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第三部【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】

十三話 三度

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「……ふと、気になったんですけど」

 石造りの階段を上り、用具室へと戻ってきたオレたちは、廊下へ出ようと足の踏み場のない室内で何とか足を動かしつつ、言葉を交わしている。

「根拠はあまりないんですが、あの音楽室の女性を……どこかで見たような気がして」
「……というと?」
「いや、学長のね……」

 生徒たちが帰った後、時折音楽室でピアノの音色を奏でていた女性。既に亡くなっている女性。
 その条件で考えていくと、該当するのは彼女くらいしかいないのだ。
 病によってこの世を去った、流谷刻雄の娘……。

「そういえば、学長の像を掃除するのは娘さんの日課だったと言ってもいいし、像の不思議に関して否定的だったのも、それならなんとなく分からなくもない……」

 だとすれば、彼女は二つの不思議に関わる人物ということになる。
 呪われた像と音楽室の少女という、二つの不思議に。

「ううん、流谷家の『お嬢さん』が三神院で亡くなったのは知ってるんだけど……あれが彼女ということなのかな。しかし、それならどうしてここに……」
「……三神院?」

 伍横町にそういう病院があることは知っているが、彼女が病院で亡くなったというのは聞いた覚えがない。

「確か、娘さんはこの学校で、病気で死んだんじゃなかったっけな……」

 用具室のスライドドアを開き、外へ出ようと思った、そのとき。
 突然襲いかかった冷気に身を震わせ、咄嗟に視線を廊下へ向けると――そこには、新たな怪物の姿があった。

「あ、あれは……暴走した霊か……!」
「お、恐ろしい霊が多すぎるだろ、いくらなんでも……!」

 青と赤のゾンビのような怪物に、蜘蛛のような怪物。
 そして今目の前に現れたのは、悪魔のような漆黒の翼を纏う、女の怪物……。
 何故性別が分かるのか。それは単純に体つきと髪の長さだ。赤と緑という奇妙な色合いになった髪は背中まで伸びており、風も無いのにひらひらと揺れている。顔は最初に出会った怪物と同じく、やはり真っ黒に染まっている。

「あの霊……ひょっとして、三年一組で死んでいた子……?」

 女性の悪霊というので、ミオさんが霊の本体について思い当たるところがあったらしい。
 オレは目が覚めてから三年一組には行っていないので知らないが、そこでも誰かが死んでいた……ということか。
 時系列的に、間違いなくミイちゃんではないのだが、女子生徒が死んでいたというのはやはりショックだ。
 三年一組に死体があるなら、上級生の可能性が高いか。
 あまり知っている人は多くないが、顔見知りの先輩だったら辛いな。


「……ちょうど、清めの水を汲んできたところだ。三年一組にいた子が悪霊化しているのなら、浄化することができる」
「そうすれば、音楽室にいた彼女のように話が出来たり……?」
「可能性はある。賭けかもしれないけど、行ってみよう!」
「は、はい……分かりました!」

 ミオさんが走り出すのに続き、オレも全速力で三階まで階段を上っていった。
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