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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】
42.分断
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「……我が罪に、か」
中庭に立つ墓碑に書かれた文章。
それは、鏡ヶ原で犠牲となった子供たちへ向けたもの。
いや、彼ら以外にも実験で命を弄ばれた多くの者たちに対し、ヒカゲさんは刻んだのだ。
贖罪の言葉を。
「この何処かに、仕掛けが?」
「だと思う」
暗号が指し示しているのは確実にこの墓碑だ。
それほど大きなサイズではないし、すぐに見つかりそうなものだが。
「お、あった」
盲点というか、目に見えるところには仕掛けがなかった。
地面を少し掘ったところに、八桁のダイヤル錠が出てきたのだ。
「凝った仕掛けですね……」
「八桁の数字を入れるのなら、これしかないよな」
20140820。
それが、鏡ヶ原事故の日付だ。
ダイヤルを合わせた瞬間、噴水の仕掛けが発動したときのような強い揺れが館中を包む。
これもまた館の構造が変わるようなギミックのようだ。
「うおお……!」
「多分、揺れてるのはこの真下……地下だ」
さっきとは違い、揺れが縦に来ている感覚があるし、音も地下から聞こえてくる。
ならば、研究室で何か変化が起きているはずだ。
「行ってみましょう……!」
激しい胸の高鳴り。暗号の全てを解き明かした今、待っているのはこの館の心臓部に相違ない。
魂魄を研究する施設の、更に奥で眠るものとは一体何なのか……知るのが怖いという気持ちもあったが、それでも。
「ああ、行こう」
俺たちは意を決し、研究施設へと戻っていく。
十三研究室。パッと見た感じはどこにも変わったところはなかった。
一度探索した場所を覗いてみても、扉が出現したりということはない。
残るはさっき探索していない、南側にある部屋の何れかだ。扉は二つだけなので、調べるのに時間はかからないだろう。
まずは近い方の扉から開けてみる。どうやらそこは、モニタールームのようだった。
「ここで各部屋の様子をモニタリングできるのか」
「地上階の映像もあったみたいですけど……全部壊されてますね」
恐らくは監視カメラが壊されているようで、モニタは生きているのに大半が砂嵐を映し出している。
仮にこれが正常に機能していたら犯人の姿が映っていたかもしれないが……つまりは見られることを見越して、犯人が壊して回っていたということだろう。
「セキュリティシステムの操作なんかもできそうだけど、もう意味はないな」
「それに、仕掛けで現れた扉や侵入口なんかもなさそうだ」
ソウヘイの言葉に、俺とシグレくんは同意する。この部屋に変化がないなら、残ったもう一部屋で何かが起きているはず。
早速俺たちはモニタールームを出て、もう一方の扉を開けた。
「……何だ、ここ?」
最初にソウヘイが放った感想はそれだった。
しかし、無理もない。入った先には長い廊下が続いており、その両隣に扉が四つずつという構造だったのだ。他の扉がすぐに部屋へ続いていただけに、廊下というのは意外だった。
「……研究区画じゃないですかね」
「ああ……」
なるほど、シグレくんの推測は当たっているかもしれない。これだけ部屋が分かれているなら、研究員たちが各々割り振られたスペースというのもあり得る話だ。
ひょっとしたら、区画内に隠れていた犯人が飛び出してくる……なんて可能性もなくはないので、前方に注意を払いながら進んでいく。
……しかし、思わぬところから俺たちは襲撃を受けることになった。
「えっ?」
突然、けたたましい警報が鳴り響く。
状況の急転に、一瞬頭がついていかなかった。
それが、窮地を招く。
「レイジさんッ!」
先頭を歩いていた俺のちょうど左右から、とてつもない速度で壁が迫ってきた。
侵入者用の防壁か、と呑気に思ったが、そのときにはもう壁が俺の体を圧し潰そうとしていて。
ああ、これは死んだかもと情けない考えが過った瞬間、俺は背中を強く押されていた。
「くあッ!」
不意の衝撃だったので、俺は前のめりに倒れ込む。だが、背中を押されたおかげで壁に潰されるのは回避できた。
「さ、サンキュ!」
「シグレくんだ! 慌てて引っ張ったからこっちも無事だけどよ……無茶すんじゃねえぞ」
「す、すいません……」
てっきりソウヘイかと思ったが、俺を助けてくれたのはシグレくんだったようだ。
……俺なんかのためにそこまで体を張ってくれたのは申し訳ないが、今は謝るよりも感謝しよう。
「しかし……こんなとこで分断されんのかよ」
「まずいよな。……どうするか」
壁は廊下の途中、ちょうど左右に四つずつある扉の二つ目と三つ目の間に出現した。
ここから先は何か扱いが違うエリアなのかもしれない。
「こうなっちまったのは仕方ねえ。ここを開ける方法を探そう」
「ソウヘイ、モニタールームでここの操作できねえかな」
「ああ……試してみるか」
「合流できるまで気を付けてくださいね!」
