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【幻影鏡界 ―Church of GHOST―】
29.目的
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「あのモエカちゃんが人造魂魄だったなんて……本当のこと、なんでしょうか」
「……分からねえ……こんな次から次へと、理解できないことばっかり言われて……それを一体……どう受け止めればいいって言うんだ」
「……レイジくん……」
無意識に、頭を抱えている自分がいた。
黒影館のときのように、その策略の全てを見通すことができたなら。
如何に真実が残酷だろうと、これ以上の悲劇は止められる、はずなのに。
悔しさに歯を食い縛る。
するとそのとき、ふいに俺の肩に手が置かれた。
「大丈夫です。僕は……レイジくんなら解けるって、知ってますから」
「……買いかぶりすぎだよ、シグレ」
「そんなことないですよ」
自分だって怖いはずなのに、シグレは精一杯の笑みで俺を励ましてくれる。
少しだけ引き攣った笑顔。でも、シグレのそんな健気さが胸に沁みた。
「黒影館のときだって、そうじゃないですか。レイジくんがおかしいと思うところ……それを繋げていけばきっと、何か分かるに違いないです」
「シグレ……」
落ち着いて、と励ましの声。
シグレが隣にいてくれることが支えになっていることを、俺は今更ながら感じた。
そうだ。この状況に混乱していたとは言え、俺が一貫して疑問を抱いていた事柄はそう多くない。俺が招待客に対して抱いていた疑問は、たった二つだけなのだ。
素性と、目的。端的に言えばこれだけが、求めていた手掛かりだった。
素性については、全てがGHOSTに繋がっていたことがもう分かっている。橘姉妹は魂魄分割の被害者であり、マキバさんは日下班の元研究員。そしてモエカちゃんは……人造魂魄。
では……そんな彼らがここに集まった目的は?
それは実のところ、予想がついていることなんじゃないのか……?
――燃やされた紙。
「……招待状だ!」
「ひゃっ!」
「あ、ごめんシグレ」
いきなり声を上げたので、隣で見守っていたシグレを驚かせてしまう。すぐに謝って、俺は今思いついたことを彼に話した。
「マキバさん、招待状をどこかに持ってたりしねえか?」
「え、えと……調べて、みますか?」
「ああ……悪い。俺が探すよ」
死体の懐を調べてくれなんて、シグレに頼んじゃいけないな。
俺はそっとマキバさんの体勢を整えると、服やズボンのポケットを慎重に調べていった。
「……あった!」
一度は丸められたのか、皺くちゃになった一枚の便箋。
その色味こそ淡く明るいものではあるが、内容はきっと程遠いものに違いない。
「……マコちゃんたちは招待状を焼いて処分しようとした。そこには知られてはいけない何かが書かれていたからだ。そして、この一角荘へやってきた……ミコちゃんの魂魄を取り戻すチャンスがあると考えてさ」
「ま、まさか……」
なんて最悪な招待状だろう。
それは最早、招待と呼べるものではない。
「あの……性悪女……!」
腑が煮え繰り返るようだった。
そこには、あまりにも非情な文章が書き連ねられていた。
要約すると、内容はこうだ。
鏡ヶ原に隠された宝と引き換えに、家族を解放する。但し、このことは誰にも告げてはならない。告げた時点でゲームオーバー、命はないと思え……。
「……分かったよ、シグレ。この閉ざされた鏡ヶ原の中では、大切な者の命を賭けたゲームが……最低なゲームが、行われてたんだ」
「……つまり」
「ここに来た四人……というか三人は、皆一つの目的のために動いていたんだな」
「ええ……他の誰にもバレないように。他の誰かも同じ状況だろうとは、推測しつつも」
悲しい思い出しかないこの鏡ヶ原に、それでも集まる理由。
