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【幻影回忌 ―Regression of GHOST―】

28.真相

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 体に、ほんの僅かな感覚が戻ってくる。
 関節に痛み。動くことが苦痛ではあるけれど、それゆえにまだ生きていることを実感できた。

 ――ありがとう。

 猶予はそれほど多くない。
 この魂は、あと幾ばくかで消えてなくなるのだろう。
 それでもこの長い事件をきっちりと締め括るまで、消滅するわけにはいかないのだ。
 全てに決着をつけられるのは、俺だけなのだから。

「……アツカ」

 暗く、冷たい実験室。
 巨大な装置――ヴァルハラの前にアツカは倒れている。
 さっきは確認する余裕などなかったが、彼女の死顔は思ったよりも安らかで。
 最後に父と和解し、少しでも気持ちが救われたなら良かったかなと、感傷的な気分になった。

「……行かなくちゃ」

 重たい体を無理矢理動かして。
 俺はエレベーターで、再び上層へと戻っていく。
 誰一人いなくなり、人形の気配すらもなくなった地下施設。
 俺は時間を遡るように上を目指す。
 地下一階、エントランスを抜けて、上り階段をゆっくりと上がる。
 そこから先は鈴音学園の記念ホールだ。
 ……階段を上り切ると、ホール内には薄橙色の照明が点いていた。まるで図ったように舞台の床は音と振動とともに閉じ始め、やがて階段は収納される。
 そうして、舞台は本来の姿を取り戻した。
 観客のいない、静かなホールの中。
 俺は……ずっと、ずっと待ち続けていたその人物と……ようやく、対峙する。

「……なあ、お前はどれくらい待ち続けたんだ?」

 舞台の少し右手側、あえてライトを外したような位置に彼は立つ。
 あくまでも自身は犯人――影なる存在であり、探偵は君なのだと示すように。
 ならばと役目を引き受ける俺の問いに、彼は寂しそうな表情をして、けれどもすぐにそれを隠して答えた。

「……調整しながら、繰り返して。そう……多分三十週くらいは」

 けれど、と彼は笑む。

「決して長い時間ではなかったんだよ」

 そんなわけはない。
 今の言葉を聞く限りでも、彼は途方もない時間を経験してきたはずだった。
 その度に苦しみ、傷つき。けれども繰り返してきたのだ。
 たった一つの終幕を目指して。

「……アツカを止めて全てが解決したのだと、俺は何度も何度も結論づけ、そして消えかけたんだろう。でも……そうじゃなかった。アツカの計画すらも、お前の計画の一部でしかなかったんだ」

 事件の構図を描き、それに沿って登場人物たちを動かす。ああ、それは朗読者というよりも紡ぎ手というのが相応しい。

「最初から最後まで、お前がこの物語の犯人だったんだな」

 そして俺は、数限りない時を超えて指し示す。
 この物語の本当の犯人を。

「……シグレ」
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