上 下
43 / 176
第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】

四十話 全ての幸せと、全ての不幸の始まり

しおりを挟む
 小学校での最初の一日が終わって。
 人気の無くなった教室に、三人の子どもだけが残っていた。
 一人の男の子と、二人の女の子。
 それは、出会いの光景だった。

「なつのちゃん、だよね? はじめまして。私、のりづきはるなっていうの。友だち百人作りたいんだ、仲良くしてね」
「うん! よろしくね、はるなちゃん」
「うーん……はるちゃんって呼んでもいい?」
「もちろん。好きなように呼んでいいよ。その代わり……私もなっちゃんって呼ぶね?」
「はるちゃん、なっちゃんだね。春と夏みたいで仲良くなれそう」
「ほんとだねー」

 無垢なやりとり。それを微笑ましく見つめながらも、自分が入るタイミングを掴めない男の子は立ち尽くしている。
 だから、そんな男の子をフォローするように、ハルナは彼をナツノの前に押し出した。

「あっ……あの、ぼくもはじめまして。今日から……よろしくね」
「うん、よろしくね!」

 男の子が戸惑っているのを面白がりながら、ナツノは手を差し出す。
 彼はその行動にもっと戸惑ってしまったが、やがておずおずと握手を交わした。

「この子とは、幼稚園で一緒だったの。大人しい子だけど、この子とも仲良くしてあげてね!」
「そうなんだ。でも、私はそういうこの方が好きだよ。男の子ってうるさい子が多いもん」
「え……えっと、あの。ありがと、なつのちゃん」
「うん。ええっとー……まやくん、だよね!」

 ナツノはどこかで目にしたのだろう、彼の名前を呼ぶ。
 しかし、まやくんと呼ばれた男の子は悲しそうに俯いた。

「あう……よお」
「あれれ? マキおじさんと同じ漢字だったのになあ」

 おかしいな、と言う風にナツノは大げさに首を傾げる。そこでハルナが自慢げになって、

「ふふ、同じ漢字でも、読み方が違うんだよー」
「ううん、漢字って難しいね。覚えていけるかな? ……まあ、それより。あなたのお名前教えてよ!」

 間違えられたことはショックだったけれど。
 本当の名前を覚えてもらうために、男の子は勇気を振り絞って、大きな声で告げる。

「うん。僕の名前はね――」


 ――それが、全ての始まりだった。
 全ての幸せと、そしてまた、全ての不幸の始まり。
 ……もしも、あのとき彼女がその名を呼ぶことがなければ。
 今日のこの悲劇が幕を上げることもまた、なかったのだろうか――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか―― 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。 鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。 古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。 オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。 ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。 ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。 ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。 逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範
ホラー
 オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。  読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。  (*^^*)  タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。

ホラーの詰め合わせ

斧鳴燈火
ホラー
怖い話の短編集です

二月のお祀り

六道イオリ/剣崎月
ホラー
「ごめん!いま地獄にいて、お祀りに間に合いそうにないから、今回だけ頼みます!」 参考サイト 警視庁Webサイト:https://www.npa.go.jp/index.html 裁判所:https://www.courts.go.jp/index.html 内閣府:https://www.cao.go.jp/ 熊谷さとるのホームページ【移転版】:https://dusklog.fc2.net/

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

処理中です...