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【幻影鏡界 ―Church of GHOST―】
37.急転
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「……行っちゃいました、ね」
光の粒子が消え去った後、シグレが呟く。
「……意外な結末でしたけど、タクミくんが長い束縛……いや、約束から解放されたことは良かったです」
「そうなるまでに、三人もの犠牲が出てしまったことが……彼に、三回も人を殺させてしまったことが、心苦しいけどな」
ランはこの事実を知っていたのだろうか。
迂闊に飛び込むと危険だと知り、弱みを握れそうな人物を集めて操ったのだろうか。
いや、あいつのことだ。そこに遊び心が無かったとは言えない。あいつはきっと何処かで、俺たちが駒として動いていくのを楽しんでいたに違いなかった。
「……酷いやり口だ。こんな救いのない終わり方になって……」
「黒影館のときと同じだ。生き残れたってのに……マジでよ。むなしさしか感じねえな……」
ソウヘイの言には、俺も同感だった。
「……殺されてしまったみんなのことは辛いけれど、感傷に浸っててもしょうがないわ。出ましょう、教会から……この鏡ヶ原から。私たちは、少なくとも生き残れたんだから」
「……そうだな。もうこれで……ゲームは終了だ」
生き残ることができた。その事実を噛み締め、そして死んでいった者たちの思いを背負って、俺たちは進まないといけない。
今は、帰ろう。魂魄を巡る戦いは、きっとまた俺たちに襲い来るだろうから。
せめて、そのときまでは。
――と。
ふいに、どさりと鈍い音がした。何か物が倒れたのかと振り返ると、ソウヘイのすぐ後ろにいたモエカちゃんの姿がなかった。
彼女は、地面に倒れ伏していた。
「えっ……?」
「お、おい!」
ソウヘイが慌てて彼女のそばにしゃがみ込む。うつ伏せに倒れているので表情は分からなかったが、意識はないように見える。
「急にどうして……」
「まさか……コイツが人造魂魄だからなのか?」
そう、肉体はモエカちゃんでも中の魂魄は俺と同じく作られた魂だ。人造魂魄の寿命は短いと研究結果が出ている以上、急に異常が現れてもおかしくはないが……こんなときに?
「……息はある」
呼吸と脈を確認していたソウヘイは、そう言って立ち上がる。
「なあ、ソウヘイ。二人はずっと一緒だったんだよな? 何か兆候みたいなものはなかったのか?」
「いや、俺は一人で教会に来たんだ。こいつには近くで待っていてほしいって伝えてたんだが……」
「……でも、教会の中にいた」
事件は、間違いなく解決した。
ここで起きた殺人劇には、全て説明がつけられたはずだ。
でも、何かが引っ掛かる。
それは推理ではなく、どこか直観染みたもので――。
「なあ」
ソウヘイ、と続けようとして。
顔を上げた俺は、彼の後ろに人影を見た。
「……え?」
刹那。
こちらを向いていたソウヘイの胸を、鋭い刃が突き破り。
現れた刃の先端を中心に、深紅の血が衣服に滲んでいく。
「……は……?」
驚愕のあまり目を見開いたまま。
自身に何が起きたのか、その胸元を探るように手を動かしながら。
ソウヘイは……ゆっくりと崩れ落ちた。
「ソウヘイぃいッ!」
鈍い音とともに、彼は地面に倒れ伏す。そこからはやはり、赤い血が広がっていく。
倒れた彼の後ろに立っていたのは……他ならぬ、モエカちゃんだった。
「ど……どう、して……」
シグレが声を震わせる。本当に、どうして?
彼女はどこに隠していたのか、幅広のナイフをしっかりと両手で握り締めていた。
「おいソウヘイ、しっかりしろ!」
倒れたソウヘイの下に駆け寄りながら、俺は彼女を睨み、
「……お前……」
……その目が、虚ろであることを理解した。
光の粒子が消え去った後、シグレが呟く。
「……意外な結末でしたけど、タクミくんが長い束縛……いや、約束から解放されたことは良かったです」
「そうなるまでに、三人もの犠牲が出てしまったことが……彼に、三回も人を殺させてしまったことが、心苦しいけどな」
ランはこの事実を知っていたのだろうか。
迂闊に飛び込むと危険だと知り、弱みを握れそうな人物を集めて操ったのだろうか。
いや、あいつのことだ。そこに遊び心が無かったとは言えない。あいつはきっと何処かで、俺たちが駒として動いていくのを楽しんでいたに違いなかった。
「……酷いやり口だ。こんな救いのない終わり方になって……」
「黒影館のときと同じだ。生き残れたってのに……マジでよ。むなしさしか感じねえな……」
ソウヘイの言には、俺も同感だった。
「……殺されてしまったみんなのことは辛いけれど、感傷に浸っててもしょうがないわ。出ましょう、教会から……この鏡ヶ原から。私たちは、少なくとも生き残れたんだから」
「……そうだな。もうこれで……ゲームは終了だ」
生き残ることができた。その事実を噛み締め、そして死んでいった者たちの思いを背負って、俺たちは進まないといけない。
今は、帰ろう。魂魄を巡る戦いは、きっとまた俺たちに襲い来るだろうから。
せめて、そのときまでは。
――と。
ふいに、どさりと鈍い音がした。何か物が倒れたのかと振り返ると、ソウヘイのすぐ後ろにいたモエカちゃんの姿がなかった。
彼女は、地面に倒れ伏していた。
「えっ……?」
「お、おい!」
ソウヘイが慌てて彼女のそばにしゃがみ込む。うつ伏せに倒れているので表情は分からなかったが、意識はないように見える。
「急にどうして……」
「まさか……コイツが人造魂魄だからなのか?」
そう、肉体はモエカちゃんでも中の魂魄は俺と同じく作られた魂だ。人造魂魄の寿命は短いと研究結果が出ている以上、急に異常が現れてもおかしくはないが……こんなときに?
「……息はある」
呼吸と脈を確認していたソウヘイは、そう言って立ち上がる。
「なあ、ソウヘイ。二人はずっと一緒だったんだよな? 何か兆候みたいなものはなかったのか?」
「いや、俺は一人で教会に来たんだ。こいつには近くで待っていてほしいって伝えてたんだが……」
「……でも、教会の中にいた」
事件は、間違いなく解決した。
ここで起きた殺人劇には、全て説明がつけられたはずだ。
でも、何かが引っ掛かる。
それは推理ではなく、どこか直観染みたもので――。
「なあ」
ソウヘイ、と続けようとして。
顔を上げた俺は、彼の後ろに人影を見た。
「……え?」
刹那。
こちらを向いていたソウヘイの胸を、鋭い刃が突き破り。
現れた刃の先端を中心に、深紅の血が衣服に滲んでいく。
「……は……?」
驚愕のあまり目を見開いたまま。
自身に何が起きたのか、その胸元を探るように手を動かしながら。
ソウヘイは……ゆっくりと崩れ落ちた。
「ソウヘイぃいッ!」
鈍い音とともに、彼は地面に倒れ伏す。そこからはやはり、赤い血が広がっていく。
倒れた彼の後ろに立っていたのは……他ならぬ、モエカちゃんだった。
「ど……どう、して……」
シグレが声を震わせる。本当に、どうして?
彼女はどこに隠していたのか、幅広のナイフをしっかりと両手で握り締めていた。
「おいソウヘイ、しっかりしろ!」
倒れたソウヘイの下に駆け寄りながら、俺は彼女を睨み、
「……お前……」
……その目が、虚ろであることを理解した。
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