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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
十二話 「思ったとおりだったわけだ」
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二〇一四年六月八日、十三時。
伍横町南西部。
晴れ渡る空の下、一人の青年と一人の少女が、何やら深刻そうな面持ちで話し合っていた。
「……やっぱり、思ったとおりだったわけだ」
青年――円藤美央は、口元に手を当てながら呟く。
「大丈夫? ミイナちゃん」
「……はい、私は全然」
名を呼ばれた少女――新垣美衣奈は、少し慌てた様子で答えた。
「でも、まさかエイコちゃんの体がね……」
「……うん」
ミオとミイナの二人は、流刻園で起きた凄惨な事件をきっかけに出会い、その後ドールによる計画を止めるべく活動を続けていた。
ミオが得た情報によれば、ドールが何らかの行動を起こそうとしているのが六月九日ということで、その前日を期限として情報収集に奔走していたのだ。
そして今日、こうして待ち合わせた二人は、互いに集めた情報を一先ず伝えあっていた。
その中でも際立って重要に思われたものが一つあったのだ。
「ドールは、各地で降霊術による事件を引き起こしていたけど、その傍ら……事件の犠牲者から体の一部を奪い去っていたんだね」
「みたいですね」
流刻園での犠牲者、吉元詠子。
事件後に警察と救急隊が入り、彼女の遺体を回収したわけだが……その体は完全なものではなかったという。
彼女の体は、その大部分が欠損していたのだ。
「まあ、詳しい話は集まりの席でまたするとしよう」
「了解です」
これからミオたちは、ドールの計画を止めたいという思いに賛同してくれた、言わば協力者たちと集まり、話し合う段取りになっていた。
むしろ言い出したのはミオではあるが、ブレーンと成り得る人物は他に何人もいるほどに、頼もしい者たちばかりだ。
そんな頼もしい協力者たちには、ミオの家に集まってもらうことにして。
彼はミイナを集まりに加えるべく、迎えに来たという次第だった。
「そうそう、初対面の人も多いだろうけど、そのあたりも大丈夫かな?」
「心配いりませんって。私、社交的なんですから」
「……ふふ、アキノちゃんみたいな子だな」
ミオからすれば、自然に思い浮かんだ名前だったのだが、ミイナはそれに敏感に反応した。
「こ、恋人……ですか?」
「ああいや、友人の恋人」
「な、なるほど」
ミイナはそこでほっと安堵している自分に気付いて戸惑う。
どうしてそんなことを聞いたのか、半ば答えは浮かびつつも、彼女は分からないふりを決め込んだ。
「僕は……そうだね。今ここに、恋人はいないよ」
「……そうなん、ですね」
「うん」
薄々は、ミイナも理解していた。
ミオが流刻園に来た理由――ドールを止めようとしている理由は、彼の経験ゆえの思いなのだから。
大切な者を奪われる悲しみ。その連鎖を断ち切るために、彼は行動している。
だから彼もまた、大切な者を降霊術が絡んだ事件で、喪ったのだ。
「さ、行こう。僕の家に」
「……はい、ミオさん」
近いようで遠い。
それを感じながらも、ミイナは隣り合って歩いた。
自分の存在が、いつか彼を癒せるかもしれないじゃないかと、思いながら。
伍横町南西部。
晴れ渡る空の下、一人の青年と一人の少女が、何やら深刻そうな面持ちで話し合っていた。
「……やっぱり、思ったとおりだったわけだ」
青年――円藤美央は、口元に手を当てながら呟く。
「大丈夫? ミイナちゃん」
「……はい、私は全然」
名を呼ばれた少女――新垣美衣奈は、少し慌てた様子で答えた。
「でも、まさかエイコちゃんの体がね……」
「……うん」
ミオとミイナの二人は、流刻園で起きた凄惨な事件をきっかけに出会い、その後ドールによる計画を止めるべく活動を続けていた。
ミオが得た情報によれば、ドールが何らかの行動を起こそうとしているのが六月九日ということで、その前日を期限として情報収集に奔走していたのだ。
そして今日、こうして待ち合わせた二人は、互いに集めた情報を一先ず伝えあっていた。
その中でも際立って重要に思われたものが一つあったのだ。
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「みたいですね」
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彼女の体は、その大部分が欠損していたのだ。
「まあ、詳しい話は集まりの席でまたするとしよう」
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むしろ言い出したのはミオではあるが、ブレーンと成り得る人物は他に何人もいるほどに、頼もしい者たちばかりだ。
そんな頼もしい協力者たちには、ミオの家に集まってもらうことにして。
彼はミイナを集まりに加えるべく、迎えに来たという次第だった。
「そうそう、初対面の人も多いだろうけど、そのあたりも大丈夫かな?」
「心配いりませんって。私、社交的なんですから」
「……ふふ、アキノちゃんみたいな子だな」
ミオからすれば、自然に思い浮かんだ名前だったのだが、ミイナはそれに敏感に反応した。
「こ、恋人……ですか?」
「ああいや、友人の恋人」
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だから彼もまた、大切な者を降霊術が絡んだ事件で、喪ったのだ。
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「……はい、ミオさん」
近いようで遠い。
それを感じながらも、ミイナは隣り合って歩いた。
自分の存在が、いつか彼を癒せるかもしれないじゃないかと、思いながら。
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