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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】
41.言葉を繋いで
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北側には一つ、ロックされている扉があった。プレートには室長室と記されているので、ここはヒカゲさんに割り当てられた部屋だったのだろう。
隣にはカードリーダーがあったので、ここでもIDカードを通せば良さそうだ。持っているカードもヒカゲさんのものだし、エラーにはならないはず。
念のために、さっきと同じように警戒態勢をとった上でカードを通す。すると問題なく認証され、ロックは解除された。
「……これは……」
中は他の部屋と違い、ほとんどの物が片付けられていた。
本棚には一冊も本がないし、パソコンもわざと壊されている。
ヒカゲさんだけは念入りに情報を消していったようにも感じられた。
「無駄足か……?」
「収納棚みたいなのがありますよ。それだけ見てみましょう」
望み薄だとは思ったが、シグレくんは棚の扉を開けて中を調べる。
すると、意外なことに回収し忘れたものなのか、破られた資料のようなものが隅の方に残されていた。
「何だ、それ?」
「破られてますけど……写真ですかね?」
一枚を何回も破いたらしく、八つほどに分割されてしまってはいるが、シグレくんの言う通りこれは写真のようだ。
それも、場所やメンツから考えると。
「鏡ヶ原のボーイスカウトで撮った、写真……」
そう。中学生の頃のテンマくんや、シグレくんとアヤちゃんも映っている。
これは間違いなく鏡ヶ原の写真だ。
「どうしてこんなところに、こんな風に……」
「ここはヒカゲさんの研究室らしいし、意味は何となく想像できるけどな」
ソウヘイが口元に手を当てながら言う。
「実験の失敗で子供たちの命を奪った罪の苦しみから、あの人は写真を引き裂いて、ここへしまいこんだ……」
そのまま写真は忘れ去られたか、或いはわざと置いていったという可能性の方が高いか。
恐らくはそんなところなのだろう。
「懐かしいな……アヤちゃんに、これがタクミくん。あと……双子の女の子たちが、橘って名前だったかな」
二年前の思い出を懐かしむように、シグレくんは破れた写真に写る人物をなぞる。
この中の何人がGHOSTの毒牙にかかって命を落としたのか。あまりにも惨い話だ。
「……このプリンタは駄目、か」
「プリンタがどうかしたのか?」
いつの間にかシグレくんは、プリンタの近くで悩んでいた。
ソウヘイが声を掛けると、
「いや、このプリンターってスキャナもついてるみたいだったんで、破れた写真をつないでプリントしたら綺麗に復元できるかなと思って。懐かしい写真だったから、ちょっと……」
「なるほどねえ」
シグレくんにとって、その写真は大切な思い出だ。欲しがるということは当時写真を手に入れることができなかったわけだろうし、復元できるなら持って帰りたいと思うのは当然だ。
別に放置されたものなので、そのまま持って帰ってどこかで復元したっていいのだが。
――復元……?
何故かそのとき、全く別のことが閃いてしまった。
頭の中に、バラバラだった欠片が繋がってイメージされたのだ。
その発想が降ってきたのが突然過ぎたので、俺は暫くの間絶句してしまった。
ソウヘイが訝しげに声をかけてきたくらいだ。
「今度はお前かよ。どうしたんだ?」
「……繋いだら、復元できるんだよ」
「え?」
聞き返してくるシグレくんの頭にポンと手を乗せ、
「ありがとな、シグレくん」
「え? えと、どういたしまして……?」
彼は訳も分からず戸惑うが、理解してもらうには提示するのが一番手っ取り早かった。
「何が分かったんだよ、一人で合点して」
「暗号だよ、探索中に見つけた平仮名五文字の。五つ目の暗号だけは今の今まで分からずに放置してたけど、当たり前だったんだ。その最後の暗号だけは、一つじゃ意味のないものだったんだから」
「……ふむ?」
俺は二人をテーブルの前まで誘導し、机の上にこれまで見つけた五つの暗号を置く。
「いままでに見つけたのは、横長の紙に書かれたこの五つだよな。『にがなのえ』、『ちはいこい』、『とらかりえ』、『つのがきん』、そして……みひみえに。今までの暗号は、一つ一つが次の暗号の場所を示していたけど、最後の暗号はどうやっても意味のある文章にはなりそうにない。だから……繋げないといけなかったんだ。この暗号群を繋ぎ合わせて、一つの暗号にしないといけなかったんだよ」
つまり。
横長の紙を、これまで発見してきた順番に上から並び替える。
すると五文字ずつの暗号は、五×五の新たなメッセージを浮かび上がらせた。
「あ……!」
「そういうことか……」
永遠に残り消えない鏡ヶ原の日にちと罪。