そんなものはきっと、自分と同じでしかないと皆察していたはずだ。
「マコちゃんは妹であるミコちゃんの魂魄を取り戻せると信じ、マキバさんは大切な家族を取り戻せると信じ、そして恐らくモエカちゃんの中の人造魂魄は……本物のモエカちゃんを取り戻せると信じて」
「招待状では宝だとぼかされていますけど、全員が大切なもののために探していたのは恐らく、装置のパーツですよね」
「そうだろうな。マキバさんなんかはきっと途中で気付いたはずだ。それでも……家族を守りたかった」
「……酷い、話です。人質をとってパーツを見つけ出させる……そんな筋書きだったわけですね」
あいつが描くシナリオは、毎度悪辣だ。
何故、目的に絡めて人の命を、魂を弄ぶのだろうか。
それがあの女の性分と言うのなら、もう返すべき言葉はないが。
「……だけど」
黒影館の事件と今回とでは、明確に違う部分がある。
あのとき俺たちは、ヴァルハラのパーツなど存在すら知らず、ただ生きて脱出するために館内を調べ回っていた。
殺人劇が、その探索を促すためのものだったのは百歩譲ってまだ理解はできるのだが。
今回集められた者たちはほぼ全員が、ヴァルハラのパーツを最初から探していたのだ。
「だとしたら犯人は一体誰なんだ? アイツとしては、そもそも血眼になってパーツを探していた人たちを殺しても得はしないんだから……一連の殺人は、何か別の動機によって起こされてきた感じがする」
「……これって言わばデスゲームですよね? パーツを見つけた人だけが、大切な人を取り戻せると……少なくともそう信じているゲーム。だとしたら、三つの殺人は互いに殺しあった結果、だったりはしませんかね……?」
「その可能性もある。あるにはあるんだが……どうもしっくり来ないんだよな」
これまでに起きた三つの事件。
それらは全て状況が近似している。つまり、犯人が別個とは考え難いのだ。
また、感情的な話にはなってしまうのだが、どうしても。
マキバさんたちが他者を殺めてまでパーツを手に入れようとするとは思えなかった。
……結果的に、誰かの勝利が誰かの死に繋がるのは分かっているけれど。
「――私たちじゃないよ、シグレくん」
そこで突然、声が響いた。
「……分からねえ……こんな次から次へと、理解できないことばっかり言われて……それを一体……どう受け止めればいいって言うんだ」
「……レイジくん……」
無意識に、頭を抱えている自分がいた。
黒影館のときのように、その策略の全てを見通すことができたなら。
如何に真実が残酷だろうと、これ以上の悲劇は止められる、はずなのに。
悔しさに歯を食い縛る。
するとそのとき、ふいに俺の肩に手が置かれた。
「大丈夫です。僕は……レイジくんなら解けるって、知ってますから」
「……買いかぶりすぎだよ、シグレ」
「そんなことないですよ」
自分だって怖いはずなのに、シグレは精一杯の笑みで俺を励ましてくれる。
少しだけ引き攣った笑顔。でも、シグレのそんな健気さが胸に沁みた。
「黒影館のときだって、そうじゃないですか。レイジくんがおかしいと思うところ……それを繋げていけばきっと、何か分かるに違いないです」
「シグレ……」
落ち着いて、と励ましの声。
シグレが隣にいてくれることが支えになっていることを、俺は今更ながら感じた。
そうだ。この状況に混乱していたとは言え、俺が一貫して疑問を抱いていた事柄はそう多くない。俺が招待客に対して抱いていた疑問は、たった二つだけなのだ。
素性と、目的。端的に言えばこれだけが、求めていた手掛かりだった。
素性については、全てがGHOSTに繋がっていたことがもう分かっている。橘姉妹は魂魄分割の被害者であり、マキバさんは日下班の元研究員。そしてモエカちゃんは……人造魂魄。
では……そんな彼らがここに集まった目的は?
それは実のところ、予想がついていることなんじゃないのか……?
