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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】

39.施設に散らばる研究史③

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「大体は調べ終わりましたが……やはり研究が放棄された時点で、大体の資料が廃棄か回収されたみたいですね」
「中途半端だけどな。秘匿するというより、必要な情報だけ持っていったってのに近い気がする」

 この研究を隠すなら、綺麗に資料を廃棄するか、或いは施設そのものを潰す方がいい。
 こんな風に夜逃げしたような感じだと、ソウヘイの言うように必要なものだけを移動させたという説が有り得そうだ。

「大規模な装置を開発中っていう資料もありましたけど、もしかしたら開発のために施設を別のところに移したとか」
「まあ、考えられなくはないけどな」

 シグレくんが言うのは『V装置』というタイトルが付けられていた資料のことらしい。
 魂を効率よく抽出、戻入できる装置というものだが、かなり大きなサイズになってしまうことから用途毎にパーツ分けして単体でも使えるようにするとか何とか。
 この十三研究所でもかなり広いというのに、まだ面積が足りなかったのだろうか。

「後は……そこにも資料が放置されてるけど」

 ソウヘイが指差したのは、室内の読書スペースだ。研究員たちは本を自分たちの研究室まで持って行って読んでいたのか、机は新品のように綺麗だったが、その上に何枚かの資料が乗っていた。

「これは……アヤちゃんが見つけてた本に近い内容だな。魂魄の改造について書かれてる。魂を抜かれてしばらくしたら、肉体の方が駄目になって生ける屍みたいになるとか」
「何だか不気味な話ですね……」

 リビングデッド。生命活動をしなくなった肉体で生き続けるというのは、どんな感覚なんだろう。
 生き続ける、というのもおかしな表現かもしれないが。

『未だ改造実験の成功率はそう高くなく、失敗した被験者はその魂ごと肉体を破壊されてしまっている。改造する際、専用の装置を用いることになっているが、最新式のものでも抽出、戻入それぞれ五分、計十分ほどかかってしまうのは大きなハードルだ。改造を行う者の手際の良さも求められるため、装置の改良の他にそういった人材育成も必要になってくるだろう……』

 魂魄の抽出と戻入、か。この記述があるならほぼ確実に、テンマくんが遺した鏡ヶ原の光景もGHOSTが関わっていることになる。
 しかし、この説明は一つの事実を示唆しているように思われた。

「……そうか。ランさんがあんな風になったのは、時間がなかったから……?」
「……ぽいな」

 ランの殺害方法は、他の三人とは異なっていた。頭部の出血からして殴って気絶させた後、天井から吊るしたのだろう。
 俺たちが彼女を見失い、そして発見するまでの時間は五分程度。流石の犯人も、その短時間ではああいう方法でしかランを殺せなかった……。

「……畜生。だからって、あんな見せしめみたいに」
「レイジさん……」

 殺されたという事実に変わりはないけれども。
 彼女の死を見せびらかすようにされるのは、むかついて仕方がなかった。

「魂の改造をしたがってる奴がいるってのは、多分間違いじゃないんだろうよ。それが、誰なのか、何なのかは、ここまで来たならきっともうすぐ分かるはずだ」
「……そしたら、そいつをぶん殴らなきゃな」

 命を弄んだ罪を。
 必ず俺たちが、この手で償わせてやる。
 俺は、血が滲むほどに拳を握りしめながら。
 心に固く、そう誓った。
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