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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】
33.我が罪に
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一階玄関ホールの奥にある扉から、中庭に出られるようになっていた。
外界に脱出することはできないが、ここだけは移動可能なようだ。
大声で助けを求めれば、誰かに聞こえるだろうか?
少し考えてもみたが、きっと無駄なのだろう。この館は、外の世界と切り離されている。
「こんな風になってるんだな……」
俺は初めて中庭に来たのだが、結構しっかりした造りになっている。
周囲に木々が植わっており、東側には花壇があった跡もある。
そして西側に噴水が設置されているのだが、当然ながら水は枯れていた。
ただ、噴水よりも目を惹くものが、中庭の真ん中辺りにぽつんと立っていて。
先に調査していたソウヘイたちも、そちらの説明を先にしたいようだった。
「奥にあるのは、どうも墓石みたいに見えるんだよ。誰のかが分からないんだが」
「僕もそれは気になってました。小さく言葉が刻まれてたような気はしますけど」
「なるほど……?」
俺も確認しておきたかったので、噴水の前にその墓石を調べに行く。
形自体はかなり小さめで、俺の腰ほどの高さしかなかった。
墓石なら、誰々之墓という風に名前が書かれていそうなものだが、目を凝らして表面を見ても名前のようなものはない。
代わりに、たった四文字だけ奇妙な言葉が刻まれていた。
『我が罪に』
「……我が罪に?」
「古くなって削れてるから読み難いが、そう書いてるんだと思うぜ」
「どういう意味、でしょうね」
ここはヒカゲさんの住む館だったのだし、この墓石だって彼が立てたものと考えるのが自然だ。
なら、ヒカゲさんは何らかの罪に対して償うため、この墓石を立てたということになるが……。
「お前もヒカゲって人のことは詳しく知らないんだよな?」
「……ああ。あの人が何をしてたのかも、教えてくれずじまいだった」
けれど、罪を償うために墓石を立てるというのは。
ヒカゲさんなら有り得るのかなと思ってしまう。
それがどんな罪なのかはさておくにしても、あの人は真摯だったから。
自身の行いで人命が失われることがあったのなら、こうしたのだろうと肯定できた。
でも……黒影館の噂。
霊の実験。
浮かび上がってくる情報を結び付け始めると、気持ちは暗澹とする。
本当に、ヒカゲさんがそんなことをしていたのだろうか。
その『仕事』については、導き出される仮説を素直に受け止めることが、俺にはできなかった。
「……多分だけど。この館を探索する内に、知ることになるんじゃねえかな……嫌でもさ」
「……かもな」
この館には秘密がある。
俺たちはきっと、その深淵へと引き摺り込まれようとしているのだ。
「……噴水の方に移るか」
「そうだな。こっちは謎解きと関係ないだろ」
気にかかりはするが、こちらは謎解きの対象ではない。
脱出という最優先目標のために、謎として提示された噴水の調査へ移るとしよう。
「……ふう」
対峙した噴水は、ホワイトボードに描かれていた絵と近似した構造だった。
デフォルメながら、あれは上手く描けていたわけだ。
「この噴水に何があるかってところなんだが」
「各自怪しい所がないか探してみましょうよ」
「それがいいかね」
直径三メートルほどはある噴水なので、詳しく調べるならそれなりの時間がかかりそうだ。
なら、手分けして見ていく方が確実に早い。
こういうとき、ベタな仕掛けとしてはどこかがスイッチになっていたりするのだろうけれど。
「おおっ?」
素っ頓狂な声を上げたのはランだった。
同時に、石の擦れるような音も聞こえた気がする。
「どうした?」
「石レンガの一つが出っ張ってるなーって思って押してみたら、動いたのよ!」
「……ということは、それがスイッチってわけか」
よくある展開だが、まあ仕掛けとしてはそれくらいしかないか。
さてどうなる、と身構えていると、予想以上に大きな衝撃がやって来た。
比喩でなく、文字通り物理的な衝撃だ。
「うわっ……」
「きゃっ」
俺やソウヘイ、ランも思わずしゃがみ込む。
ゴゴゴ……という音とともに、館全体を揺れが襲ったのだ。
震動は一分ほど続いただろうか。あまりのことに揺れが収まってからもしばらく動けなかったが、ソウヘイが逸早く我に返って、
「ど、どういう仕掛けだよ……」
「相当の大仕掛けだな……建物の東側で揺れてたような気がするけど」
「僕もそんな感じがしました」
震源は恐らく館の東端。つまり螺旋階段のある尖塔のはずだ。
今の感じからすると、噴水のスイッチを押したことによって何かが現れた……というところか。
「うし、行ってみるか」
「オッケー」
間違いなく、今回の謎解きが一番大きな変化を生じさせているはずだ。
塔に現れたものは果たして何なのか。期待と不安の入り混じった気持ちで、俺たちは尖塔へ向けて歩き出した。
外界に脱出することはできないが、ここだけは移動可能なようだ。
大声で助けを求めれば、誰かに聞こえるだろうか?