――燃やされた紙。
「……招待状だ!」
「ひゃっ!」
「あ、ごめんシグレ」
いきなり声を上げたので、隣で見守っていたシグレを驚かせてしまう。すぐに謝って、俺は今思いついたことを彼に話した。
「マキバさん、招待状をどこかに持ってたりしねえか?」
「え、えと……調べて、みますか?」
「ああ……悪い。俺が探すよ」
死体の懐を調べてくれなんて、シグレに頼んじゃいけないな。
俺はそっとマキバさんの体勢を整えると、服やズボンのポケットを慎重に調べていった。
「……あった!」
一度は丸められたのか、皺くちゃになった一枚の便箋。
その色味こそ淡く明るいものではあるが、内容はきっと程遠いものに違いない。
「……マコちゃんたちは招待状を焼いて処分しようとした。そこには知られてはいけない何かが書かれていたからだ。そして、この一角荘へやってきた……ミコちゃんの魂魄を取り戻すチャンスがあると考えてさ」
「ま、まさか……」
なんて最悪な招待状だろう。
それは最早、招待と呼べるものではない。
「あの……性悪女……!」
腑が煮え繰り返るようだった。
そこには、あまりにも非情な文章が書き連ねられていた。
要約すると、内容はこうだ。
鏡ヶ原に隠された宝と引き換えに、家族を解放する。但し、このことは誰にも告げてはならない。告げた時点でゲームオーバー、命はないと思え……。
「……分かったよ、シグレ。この閉ざされた鏡ヶ原の中では、大切な者の命を賭けたゲームが……最低なゲームが、行われてたんだ」
「……つまり」
「ここに来た四人……というか三人は、皆一つの目的のために動いていたんだな」
「ええ……他の誰にもバレないように。他の誰かも同じ状況だろうとは、推測しつつも」
悲しい思い出しかないこの鏡ヶ原に、それでも集まる理由。
そんなものはきっと、自分と同じでしかないと皆察していたはずだ。
「マコちゃんは妹であるミコちゃんの魂魄を取り戻せると信じ、マキバさんは大切な家族を取り戻せると信じ、そして恐らくモエカちゃんの中の人造魂魄は……本物のモエカちゃんを取り戻せると信じて」
「招待状では宝だとぼかされていますけど、全員が大切なもののために探していたのは恐らく、装置のパーツですよね」
「そうだろうな。マキバさんなんかはきっと途中で気付いたはずだ。それでも……家族を守りたかった」
「……酷い、話です。人質をとってパーツを見つけ出させる……そんな筋書きだったわけですね」
あいつが描くシナリオは、毎度悪辣だ。
何故、目的に絡めて人の命を、魂を弄ぶのだろうか。
それがあの女の性分と言うのなら、もう返すべき言葉はないが。
「……だけど」
黒影館の事件と今回とでは、明確に違う部分がある。
あのとき俺たちは、ヴァルハラのパーツなど存在すら知らず、ただ生きて脱出するために館内を調べ回っていた。
殺人劇が、その探索を促すためのものだったのは百歩譲ってまだ理解はできるのだが。
今回集められた者たちはほぼ全員が、ヴァルハラのパーツを最初から探していたのだ。
「だとしたら犯人は一体誰なんだ? アイツとしては、そもそも血眼になってパーツを探していた人たちを殺しても得はしないんだから……一連の殺人は、何か別の動機によって起こされてきた感じがする」
「……これって言わばデスゲームですよね? パーツを見つけた人だけが、大切な人を取り戻せると……少なくともそう信じているゲーム。だとしたら、三つの殺人は互いに殺しあった結果、だったりはしませんかね……?」
「その可能性もある。あるにはあるんだが……どうもしっくり来ないんだよな」
これまでに起きた三つの事件。
それらは全て状況が近似している。つまり、犯人が別個とは考え難いのだ。
また、感情的な話にはなってしまうのだが、どうしても。
マキバさんたちが他者を殺めてまでパーツを手に入れようとするとは思えなかった。
……結果的に、誰かの勝利が誰かの死に繋がるのは分かっているけれど。
「――私たちじゃないよ、シグレくん」
そこで突然、声が響いた。
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