ソウヘイたちの足音が遠ざかっていく。急ぎモニタールームへ向かってくれたようだ。
何というか、罠に嵌められたような気がするし、シグレくんの忠告通り周囲を警戒しておかねば。
中庭に立つ墓碑に書かれた文章。
それは、鏡ヶ原で犠牲となった子供たちへ向けたもの。
いや、彼ら以外にも実験で命を弄ばれた多くの者たちに対し、ヒカゲさんは刻んだのだ。
贖罪の言葉を。
「この何処かに、仕掛けが?」
「だと思う」
暗号が指し示しているのは確実にこの墓碑だ。
それほど大きなサイズではないし、すぐに見つかりそうなものだが。
「お、あった」
盲点というか、目に見えるところには仕掛けがなかった。
地面を少し掘ったところに、八桁のダイヤル錠が出てきたのだ。
「凝った仕掛けですね……」
「八桁の数字を入れるのなら、これしかないよな」
20140820。
それが、鏡ヶ原事故の日付だ。
ダイヤルを合わせた瞬間、噴水の仕掛けが発動したときのような強い揺れが館中を包む。
これもまた館の構造が変わるようなギミックのようだ。
「うおお……!」
「多分、揺れてるのはこの真下……地下だ」
さっきとは違い、揺れが縦に来ている感覚があるし、音も地下から聞こえてくる。
ならば、研究室で何か変化が起きているはずだ。
「行ってみましょう……!」
激しい胸の高鳴り。暗号の全てを解き明かした今、待っているのはこの館の心臓部に相違ない。
魂魄を研究する施設の、更に奥で眠るものとは一体何なのか……知るのが怖いという気持ちもあったが、それでも。
「ああ、行こう」
俺たちは意を決し、研究施設へと戻っていく。
十三研究室。パッと見た感じはどこにも変わったところはなかった。
一度探索した場所を覗いてみても、扉が出現したりということはない。
残るはさっき探索していない、南側にある部屋の何れかだ。扉は二つだけなので、調べるのに時間はかからないだろう。
まずは近い方の扉から開けてみる。どうやらそこは、モニタールームのようだった。
「ここで各部屋の様子をモニタリングできるのか」
「地上階の映像もあったみたいですけど……全部壊されてますね」
恐らくは監視カメラが壊されているようで、モニタは生きているのに大半が砂嵐を映し出している。
仮にこれが正常に機能していたら犯人の姿が映っていたかもしれないが……つまりは見られることを見越して、犯人が壊して回っていたということだろう。
「セキュリティシステムの操作なんかもできそうだけど、もう意味はないな」
「それに、仕掛けで現れた扉や侵入口なんかもなさそうだ」
ソウヘイの言葉に、俺とシグレくんは同意する。この部屋に変化がないなら、残ったもう一部屋で何かが起きているはず。
早速俺たちはモニタールームを出て、もう一方の扉を開けた。
「……何だ、ここ?」
最初にソウヘイが放った感想はそれだった。
しかし、無理もない。入った先には長い廊下が続いており、その両隣に扉が四つずつという構造だったのだ。他の扉がすぐに部屋へ続いていただけに、廊下というのは意外だった。
「……研究区画じゃないですかね」
「ああ……」
なるほど、シグレくんの推測は当たっているかもしれない。これだけ部屋が分かれているなら、研究員たちが各々割り振られたスペースというのもあり得る話だ。
ひょっとしたら、区画内に隠れていた犯人が飛び出してくる……なんて可能性もなくはないので、前方に注意を払いながら進んでいく。
……しかし、思わぬところから俺たちは襲撃を受けることになった。
「えっ?」
突然、けたたましい警報が鳴り響く。
状況の急転に、一瞬頭がついていかなかった。
それが、窮地を招く。
「レイジさんッ!」
先頭を歩いていた俺のちょうど左右から、とてつもない速度で壁が迫ってきた。
侵入者用の防壁か、と呑気に思ったが、そのときにはもう壁が俺の体を圧し潰そうとしていて。
ああ、これは死んだかもと情けない考えが過った瞬間、俺は背中を強く押されていた。
「くあッ!」
不意の衝撃だったので、俺は前のめりに倒れ込む。だが、背中を押されたおかげで壁に潰されるのは回避できた。
「さ、サンキュ!」
「シグレくんだ! 慌てて引っ張ったからこっちも無事だけどよ……無茶すんじゃねえぞ」
「す、すいません……」
てっきりソウヘイかと思ったが、俺を助けてくれたのはシグレくんだったようだ。
……俺なんかのためにそこまで体を張ってくれたのは申し訳ないが、今は謝るよりも感謝しよう。
「しかし……こんなとこで分断されんのかよ」
「まずいよな。……どうするか」
壁は廊下の途中、ちょうど左右に四つずつある扉の二つ目と三つ目の間に出現した。
ここから先は何か扱いが違うエリアなのかもしれない。
「こうなっちまったのは仕方ねえ。ここを開ける方法を探そう」
「ソウヘイ、モニタールームでここの操作できねえかな」
「ああ……試してみるか」
「合流できるまで気を付けてくださいね!」
ソウヘイたちの足音が遠ざかっていく。急ぎモニタールームへ向かってくれたようだ。
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