少し考えてもみたが、きっと無駄なのだろう。この館は、外の世界と切り離されている。
「こんな風になってるんだな……」
俺は初めて中庭に来たのだが、結構しっかりした造りになっている。
周囲に木々が植わっており、東側には花壇があった跡もある。
そして西側に噴水が設置されているのだが、当然ながら水は枯れていた。
ただ、噴水よりも目を惹くものが、中庭の真ん中辺りにぽつんと立っていて。
先に調査していたソウヘイたちも、そちらの説明を先にしたいようだった。
「奥にあるのは、どうも墓石みたいに見えるんだよ。誰のかが分からないんだが」
「僕もそれは気になってました。小さく言葉が刻まれてたような気はしますけど」
「なるほど……?」
俺も確認しておきたかったので、噴水の前にその墓石を調べに行く。
形自体はかなり小さめで、俺の腰ほどの高さしかなかった。
墓石なら、誰々之墓という風に名前が書かれていそうなものだが、目を凝らして表面を見ても名前のようなものはない。
代わりに、たった四文字だけ奇妙な言葉が刻まれていた。
『我が罪に』
「……我が罪に?」
「古くなって削れてるから読み難いが、そう書いてるんだと思うぜ」
「どういう意味、でしょうね」
ここはヒカゲさんの住む館だったのだし、この墓石だって彼が立てたものと考えるのが自然だ。
なら、ヒカゲさんは何らかの罪に対して償うため、この墓石を立てたということになるが……。
「お前もヒカゲって人のことは詳しく知らないんだよな?」
「……ああ。あの人が何をしてたのかも、教えてくれずじまいだった」
けれど、罪を償うために墓石を立てるというのは。
ヒカゲさんなら有り得るのかなと思ってしまう。
それがどんな罪なのかはさておくにしても、あの人は真摯だったから。
自身の行いで人命が失われることがあったのなら、こうしたのだろうと肯定できた。
でも……黒影館の噂。
霊の実験。
浮かび上がってくる情報を結び付け始めると、気持ちは暗澹とする。
本当に、ヒカゲさんがそんなことをしていたのだろうか。
その『仕事』については、導き出される仮説を素直に受け止めることが、俺にはできなかった。
「……多分だけど。この館を探索する内に、知ることになるんじゃねえかな……嫌でもさ」
「……かもな」
この館には秘密がある。
俺たちはきっと、その深淵へと引き摺り込まれようとしているのだ。
「……噴水の方に移るか」
「そうだな。こっちは謎解きと関係ないだろ」
気にかかりはするが、こちらは謎解きの対象ではない。
脱出という最優先目標のために、謎として提示された噴水の調査へ移るとしよう。
「……ふう」
対峙した噴水は、ホワイトボードに描かれていた絵と近似した構造だった。
デフォルメながら、あれは上手く描けていたわけだ。
「この噴水に何があるかってところなんだが」
「各自怪しい所がないか探してみましょうよ」
「それがいいかね」
直径三メートルほどはある噴水なので、詳しく調べるならそれなりの時間がかかりそうだ。
なら、手分けして見ていく方が確実に早い。
こういうとき、ベタな仕掛けとしてはどこかがスイッチになっていたりするのだろうけれど。
「おおっ?」
素っ頓狂な声を上げたのはランだった。
同時に、石の擦れるような音も聞こえた気がする。
「どうした?」
「石レンガの一つが出っ張ってるなーって思って押してみたら、動いたのよ!」
「……ということは、それがスイッチってわけか」
よくある展開だが、まあ仕掛けとしてはそれくらいしかないか。
さてどうなる、と身構えていると、予想以上に大きな衝撃がやって来た。
比喩でなく、文字通り物理的な衝撃だ。
「うわっ……」
「きゃっ」
俺やソウヘイ、ランも思わずしゃがみ込む。
ゴゴゴ……という音とともに、館全体を揺れが襲ったのだ。
震動は一分ほど続いただろうか。あまりのことに揺れが収まってからもしばらく動けなかったが、ソウヘイが逸早く我に返って、
「ど、どういう仕掛けだよ……」
「相当の大仕掛けだな……建物の東側で揺れてたような気がするけど」
「僕もそんな感じがしました」
震源は恐らく館の東端。つまり螺旋階段のある尖塔のはずだ。
今の感じからすると、噴水のスイッチを押したことによって何かが現れた……というところか。
「うし、行ってみるか」
「オッケー」
間違いなく、今回の謎解きが一番大きな変化を生じさせているはずだ。
塔に現れたものは果たして何なのか。期待と不安の入り混じった気持ちで、俺たちは尖塔へ向けて歩き出した。
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