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第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
十八話 チェス・プロブレム(記憶世界)
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二番目の部屋には、チェス盤があった。
いや、その表現は正しくない。
正確にはこうだ。
二番目の部屋は、チェス盤だった。
「盤面に、なってる……」
白と黒。モノクロの世界でもそれくらいは分かる。
部屋の床面は板ではなくタイル張りで、それはチェス盤のように白黒交互になっていた。
更に言えば、チェス盤らしく盤面の上には駒も並んでいる。
但し、駒は私の身長ほどもある巨大なものだった。
『チェックメイト』
これはヒントではなく答えのようなものだ。
つまり、駒を動かしてチェックメイトにすればいいということ。
盤面を俯瞰することが少し面倒だったけれど、問題自体はそこまで複雑ではなかった。
たった二手で完結する程度の、易しい謎解きだった。
白が私、黒が相手。私の手番からの二手詰めだ。
状況を整理して、私は早速駒を動かし始めた。
「ここをこうして……」
クイーンを敵陣深くに食い込ませる。
駒の数は非常に少なく、相手のキングを守る壁はない。
最奥まで進んだクイーンがチェックをかけ。
それを防ぐために、黒のナイトがクイーンを取りに来た。
――ガギッ!
「ひゃッ!?」
一瞬の出来事。
只の駒だと思っていたナイトが、突如クイーンに体当たりを仕掛けたのだ。
巨大な駒同士が衝突し、激しい音とともにクイーンが砕け散る。
その残骸の上に、黒のナイトが新たに居座ったのだった。
「……はは……こんなの、滅茶苦茶だ」
現実じゃない。それは理解している。
でも……こんなのは、あんまりだった。
心の奥底で、恐怖が増幅してきている。
そのことが伝わってきて……私はいつの間にか、手が震えていることに気付いた。
「……もうちょっとなんだ」
怖いけど、もうちょっとだから。
私を取り戻すまで、ほんのちょっと。
自分に言い聞かせるようにして、私は震えを制止する。
そして、今度はルークを動かし始めた。
……サクリファイス。
犠牲の上に、キングを討ち取る。
何となく、不穏な感じがした。
ただの戦略の一つでしか、ない筈なのに。
「――チェックメイト」
そう宣言した瞬間。
駒たちは、さっきのぬいぐるみのように塵となって消えた。
正解すれば、もうこの部屋に意味はなく。
用済みの部屋は、存在すら許されずに消えていく……。
「……私は」
私は、このチェスの知識を。
一体誰から教わったのだっけ……。
いや、その表現は正しくない。
正確にはこうだ。
二番目の部屋は、チェス盤だった。
「盤面に、なってる……」
白と黒。モノクロの世界でもそれくらいは分かる。
部屋の床面は板ではなくタイル張りで、それはチェス盤のように白黒交互になっていた。
更に言えば、チェス盤らしく盤面の上には駒も並んでいる。
但し、駒は私の身長ほどもある巨大なものだった。
『チェックメイト』
これはヒントではなく答えのようなものだ。
つまり、駒を動かしてチェックメイトにすればいいということ。
盤面を俯瞰することが少し面倒だったけれど、問題自体はそこまで複雑ではなかった。
たった二手で完結する程度の、易しい謎解きだった。
白が私、黒が相手。私の手番からの二手詰めだ。
状況を整理して、私は早速駒を動かし始めた。
「ここをこうして……」
クイーンを敵陣深くに食い込ませる。
駒の数は非常に少なく、相手のキングを守る壁はない。
最奥まで進んだクイーンがチェックをかけ。
それを防ぐために、黒のナイトがクイーンを取りに来た。
――ガギッ!
「ひゃッ!?」
一瞬の出来事。
只の駒だと思っていたナイトが、突如クイーンに体当たりを仕掛けたのだ。
巨大な駒同士が衝突し、激しい音とともにクイーンが砕け散る。
その残骸の上に、黒のナイトが新たに居座ったのだった。
「……はは……こんなの、滅茶苦茶だ」
現実じゃない。それは理解している。
でも……こんなのは、あんまりだった。
心の奥底で、恐怖が増幅してきている。
そのことが伝わってきて……私はいつの間にか、手が震えていることに気付いた。
「……もうちょっとなんだ」
怖いけど、もうちょっとだから。
私を取り戻すまで、ほんのちょっと。
自分に言い聞かせるようにして、私は震えを制止する。
そして、今度はルークを動かし始めた。
……サクリファイス。
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駒たちは、さっきのぬいぐるみのように塵となって消えた。
正解すれば、もうこの部屋に意味はなく。
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「……私は」
私は、このチェスの知識を。
一体誰から教わったのだっけ……。
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