言葉に、残る五人は神妙に頷いた。
「流刻園に潜入したとき、僕は流谷めいさんから二つの情報を聞きました。一つは、ドールの計画が六月九日に行われるであろうこと。そしてもう一つが、犬飼真美という人物について調べること。……そう、恐らくドールは彼女を生き返らせたいがために、全てを計画し、実行しているんです。それは、降霊術を使って大事な人に再会しようとした僕らと、同じようなことなのかもしれないけれど……」
ミオもかつて、最愛の女性を蘇らせようと降霊術を行使した。
その結果が、黒木家や三神院で起きた凄惨な事件だ。
全てはドールの思惑通りだったとは言え、生き返ってほしいという切なる思いが、確かに彼を突き動かしていた。
そして黒幕のドールでさえも、彼と同じような思いの下に動いている。
ミオにとってそれは、同情するに値する情報ではあった。
かと言って、情けをかけるつもりはなかったが。
「……そして。犬飼真美について調べてみると、新たに二人の人物が浮かび上がってきた。波出守と、風見照の二人だね。どちらも波出製薬の関係者であり、犬飼真美を含めたこの三人は……いずれも数十年前に死亡している」
「波出家の研究所内で、死んでいるのが発見されたんですよね。ただ、風見照さんだけは奇跡的に一命を取り留めた……」
マスミの説明にミオが補足を入れる。そこにミツヤも補足を重ね、
「そんで、一部じゃあ風見照のことを、悲劇のイケメン研究者とか言ってたらしいぜ。……ハルナ、そんなの持ってないよな?」
「持ってないわよ、私に振らないの」
と、ハルナと再び漫才のようなかけ合いを始めた。
「ま、まあその通り。風見さんは一命を取り留めたんだが、その数年後に事件の古傷が原因で亡くなっている。そして、なんとその風見さんこそが……降霊術の術式を確立した人物だったんだね」
風見照。これまでに起きた事件の中でも、その名前は登場していた。三神院にも何故か彼の著した書籍が保管されており、そのタイトルが『魂の学問的理解』だったことをマスミたちは覚えている。
魂をエネルギーと見做し、それを操作する技術があれば医療にも役立てられる筈だとする研究論文。それを見た記憶があったから、マスミたちは風見照と降霊術との関連も、戸惑うことなく受け止められたのだった。
「これは偶然じゃない。そう思って、私たちは必死に情報を集めました。ただ、犬飼さんや波出さんに関する情報が、あんまり出てこなかったんです。二人が在籍していたらしい流刻園でも、記録が残っていなくて。多分、その記録は風見さんが残りの人生をかけて、消し去っていったんでしょうね……」
それまで聞き手に徹していたアキノが、ここで話に加わる。彼女もまた、マスミの助手的な立ち位置でこれまで行動してきたのだ。尊敬し、思いを寄せる彼に少しでも貢献しようという気持ちがそこには表れていた。
「流刻園付近で、風見さんが目撃されてるらしいもんな。何か消したい事実があったんだろうぜ、きっと」
「……数十年前の事件に繋がる何かを消したかったんだろうね、恐らく」
ミツヤが言い、マスミがそこから自らの推測を述べる。
流刻園で風見照が目撃されていたというのは、つい先日学園内で起きた事件で偶然に得られた情報だが、大いに役立つ情報だった。
「……だけど、一つ収穫があった。三神院に、犬飼真美の診察記録が僅かに残っていたんだ。丸々盗んでいくと、流石に怪しまれると思ったのかな……それは不明なんだけど、犬飼真美は、幼少時に父親に酷い虐待を受け、精神に深い傷を負っていたそうだ……」
「精神に、傷……ですか」
「ああ。そのせいか、犬飼真美は周囲から少し浮いた存在だったそうなんだが、波出守は、そんな彼女の怪しい魅力みたいなところに惹かれ、交際を始めたらしい。……どうも、それが事件に繋がっている気がする」
マスミからの情報に、ミイナは表情を曇らせる。
ドールが蘇らせようとしている犬飼真美という人物は、そのような暗い過去を持つ女性なのかと。
「波出守を嫉んでいた誰かがいたのかもしれないし……それがドールだったという可能性は高そうですよね。私たちの事件だって、その根底にあったのは嫉みや恨みなんですし……」
ハルナが言うと、他のメンバーたちもそれに同意した。
複雑に絡み合う愛憎。これまでに引き起こされた事件も、自分たちの心の闇が深く関わっていた。
全ての始まりとなる事件にも……と思ってしまうのも、無理からぬことだ。
先陣を切ったのはミオだった。
提案者ではあったが、彼はブレーン役としては一番年下だったから、まずは自分からと切り出したのである。
「霧夏邸、三神院、流刻園で起きた三つの事件では、沢山の犠牲者が出た。僕らの大切な人が、無残にも命を奪われることになってしまった。そして、その犠牲者の中に、何故か共通してあることが起きた人たちがいたんだね。
まずは、霧夏邸で亡くなった河南百合香さん。次に、三神院で亡くなった流谷あいさん。最後に、流刻園で亡くなった吉元詠子ちゃん。この三人はいずれも事件後、遺体の一部が欠損していた。ユリカさんは足、アイさんは手、エイコちゃんは胴体……というように、一部が奪い去られ、見つからなかった……」
