上 下
142 / 176
最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】

十二話 「思ったとおりだったわけだ」

しおりを挟む
 二〇一四年六月八日、十三時。
 伍横町南西部。
 晴れ渡る空の下、一人の青年と一人の少女が、何やら深刻そうな面持ちで話し合っていた。

「……やっぱり、思ったとおりだったわけだ」

 青年――円藤美央えんどうみおは、口元に手を当てながら呟く。

「大丈夫? ミイナちゃん」
「……はい、私は全然」

 名を呼ばれた少女――新垣美衣奈しんがきみいなは、少し慌てた様子で答えた。

「でも、まさかエイコちゃんの体がね……」
「……うん」

 ミオとミイナの二人は、流刻園で起きた凄惨な事件をきっかけに出会い、その後ドールによる計画を止めるべく活動を続けていた。
 ミオが得た情報によれば、ドールが何らかの行動を起こそうとしているのが六月九日ということで、その前日を期限として情報収集に奔走していたのだ。
 そして今日、こうして待ち合わせた二人は、互いに集めた情報を一先ず伝えあっていた。
 その中でも際立って重要に思われたものが一つあったのだ。

「ドールは、各地で降霊術による事件を引き起こしていたけど、その傍ら……事件の犠牲者から体の一部を奪い去っていたんだね」
「みたいですね」

 流刻園での犠牲者、吉元詠子よしもとえいこ
 事件後に警察と救急隊が入り、彼女の遺体を回収したわけだが……その体は完全なものではなかったという。
 彼女の体は、その大部分が欠損していたのだ。

「まあ、詳しい話は集まりの席でまたするとしよう」
「了解です」

 これからミオたちは、ドールの計画を止めたいという思いに賛同してくれた、言わば協力者たちと集まり、話し合う段取りになっていた。
 むしろ言い出したのはミオではあるが、ブレーンと成り得る人物は他に何人もいるほどに、頼もしい者たちばかりだ。
 そんな頼もしい協力者たちには、ミオの家に集まってもらうことにして。
 彼はミイナを集まりに加えるべく、迎えに来たという次第だった。

「そうそう、初対面の人も多いだろうけど、そのあたりも大丈夫かな?」
「心配いりませんって。私、社交的なんですから」
「……ふふ、アキノちゃんみたいな子だな」

 ミオからすれば、自然に思い浮かんだ名前だったのだが、ミイナはそれに敏感に反応した。

「こ、恋人……ですか?」
「ああいや、友人の恋人」
「な、なるほど」

 ミイナはそこでほっと安堵している自分に気付いて戸惑う。
 どうしてそんなことを聞いたのか、半ば答えは浮かびつつも、彼女は分からないふりを決め込んだ。

「僕は……そうだね。今ここに、恋人はいないよ」
「……そうなん、ですね」
「うん」

 薄々は、ミイナも理解していた。
 ミオが流刻園に来た理由――ドールを止めようとしている理由は、彼の経験ゆえの思いなのだから。
 大切な者を奪われる悲しみ。その連鎖を断ち切るために、彼は行動している。
 だから彼もまた、大切な者を降霊術が絡んだ事件で、喪ったのだ。

「さ、行こう。僕の家に」
「……はい、ミオさん」

 近いようで遠い。
 それを感じながらも、ミイナは隣り合って歩いた。
 自分の存在が、いつか彼を癒せるかもしれないじゃないかと、思いながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか―― 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。 鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。 古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。 オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。 ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。 ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。 ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。 逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

【恋愛ミステリ】エンケージ! ーChildren in the bird cageー

至堂文斗
ライト文芸
【完結済】  野生の鳥が多く生息する山奥の村、鴇村(ときむら)には、鳥に関する言い伝えがいくつか存在していた。  ――つがいのトキを目にした恋人たちは、必ず結ばれる。  そんな恋愛を絡めた伝承は当たり前のように知られていて、村の少年少女たちは憧れを抱き。  ――人は、死んだら鳥になる。  そんな死後の世界についての伝承もあり、鳥になって大空へ飛び立てるのだと信じる者も少なくなかった。  六月三日から始まる、この一週間の物語は。  そんな伝承に思いを馳せ、そして運命を狂わされていく、二組の少年少女たちと。  彼らの仲間たちや家族が紡ぎだす、甘く、優しく……そしてときには苦い。そんなお話。  ※自作ADVの加筆修正版ノベライズとなります。   表紙は以下のフリー素材、フリーフォントをお借りしております。   http://sozai-natural.seesaa.net/category/10768587-1.html   http://www.fontna.com/blog/1706/

牛の首チャンネル

猫じゃらし
ホラー
どうもー。『牛の首チャンネル』のモーと、相棒のワンさんです。ご覧いただきありがとうございます。 このチャンネルは僕と犬のぬいぐるみに取り憑かせた幽霊、ワンさんが心霊スポットに突撃していく動画を投稿しています。 怖い現象、たくさん起きてますので、ぜひ見てみてくださいね。 心霊写真特集もやりたいと思っていますので、心霊写真をお持ちの方はコメント欄かDMにメッセージをお願いします。 よろしくお願いしまーす。 それでは本編へ、どうぞー。 ※小説家になろうには「牛の首」というタイトル、エブリスタには「牛の首チャンネル」というタイトルで投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

クリスマス当日の愛妻弁当

三谷朱花
ホラー
クリスマス当日の愛妻弁当。きっと、クリスマスパーティーの残り物が入っているだけだ。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...