「これが……最後の暗号なんだ」
そして、それが指し示す場所は俺たちも一度調べているあの場所。
ヒカゲさんが贖罪のために立てたと思わしき墓碑の佇む……中庭に違いなかった。
隣にはカードリーダーがあったので、ここでもIDカードを通せば良さそうだ。持っているカードもヒカゲさんのものだし、エラーにはならないはず。
念のために、さっきと同じように警戒態勢をとった上でカードを通す。すると問題なく認証され、ロックは解除された。
「……これは……」
中は他の部屋と違い、ほとんどの物が片付けられていた。
本棚には一冊も本がないし、パソコンもわざと壊されている。
ヒカゲさんだけは念入りに情報を消していったようにも感じられた。
「無駄足か……?」
「収納棚みたいなのがありますよ。それだけ見てみましょう」
望み薄だとは思ったが、シグレくんは棚の扉を開けて中を調べる。
すると、意外なことに回収し忘れたものなのか、破られた資料のようなものが隅の方に残されていた。
「何だ、それ?」
「破られてますけど……写真ですかね?」
一枚を何回も破いたらしく、八つほどに分割されてしまってはいるが、シグレくんの言う通りこれは写真のようだ。
それも、場所やメンツから考えると。
「鏡ヶ原のボーイスカウトで撮った、写真……」
そう。中学生の頃のテンマくんや、シグレくんとアヤちゃんも映っている。
これは間違いなく鏡ヶ原の写真だ。
「どうしてこんなところに、こんな風に……」
「ここはヒカゲさんの研究室らしいし、意味は何となく想像できるけどな」
ソウヘイが口元に手を当てながら言う。
「実験の失敗で子供たちの命を奪った罪の苦しみから、あの人は写真を引き裂いて、ここへしまいこんだ……」
そのまま写真は忘れ去られたか、或いはわざと置いていったという可能性の方が高いか。
恐らくはそんなところなのだろう。
「懐かしいな……アヤちゃんに、これがタクミくん。あと……双子の女の子たちが、橘って名前だったかな」
二年前の思い出を懐かしむように、シグレくんは破れた写真に写る人物をなぞる。
この中の何人がGHOSTの毒牙にかかって命を落としたのか。あまりにも惨い話だ。
「……このプリンタは駄目、か」
「プリンタがどうかしたのか?」
いつの間にかシグレくんは、プリンタの近くで悩んでいた。
ソウヘイが声を掛けると、
「いや、このプリンターってスキャナもついてるみたいだったんで、破れた写真をつないでプリントしたら綺麗に復元できるかなと思って。懐かしい写真だったから、ちょっと……」
「なるほどねえ」
シグレくんにとって、その写真は大切な思い出だ。欲しがるということは当時写真を手に入れることができなかったわけだろうし、復元できるなら持って帰りたいと思うのは当然だ。
別に放置されたものなので、そのまま持って帰ってどこかで復元したっていいのだが。
――復元……?
何故かそのとき、全く別のことが閃いてしまった。
頭の中に、バラバラだった欠片が繋がってイメージされたのだ。
その発想が降ってきたのが突然過ぎたので、俺は暫くの間絶句してしまった。
ソウヘイが訝しげに声をかけてきたくらいだ。
「今度はお前かよ。どうしたんだ?」
「……繋いだら、復元できるんだよ」
「え?」
聞き返してくるシグレくんの頭にポンと手を乗せ、
「ありがとな、シグレくん」
「え? えと、どういたしまして……?」
彼は訳も分からず戸惑うが、理解してもらうには提示するのが一番手っ取り早かった。
「何が分かったんだよ、一人で合点して」
「暗号だよ、探索中に見つけた平仮名五文字の。五つ目の暗号だけは今の今まで分からずに放置してたけど、当たり前だったんだ。その最後の暗号だけは、一つじゃ意味のないものだったんだから」
「……ふむ?」
俺は二人をテーブルの前まで誘導し、机の上にこれまで見つけた五つの暗号を置く。
「いままでに見つけたのは、横長の紙に書かれたこの五つだよな。『にがなのえ』、『ちはいこい』、『とらかりえ』、『つのがきん』、そして……みひみえに。今までの暗号は、一つ一つが次の暗号の場所を示していたけど、最後の暗号はどうやっても意味のある文章にはなりそうにない。だから……繋げないといけなかったんだ。この暗号群を繋ぎ合わせて、一つの暗号にしないといけなかったんだよ」
つまり。
横長の紙を、これまで発見してきた順番に上から並び替える。
すると五文字ずつの暗号は、五×五の新たなメッセージを浮かび上がらせた。
「あ……!」
「そういうことか……」
永遠に残り消えない鏡ヶ原の日にちと罪。
「これが……最後の暗号なんだ」
そして、それが指し示す場所は俺たちも一度調べているあの場所。
ヒカゲさんが贖罪のために立てたと思わしき墓碑の佇む……中庭に違いなかった。
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