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【幻影回忌 ―Regression of GHOST―】

29.桜井令士の推理⑤

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 名前を呼ばれて。
 舞台の端、暗がりにいた彼は……シグレは、少しだけ前に歩み出た。
 スポットライトがシグレを照らし……翳った、彼の表情を晒す。
 それは、これまでに見たことのない、彼の偽らざる表情だった。

「……おめでとう。君はようやく真相に辿り着いた。幾つもの終わりを繰り返し、ようやくこの真相に至ってくれたね……レイジ」
「……どうして、お前は」

 問おうとして、けれど指で沈黙を促される。
 それは問うものではないのだと。

「もう、ほとんど分かっているんだろう? だったら……言ってくれれば、いいんだよ。これまでずっとそうしてきたように、最後も格好良いところを見せてよ」

 ……そうだろうな。
 だからこそ、この場所を最後の舞台にしたのだろうから。

「……お前がそれを、望むなら」

 そして、俺は繋いでいく。
 この物語に散りばめられたピースを、嵌め込んでいく。
 彼の望む、探偵役として。

「……黒影館事件から始まる一連の事件で、最も違和感があったのは、その『人工性』だった。つまり、事件がどこまでも上手く進行し過ぎている、ということだ。正直に言えば、計画そのものは杜撰で、お遊び要素も取り入れられて、最後まで完了せずに犯人が露呈しかねない。黒影館も鏡ヶ原も、そんな危うさがあった。なのに事件は、まるで決められた台本に沿って進行するかのように展開された。俺の力不足と言われればそれまでだが、それでもやはり、事件は普通ではなかったと言える。
 ……ところでアツカは、黒影館事件の際にこう口にしていたな。『確か、霧夏邸の事件を参考にしたんだったかな』……と。その台詞は、事件にシナリオがあることを示唆するばかりか、シナリオを考えた別の人間がいることも仄めかしていた。今更になって、その台詞を思い出して……俺はアツカとは別に『事件の作者』がいるという仮説を立てるに至ったんだ」

 心の奥底で引っ掛かるものがあったからこそ、それはアヤちゃんからの出題として表出したのだろう。
 アツカのあの台詞は、事件の構図を暗示する大きな手掛かりだったのだ。

「ただ、事件のシナリオを組み上げた真犯人がいるとして、そいつはどうやって登場人物ひとりひとりの行動まで計算できたのか。単にメチャクチャな切れ者だったのか? それだけで説明をつけていいのか? もちろん、そんなわけはなかった。そこで浮かんでくるのが、一つの荒唐無稽な理論だった。
 ヒカゲさんが放浪の間に仮定し、そして最期に試みた理論……魂魄の時間遡行。そう……真犯人が、時間遡行を繰り返し、何度も事件を教唆していたのなら、誰がどう行動するのかを実際に試して、それをシナリオとすることも出来るんじゃないかと思ったのさ。
 はは、普通はそんな馬鹿なって笑い飛ばす仮説だけどな。それを行える土台は、実は存在していた。理論があり、ヒカゲさんの実証があり、ヴァルハラがあり、そして十分なエネルギーもあった……鈴音町の人間全員の魂魄が。
 二ヶ月の時間遡行、事件を繰り返すには充分だ。考えてみよう……そう思ったよ」

 時間遡行による事件のループ。あり得ないように思えるけれど、シグレは黙って俺の推理を聞いている。
 だから、この道が正しいと信じて進める。それは、探偵と犯人の奇妙な信頼関係なのかもしれなかった。
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