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第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】

二十四話 別離

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 今の叫びは――。

「サツキちゃんだ!」
「くそッ、ユリカは動けねえんだぞ!」

 反射的とも言える速さでソウシは廊下へ飛び出した。
 それとほぼ同時に、103号室の扉が開いて中から誰かが出てくる。
 ユリカちゃんではない。顔がすっかり青ざめた、サツキだ。

「み、皆……! 何かが部屋の中に……!」
「何だと!?」

 そんなサツキをほとんど跳ね飛ばすようにして、ソウシは部屋の中へ入っていく。俺たちもすぐに後へ続いた。
 これ以上、罪無き犠牲など出てほしくはないのだ。
 だからどうか無事でいてくれと、そう願って。
 でも――。

「……ユリ、カ……」

 呆然と立ち尽くすソウシ、その掠れた声。
 そして赤く染まったベッド。
 噴き出た血は、周囲の壁まで汚して。
 姿が見えずとも、そのベッドの上に横たわっている彼女の生死はもう、明らかだった。

「嘘――だろ」

 ソウシは、震える足で近づいていく。けれどその足はすぐに萎え、がくりと膝をつき。
 這うようにして傍まで辿り着いた彼は、血に染まるシーツをぐっと握りしめたまま……顔を埋めて、嗚咽した。

「……ユリカ……こんなのって、ねえだろ……」
「ユリカ、ちゃん……」

 ハルナとマヤも、ベッドの上に横たわるユリカちゃんの姿に、言葉を失った。
 目を背けたくなるような、凄惨な光景。
 まるで怪物の巨大な爪にでも引き裂かれたかのように、ユリカちゃんは全身を裂かれて息絶えていた……。
 ふらふらと部屋へ戻ってくるサツキ。そんな彼女に、ソウシはいきなり掴みかかる。

「どうして逃げたんだよ! お前がついててくれれば、ユリカは……助かったかもしれねえのに」
「ごめん、なさい……本当に、ごめんなさい」
「……ソウシ」

 流石に見ていられなくて、俺が間に割って入った。
 そっと掴んでいる手を放すと、ソウシはその手で自身の額を覆う。

「……分かってる。そんなの、出来るわけないのは分かってるんだ」

 その手の間から、ゆっくりと、涙が伝っていた。

「だけどよ、やりきれねえんだ……どうにかユリカを救えなかったのかって、そんなことしか浮かんでこねえんだよ……」

 ソウシの、大切な人。
 数奇な運命を共にした、愛しき少女。
 伝えようとした秘密は届くことのないまま。
 あまりにも無慈悲な結末で、閉ざされて。

「ごめんなさい、ソウシ……」

 暗く、赤く、痛ましいほどの沈黙が下りた部屋の中で。
 サツキの謝罪だけが、いつまでも……いつまでも繰り返された。
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