上 下
69 / 176
第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】

十八話 チェス・プロブレム(記憶世界)

しおりを挟む
 二番目の部屋には、チェス盤があった。
 いや、その表現は正しくない。
 正確にはこうだ。
 二番目の部屋は、チェス盤だった。

「盤面に、なってる……」

 白と黒。モノクロの世界でもそれくらいは分かる。
 部屋の床面は板ではなくタイル張りで、それはチェス盤のように白黒交互になっていた。
 更に言えば、チェス盤らしく盤面の上には駒も並んでいる。
 但し、駒は私の身長ほどもある巨大なものだった。

『チェックメイト』

 これはヒントではなく答えのようなものだ。
 つまり、駒を動かしてチェックメイトにすればいいということ。
 盤面を俯瞰することが少し面倒だったけれど、問題自体はそこまで複雑ではなかった。
 たった二手で完結する程度の、易しい謎解きだった。
 白が私、黒が相手。私の手番からの二手詰めだ。
 状況を整理して、私は早速駒を動かし始めた。

「ここをこうして……」

 クイーンを敵陣深くに食い込ませる。
 駒の数は非常に少なく、相手のキングを守る壁はない。
 最奥まで進んだクイーンがチェックをかけ。
 それを防ぐために、黒のナイトがクイーンを取りに来た。

 ――ガギッ!

「ひゃッ!?」

 一瞬の出来事。
 只の駒だと思っていたナイトが、突如クイーンに体当たりを仕掛けたのだ。
 巨大な駒同士が衝突し、激しい音とともにクイーンが砕け散る。
 その残骸の上に、黒のナイトが新たに居座ったのだった。

「……はは……こんなの、滅茶苦茶だ」

 現実じゃない。それは理解している。
 でも……こんなのは、あんまりだった。
 心の奥底で、恐怖が増幅してきている。
 そのことが伝わってきて……私はいつの間にか、手が震えていることに気付いた。

「……もうちょっとなんだ」

 怖いけど、もうちょっとだから。
 私を取り戻すまで、ほんのちょっと。
 自分に言い聞かせるようにして、私は震えを制止する。
 そして、今度はルークを動かし始めた。
 ……サクリファイス。
 犠牲の上に、キングを討ち取る。
 何となく、不穏な感じがした。
 ただの戦略の一つでしか、ない筈なのに。

「――チェックメイト」

 そう宣言した瞬間。
 駒たちは、さっきのぬいぐるみのように塵となって消えた。
 正解すれば、もうこの部屋に意味はなく。
 用済みの部屋は、存在すら許されずに消えていく……。

「……私は」

 私は、このチェスの知識を。
 一体誰から教わったのだっけ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか―― 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。 鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。 古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。 オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。 ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。 ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。 ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。 逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

短な恐怖(怖い話 短編集)

邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。 ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。 なかには意味怖的なお話も。 ※追加次第更新中※ YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕 https://youtube.com/@yuachanRio

相談役秘書

蓮實長治
ホラー
悪い人では無いらしいが……何かがおかしい会社役員の秘書になった姉妹の運命は? 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。 某サイトの「バレンタインデー/ホワイトデーをテーマにしたホラー」の企画向けに投稿したものの転載です。

となりの音鳴さん

翠山都
ホラー
 新たに引っ越してきたコーポ強井の隣室、四〇四号室には音鳴さんという女性が住んでいる。背が高くて痩身で、存在感のあまりない、名前とは真逆な印象のもの静かな女性だ。これまでご近所トラブルに散々悩まされてきた私は、お隣に住むのがそんな女性だったことで安心していた。  けれども、その部屋に住み続けるうちに、お隣さんの意外な一面が色々と見えてきて……?  私とお隣さんとの交流を描くご近所イヤミス風ホラー。

骸行進

メカ
ホラー
筆者であるメカやその周囲が経験した(あるいは見聞きした)心霊体験について 綴ろうと思います。 段落ごと、誰の経験なのかなど、分かりやすい様に纏めます。

ホラーの詰め合わせ

斧鳴燈火
ホラー
怖い話の短編集です

処理中です...