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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】

30.ボトルの中に

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 探索を再開した俺たちは、現状でまだ調べられていない場所に向かうことにした。
 四人の情報を統括した結果、鍵が開いていた部屋は全て調べているようだったので、候補は一つに絞られた。
 俺がチホちゃんと探索中に鍵を見つけた、ラウンジだ。
 一階の西廊下。恐らくそれは偶然だろうが、ラウンジがあるのは鍵を見つけた書斎の真下だった。

「流石だな。俺たち全然鍵なんて見つけられなかったのに」
「何というか……意地悪く隠されてた感じなんだよ。普通に探すだけじゃ中々見つからないと思う」

 ただどこかに保管されてる、というのではない。
 鍵だけでなく他の様々なものが、意図を持って隠されているのは間違いなかった。

「さて、ラウンジね……くつろぐためのスペースってことだよな?」
「ああ、そういう意味でいいはずだ」

 ラウンジの中は、ちょっとしたバーのようになっていた。部屋の隅の方にはカウンターテーブルがあり、壁際の棚には様々なドリンクが並んでいる。
 ほとんどが酒類なことから考えると、全部カクテル用なのだろう。注視してみると、ガラスケースの中にシェイカーやグラスがあるのも見えた。
 この館には使用人だけでなくバーテンダーなんかも雇っていて、ここでお酒を提供していたのかもしれない。大浴場だったりバーだったり、金の掛かり過ぎている館だ。
 ……しかし、酒か。

「あそこに並んでるのは、大体ワインだよな」
「ええ、そうみたい……あ」
「シグレくんも閃いたか」

 俺が確認するのに、シグレくんは頷く。

「そうか、ここなんですね。血は憩い……ですか」
「え? どういうこと?」

 二人だけで納得しているので、ランがどういうことかと説明を求めてくる。
 そう言えば、ソウヘイは知っているけれどランは暗号を知らなかったな。

「探索中に平仮名五文字の暗号を発見しててさ。最初が『にがなのえ』で、アヤちゃんの部屋にあるニガナの絵だったんだ。続いてその絵の額裏から見つけたのが『ちはいこい』の五文字だった……」
「ちはいこい。レイジさんはそれを、血液と休憩の意であると看破したわけですね」
「流石シグレくん、その通り」

 ちゃんとシグレくんも解答に辿り着いていたことに満足しつつ、俺は『ちはいこい』の模範解答を述べていく。

「ラウンジってのは休憩室ってことだろ? そこにワインが置かれてる。ワインはキリストの血だとかいう比喩もあるじゃねえか。つまり【ちはいこい】とはラウンジにあるワインって可能性が高いんだ」
「な、なるほど……面倒臭い言葉遊びね」

 早く危険な館から脱出したい、と焦っていては優先度の低くなる謎解きだろう。
 こんな言葉遊びを解き明かすより、鍵などを探す方が脱出の近道だと普通は思うはずだ。
 でも、俺はこの謎も追いかけたかった。
 書かれている文字に、どことなくヒカゲさんの痕跡があったから……。

「……お」

 高級そうなワインの数々。その中に一本だけ、中身のないワインボトルが立っている。
 ボトルメールというのか、手紙をボトルに詰めて流すアレのように、丸められた紙が中に入っていた。

「よし……」
「もしかして、また紙か?」

 ソウヘイと、他の二人も俺の傍まで寄ってくる。全員近過ぎてちょっと離れて欲しかったが、手掛かりを見たい気持ちは分かるし仕方ないか。
 引っ張り出した紙を広げる。
 そこには次なる五文字が書かれていた。



「また、たったの五文字ですね」
「だな……」

 とらかりえ、か。またイメージの浮かばない羅列だ。
 そもそも何故平仮名五文字で統一されているのかもよく分からないが……。

「しかし、これを解き進めていってどんな意味があるのかねえ」
「分からねえが、現状辿れる謎解きがこれだからな。……それにこれは、ヒカゲさんの字に見えるんだよ」
「ヒカゲさんの?」
「ああ。少なくともヒカゲさんは、意味をこめてこれを隠したんだと思う」

 今の状況に関係があるとまでは言えなくても。ヒカゲさんの痕跡を、俺は辿りたい。

「……まあ、脱出の糸口をどこかで見つけるまでは、この紙切れの謎を追うべきなんじゃないかとボクも思います」
「かねえ。確かに、他にどうすればいいのかと聞かれても提案できねえからな。その方針でいくしかないか」
「できることをやる。結局はそういうことよ!」
「はは……明快にしてくれて助かる」

 ランが音頭を取るのが一番しっくりくるというか。
 やっぱり部長なだけはあるなと、良く分からないことを思ってしまった。

「……じゃ、また頑張りますか」
「了解です」

 とらかりえ。五文字が示す場所を、俺たちはまた探し始める。
 暗号を辿った先に、光が射していることを信じて。
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