78 / 176
第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
二十七話 世界の修復と崩壊(記憶世界)
しおりを挟む
「……ちょっとだけ、現実の世界を見せられる力はあったみたい。魂はもうほとんど回復してるね」
モノクロの世界で、私とアキノは二人、色のついた現実の世界を見下ろしていた。
滅茶苦茶に欠け落ちた部屋はこちら側とあちら側の境目のようになっていて、大穴の中に現実世界の映像が映し出されていたのだった。
「ありがと、アキノ。最期にミオくんたちの姿を見れて嬉しかったよ」
「……うん」
本心から答えたのだが、やはり強がっているように思われたのだろう。アキノは悲しそうに眉をひそめる。
「ツキノお姉ちゃんが現世に行けなかった理由は、もう分かってるよね?」
「私は死んだばかりで、おまけに魂も壊れかけてた」
「そして、この世界に連れて来られていたから、だよ」
「……ここって、私の記憶で作られた世界なんだもんね」
「……お姉ちゃんの魂を回復させる世界、だよ」
あまり違いがあるようには聞こえなかったが、アキノはそう訂正する。
それが大事なことなのかは分からないけど、私にとっては小さな差異だ。
「……私の役目も、あともう少しだ」
「うん……ずっと嘘をついて、苦しい思いをさせて、ごめんね」
「いいんだって。もう気持ちの整理はついたんだから。あとは……この魂をお姉ちゃんに与えて、アキノと二人で……一緒に」
アキノと二人、旅立てるのなら怖くはないと思う。
最後に残ったヨウノお姉ちゃんの役にも立てるのだから。
アキノも同じ気持ちでいてくれると思い、彼女の方を見つめたのだが、どうも彼女の表情は晴れなくて。
どうにかその表情を和らげようと、彼女の頭に手を伸ばそうとしたときだった。
「……あのね、ツキノお姉ちゃん――」
アキノが何かを告げようとするのと同時に。
世界は激しい揺れに襲われ、ガラガラと大量の瓦礫が降り注いできたのだった。
「きゃあッ!?」
咄嗟にアキノを押し倒し、瓦礫を躱す。
衝突の危機は回避できたが――今度は総毛立つような悪寒を感じた。
この感覚は……。
「こんなときに……!」
違う、こんなときだからだ。
全ての記憶が戻ろうとする今だからこそ、恐怖もまたその力を増幅させたのだ。
世界の修復と世界の崩壊は紙一重。
私の魂の力が戻るか戻らないかも、紙一重。
ならば、この最後の試練を乗り越えて。
私は完全な魂をヨウノお姉ちゃんに捧げて逝きたい――。
「お姉ちゃん、病室に向かって! 魂の力を奪われる前に……その力で目を覚まさせて!」
「うん!」
アキノの言葉を受けて。
私は全速力で、これまでの旅路を遡り始めた。
モノクロの世界で、私とアキノは二人、色のついた現実の世界を見下ろしていた。
滅茶苦茶に欠け落ちた部屋はこちら側とあちら側の境目のようになっていて、大穴の中に現実世界の映像が映し出されていたのだった。
「ありがと、アキノ。最期にミオくんたちの姿を見れて嬉しかったよ」
「……うん」
本心から答えたのだが、やはり強がっているように思われたのだろう。アキノは悲しそうに眉をひそめる。
「ツキノお姉ちゃんが現世に行けなかった理由は、もう分かってるよね?」
「私は死んだばかりで、おまけに魂も壊れかけてた」
「そして、この世界に連れて来られていたから、だよ」
「……ここって、私の記憶で作られた世界なんだもんね」
「……お姉ちゃんの魂を回復させる世界、だよ」
あまり違いがあるようには聞こえなかったが、アキノはそう訂正する。
それが大事なことなのかは分からないけど、私にとっては小さな差異だ。
「……私の役目も、あともう少しだ」
「うん……ずっと嘘をついて、苦しい思いをさせて、ごめんね」
「いいんだって。もう気持ちの整理はついたんだから。あとは……この魂をお姉ちゃんに与えて、アキノと二人で……一緒に」
アキノと二人、旅立てるのなら怖くはないと思う。
最後に残ったヨウノお姉ちゃんの役にも立てるのだから。
アキノも同じ気持ちでいてくれると思い、彼女の方を見つめたのだが、どうも彼女の表情は晴れなくて。
どうにかその表情を和らげようと、彼女の頭に手を伸ばそうとしたときだった。
「……あのね、ツキノお姉ちゃん――」
アキノが何かを告げようとするのと同時に。
世界は激しい揺れに襲われ、ガラガラと大量の瓦礫が降り注いできたのだった。
「きゃあッ!?」
咄嗟にアキノを押し倒し、瓦礫を躱す。
衝突の危機は回避できたが――今度は総毛立つような悪寒を感じた。
この感覚は……。
「こんなときに……!」
違う、こんなときだからだ。
全ての記憶が戻ろうとする今だからこそ、恐怖もまたその力を増幅させたのだ。
世界の修復と世界の崩壊は紙一重。
私の魂の力が戻るか戻らないかも、紙一重。
ならば、この最後の試練を乗り越えて。
私は完全な魂をヨウノお姉ちゃんに捧げて逝きたい――。
「お姉ちゃん、病室に向かって! 魂の力を奪われる前に……その力で目を覚まさせて!」
「うん!」
アキノの言葉を受けて。
私は全速力で、これまでの旅路を遡り始めた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか――
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。
鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。
古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。
オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。
ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。
ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。
ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。
逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員
眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。
この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
幾度繰り返そうとも、匣庭は――。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。
舞台は繰り返す。
三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。
変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。
科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。
人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。
信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。
鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。
手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
迷い家と麗しき怪画〜雨宮健の心霊事件簿〜②
蒼琉璃
ホラー
――――今度の依頼人は幽霊?
行方不明になった高校教師の有村克明を追って、健と梨子の前に現れたのは美しい女性が描かれた絵画だった。そして15年前に島で起こった残酷な未解決事件。点と線を結ぶ時、新たな恐怖の幕開けとなる。
健と梨子、そして強力な守護霊の楓ばぁちゃんと共に心霊事件に挑む!
※雨宮健の心霊事件簿第二弾!
※毎回、2000〜3000前後の文字数で更新します。
※残酷なシーンが入る場合があります。
※Illustration Suico様(@SuiCo_0)
御院家さんがゆく‼︎
涼寺みすゞ
ホラー
顔はいい、性格もたぶん。
でも何故か「面白くない」とフラれる善法の前に、ひとりの美少女が現れた。
浮世離れした言動に影のある生い立ち、彼女は密教の隠された『闇』と呼ばれる存在だった。
「秘密を教える――密教って、密か事なんよ? 」
「普段はあり得ないことが バタン、バタン、と重なって妙なことになるのも因縁なのかなぁ? 」
出逢ったのは因縁か? 偶然か?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる