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第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
八話 心の中に潜むもの(記憶世界)
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「むう……どうしよう」
届かない木箱を、私はただ呆然と見ているしかなかった。
けれど、ふいにその木箱が仄かな光を発し始めた。
「え……?」
戸惑っている間にも、木箱は更なる動きを見せる。
本棚からふわりと浮き上がり、そしてゆっくりとこちらへ向かって下降を始めたのだ。
今度は驚きによって動けないでいる私。そんな私に、木箱は追い討ちをかけるように突然落下してきたのだった。
「痛っ」
ちょうど頭頂部あたりに木箱が直撃する。……角じゃなかったからまだ良かったが、それでもやっぱり結構痛い。
「うー……落ちてきた……」
「そのようですね」
痛みに頭を摩りながら、私は落ちた木箱を拾い上げる。
そして、先へ進むためのキーアイテムがないものかと調べてみた。
何枚かの写真。今より幼いころのものばかりだが、恐らくは私が映っているのだろう。
時には妹たちとともに、時には友人たちとともに。明るい笑顔を浮かべていた。
それから、目立つものといえば日記帳か。
「陽乃って書いてるんだから、私のよね……」
軽い気持ちでそれを手に取り最初のページを開いてみたのだが、そこには思春期の乙女らしい、恋に揺れ動く思いが赤裸々に記されていて、少し文章をなぞっただけで顔が紅潮していくのをハッキリ感じた。
「……わ、私……こんな恥ずかしい文章書いてたの?」
「……ふふっ……」
「あ、今笑ったでしょ!」
「い、いえ。気にしないでください」
「するよ、そんなこと言われても……」
というか、人の日記を横目に見ないでほしいものだ。元より内容は知っていたのかもしれないけれど……はあ、恥ずかしい。
思い出せもしない過去からこんな爆弾が飛んでくるとは、油断ならないものだ。
死者というものは案外、自分の死後自宅に戻って、恥ずかしい思いをしているのかもしれない。
「……あ、鍵が入ってる。とりあえずこれで、あの扉を開けられるよね」
日記のことは忘れることにして、取り出した鍵をエオスに見せる。
「ええ、だと思います」
確定的な言い方ではなかったが、彼女もそう言ってくれたし、とにかく試してみることにしよう。
木箱は近くの机に置いておき、私たちは施錠されていた扉へ向かった。
小さな鍵穴に、木箱に入っていた鍵を挿し込む。抵抗なく奥まで入ったので、これで間違いないだろう。
ガチャリと、解錠の手応え。
ノブを回すと、扉はすんなりと開いた。
「よし……先へ進もうか」
「はい、そうしましょう」
二人、笑顔を浮かべながら部屋を出て。
そこからはまた、長い廊下が続いていた。
ここも変わらず、床がひび割れていたり、奇妙なところに壁があって視界が遮られたりしている。
しかし、廊下なので先ほどの部屋よりも置物は少なく、あっても観葉植物程度だった。
「ここはそのまま進んでいけばいいかな」
「特にギミックはないかと……」
先の方を見やりながら、エオスは呟く。
彼女がそう言うなら大丈夫かと、私は一歩踏み出そうとしたのだが、その瞬間に場の空気が変わった気がした。
……何だろう?
「――あ……」
「ど、どうしたの?」
特に問題はないと口にしたはずの彼女だが、その表情が見る見るうちに蒼白になっていく。
今の僅かな間に、状況が一変したことは明らかだった。
……何が変わったのか。空気が淀んだように感じるのは間違いない。
「……嫌な気配が。殺気がこもっているというか……」
「殺気って……」
この記憶の世界に、殺気を放つ何らかの存在があるということなのか。
その存在が、どうやらこの廊下に来てしまったと。
私は恐る恐る廊下を進んでいき……それから、突き出した壁に隠れるようにして、こっそりと前方を覗き見る。
するとそこには、人間の形をした真っ黒い影のようなものが立っていた。
届かない木箱を、私はただ呆然と見ているしかなかった。
けれど、ふいにその木箱が仄かな光を発し始めた。
「え……?」
戸惑っている間にも、木箱は更なる動きを見せる。
本棚からふわりと浮き上がり、そしてゆっくりとこちらへ向かって下降を始めたのだ。
今度は驚きによって動けないでいる私。そんな私に、木箱は追い討ちをかけるように突然落下してきたのだった。
「痛っ」
ちょうど頭頂部あたりに木箱が直撃する。……角じゃなかったからまだ良かったが、それでもやっぱり結構痛い。
「うー……落ちてきた……」
「そのようですね」
痛みに頭を摩りながら、私は落ちた木箱を拾い上げる。
そして、先へ進むためのキーアイテムがないものかと調べてみた。
何枚かの写真。今より幼いころのものばかりだが、恐らくは私が映っているのだろう。
時には妹たちとともに、時には友人たちとともに。明るい笑顔を浮かべていた。
それから、目立つものといえば日記帳か。
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軽い気持ちでそれを手に取り最初のページを開いてみたのだが、そこには思春期の乙女らしい、恋に揺れ動く思いが赤裸々に記されていて、少し文章をなぞっただけで顔が紅潮していくのをハッキリ感じた。
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「……ふふっ……」
「あ、今笑ったでしょ!」
「い、いえ。気にしないでください」
「するよ、そんなこと言われても……」
というか、人の日記を横目に見ないでほしいものだ。元より内容は知っていたのかもしれないけれど……はあ、恥ずかしい。
思い出せもしない過去からこんな爆弾が飛んでくるとは、油断ならないものだ。
死者というものは案外、自分の死後自宅に戻って、恥ずかしい思いをしているのかもしれない。
「……あ、鍵が入ってる。とりあえずこれで、あの扉を開けられるよね」
日記のことは忘れることにして、取り出した鍵をエオスに見せる。
「ええ、だと思います」
確定的な言い方ではなかったが、彼女もそう言ってくれたし、とにかく試してみることにしよう。
木箱は近くの机に置いておき、私たちは施錠されていた扉へ向かった。
小さな鍵穴に、木箱に入っていた鍵を挿し込む。抵抗なく奥まで入ったので、これで間違いないだろう。
ガチャリと、解錠の手応え。
ノブを回すと、扉はすんなりと開いた。
「よし……先へ進もうか」
「はい、そうしましょう」
二人、笑顔を浮かべながら部屋を出て。
そこからはまた、長い廊下が続いていた。
ここも変わらず、床がひび割れていたり、奇妙なところに壁があって視界が遮られたりしている。
しかし、廊下なので先ほどの部屋よりも置物は少なく、あっても観葉植物程度だった。
「ここはそのまま進んでいけばいいかな」
「特にギミックはないかと……」
先の方を見やりながら、エオスは呟く。
彼女がそう言うなら大丈夫かと、私は一歩踏み出そうとしたのだが、その瞬間に場の空気が変わった気がした。
……何だろう?
「――あ……」
「ど、どうしたの?」
特に問題はないと口にしたはずの彼女だが、その表情が見る見るうちに蒼白になっていく。
今の僅かな間に、状況が一変したことは明らかだった。
……何が変わったのか。空気が淀んだように感じるのは間違いない。
「……嫌な気配が。殺気がこもっているというか……」
「殺気って……」
この記憶の世界に、殺気を放つ何らかの存在があるということなのか。
その存在が、どうやらこの廊下に来てしまったと。
私は恐る恐る廊下を進んでいき……それから、突き出した壁に隠れるようにして、こっそりと前方を覗き見る。
するとそこには、人間の形をした真っ黒い影のようなものが立っていた。
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