そこでミオが一息吐くと、後を引き継ぐようにミイナちゃんも口を開く。
「ドールがそれをした目的は恐らく、そのパーツを組み合わせ、一つの人体を作るため。……では、どうしてドールは継ぎ接ぎの人体を求めているのか。そこには……ある一人の女性が関係しているみたいです」
その女性の名は、ミツヤとマスミたちも別な筋から知ることが出来ていた。
だから、情報の正しさは保証されている。
その女性の存在は、証明されている。
「女性の名前は、犬飼真美」
ミイナの言葉に、残る五人は神妙に頷いた。
「流刻園に潜入したとき、僕は流谷めいさんから二つの情報を聞きました。一つは、ドールの計画が六月九日に行われるであろうこと。そしてもう一つが、犬飼真美という人物について調べること。……そう、恐らくドールは彼女を生き返らせたいがために、全てを計画し、実行しているんです。それは、降霊術を使って大事な人に再会しようとした僕らと、同じようなことなのかもしれないけれど……」
ミオもかつて、最愛の女性を蘇らせようと降霊術を行使した。
その結果が、黒木家や三神院で起きた凄惨な事件だ。
全てはドールの思惑通りだったとは言え、生き返ってほしいという切なる思いが、確かに彼を突き動かしていた。
そして黒幕のドールでさえも、彼と同じような思いの下に動いている。
ミオにとってそれは、同情するに値する情報ではあった。
かと言って、情けをかけるつもりはなかったが。
「……そして。犬飼真美について調べてみると、新たに二人の人物が浮かび上がってきた。波出守と、風見照の二人だね。どちらも波出製薬の関係者であり、犬飼真美を含めたこの三人は……いずれも数十年前に死亡している」
「波出家の研究所内で、死んでいるのが発見されたんですよね。ただ、風見照さんだけは奇跡的に一命を取り留めた……」
マスミの説明にミオが補足を入れる。そこにミツヤも補足を重ね、
「そんで、一部じゃあ風見照のことを、悲劇のイケメン研究者とか言ってたらしいぜ。……ハルナ、そんなの持ってないよな?」
「持ってないわよ、私に振らないの」
と、ハルナと再び漫才のようなかけ合いを始めた。
「ま、まあその通り。風見さんは一命を取り留めたんだが、その数年後に事件の古傷が原因で亡くなっている。そして、なんとその風見さんこそが……降霊術の術式を確立した人物だったんだね」
風見照。これまでに起きた事件の中でも、その名前は登場していた。三神院にも何故か彼の著した書籍が保管されており、そのタイトルが『魂の学問的理解』だったことをマスミたちは覚えている。
魂をエネルギーと見做し、それを操作する技術があれば医療にも役立てられる筈だとする研究論文。それを見た記憶があったから、マスミたちは風見照と降霊術との関連も、戸惑うことなく受け止められたのだった。
「これは偶然じゃない。そう思って、私たちは必死に情報を集めました。ただ、犬飼さんや波出さんに関する情報が、あんまり出てこなかったんです。二人が在籍していたらしい流刻園でも、記録が残っていなくて。多分、その記録は風見さんが残りの人生をかけて、消し去っていったんでしょうね……」
それまで聞き手に徹していたアキノが、ここで話に加わる。彼女もまた、マスミの助手的な立ち位置でこれまで行動してきたのだ。尊敬し、思いを寄せる彼に少しでも貢献しようという気持ちがそこには表れていた。
「流刻園付近で、風見さんが目撃されてるらしいもんな。何か消したい事実があったんだろうぜ、きっと」
「……数十年前の事件に繋がる何かを消したかったんだろうね、恐らく」
ミツヤが言い、マスミがそこから自らの推測を述べる。
流刻園で風見照が目撃されていたというのは、つい先日学園内で起きた事件で偶然に得られた情報だが、大いに役立つ情報だった。
「……だけど、一つ収穫があった。三神院に、犬飼真美の診察記録が僅かに残っていたんだ。丸々盗んでいくと、流石に怪しまれると思ったのかな……それは不明なんだけど、犬飼真美は、幼少時に父親に酷い虐待を受け、精神に深い傷を負っていたそうだ……」
「精神に、傷……ですか」
「ああ。そのせいか、犬飼真美は周囲から少し浮いた存在だったそうなんだが、波出守は、そんな彼女の怪しい魅力みたいなところに惹かれ、交際を始めたらしい。……どうも、それが事件に繋がっている気がする」
マスミからの情報に、ミイナは表情を曇らせる。
ドールが蘇らせようとしている犬飼真美という人物は、そのような暗い過去を持つ女性なのかと。
「波出守を嫉んでいた誰かがいたのかもしれないし……それがドールだったという可能性は高そうですよね。私たちの事件だって、その根底にあったのは嫉みや恨みなんですし……」
ハルナが言うと、他のメンバーたちもそれに同意した。
複雑に絡み合う愛憎。これまでに引き起こされた事件も、自分たちの心の闇が深く関わっていた。
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