【連作ホラー】幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー

至堂文斗

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【幻影回忌 ―Regression of GHOST―】

30.桜井令士の推理⑥

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「……事件が繰り返されていると仮定すると、そこには一つの障害がある。それは、ヴァルハラには起動するための承認キーが必要だということだ。ヒカゲさんは、承認キーを人造魂魄の零号……つまり俺に付与したとタクミくんは教えてくれた。じゃあ、俺や製作者のヒカゲさん以外に、ヴァルハラを勝手に起動できるヤツはいるのだろうか? アツカは、俺がいなくともヴァルハラは起動できると確信していたけれど、その確信できる理由というのは何だったのか……。
 実のところ簡単な話だ。承認キーは零号に付与された。それは勿論俺だが、後からもう一人生まれたんだ。そう……零号は魂魄分割されていたんだよ」

 魂魄分割――その名の通り、一つの魂を分割することで存在を分かつ研究だ。
 成功率は非常に低いようだったが、絶対に成功しないというわけではない。ミコちゃん、マコちゃんのような例があるのだから。

「結論付けるに足る情報はあった。ヒカゲさんの残した手紙には、彼が俺の魂魄を持ち出したとき、既に何らかの実験が施されていたとあったし、かつてアツカが人造魂魄を分割したという記録も残されていた。加えてアツカは、俺が片割れだの『善』に偏っているだの、明らかに分割実験を示唆する発言もしていたしな」

 彼女は、自分だけが知っているという優越感からかわざとそうした発言を度々していたのだろう。ただ、言葉が専門的ゆえに、意味が分かるとそこから事実も導き出せてしまったわけだ。

「これで、事件の構造は大体ハッキリした。真犯人はヴァルハラを使える零号の片割れであり、時間遡行を繰り返して何度も事件を起こしていた、というところだ。登場する人物は残らずその真犯人の駒だった。アツカすらも、自分がトップだと思っていたけれど、ただの駒の一つだったんだ。俺たちは皆、台本のあるオハナシの中で演じさせられていた……」

 まるでこの舞台のよう。
 舞台上で演劇をするかのように、俺たちは黒影館や鏡ヶ原、そして鈴音学園で繰り返してきたのだ。
 自分自身が登場人物となる物語を。

「……では、その真犯人は――俺の片割れとは一体誰なのか。ヴァルハラを使い、時間遡行を繰り返した零号の片割れには、誰が該当するのか。考えたよ。考えて、考えて…………それはお前しか、いなかった。お前を最後まで、除外することはできなかった」

 それは違う、そんなはずはないと叫びたくもなった。
 けれど、散らばっていた手掛かりたちは一斉に指し示したのだ。
 蒼木時雨という登場人物を、容赦なく。
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