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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】

17.探索開始

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 探索を開始した俺たちは、まず使用人室を調べてみることにした。ブレーカーもここにあったし、各部屋の鍵なんかが置かれてある可能性も高い。
 日中も調べてはいたが、どうせほとんどのメンバーが全力じゃなかったし、新たな発見があってもいいはずだ。
 俺とチホちゃんは手分けして部屋を調べていく。小さな調度品から、本棚の書籍一つ一つに至るまで。その細かさが功を奏し、俺は他とは違う本を一冊見つけることができた。

「これは……」

 ハードカバーで他の本に混じると判別し辛いが、これはどうやら日記帳のようだ。中身は八割方空白だが、先頭の方には文章が綴られている。
 俺はチホちゃんを呼び、二人で日記を確認してみることにした。

『この館で働くことになり、日記をつけていこうと決めた。
 のんびり屋なので、いつまで続くかは分からないけれど、
 日課と思えるようになるまで頑張ってつけていきたい。
 記していくつもりなのは、日々の中での嬉しかったことや、
 はたらいているときの失敗談、などなど。
 作った料理のことでもいいかもしれない。
 りゆうもなく三日坊主にならないようしなくては。
 物置なんかに放置したりせず、使用人室に置いておこう』

 日記の書き出しはこんな感じだった。新米使用人の体験記みたいなところにみえる。
 ……しかし、どこか違和感のある文章だと、直感が訴えかけていた。
 とりあえず、続くページも読んでいく。その内容は最初に触れている通り、業務の内容や自己評価といったものに終始していた。ある意味では、中身のない文章。代わり映えのしない記録だった。
 ほどなく、文章が書かれた最後のページに辿り着く。そこには何ともわざとらしく、こんなメッセージが記されていた。

『キーボックスの番号が変わった。忘れないようにメモしておこう。503だ』

 この使用人がドジっ子だったのかもしれないが、大事な暗証番号をこんなところにメモしておくだろうか。それに、これが最終ページというのも気にかかる。
 加えて、最初の文章……。

「どうしましたか……?」

 不安げな顔で、チホちゃんが聞いてくる。彼女はまだ頭がうまく回っていないらしい。
 ここで更に不安を煽るようなことを言うわけにはいかない。俺は思い浮かんだ考えを自分の中だけに留めておいた。

「いや。暗証番号がここに書かれててさ。キーボックスを開けられそうだ」
「じゃあ、開けてみましょうか」

 部屋の奥の壁面取り付けられたキーボックス。取手の近くにダイヤルロックがあるので、その数字を指示通り503にしてみる。すると呆気なくロックは解除され、キーボックスが開かれた。
 各所の鍵がこの中に入っている……と期待したのも束の間で、中に入っているのは安物のプラスドライバー一本だった。

「何でこんなところに……まあ、何かの役には立つか」
「あっ、待ってください」

 俺が蓋をしめようとしたところで、チホちゃんが制止をかける。

「その蓋の裏……文字が」
「お?」

 言われて蓋の裏を覗くと、確かに文字のようなものが彫られていた。
 力任せに削ったようになっているその文字は、こんな風に読み取れた。

『NAME=PASS』

「それも、ひょっとしたら意味のあるものかもしれないですね……」
「ああ。ありがとな、チホちゃん」

 俺が感謝を告げると、チホちゃんは曖昧に笑みを浮かべた。どうにか笑おうとしても、心が伴わないような笑み。

「……この文章は覚えておいて、とりあえず別の場所を調べてみようか」
「……はい」

 使用人室の探索に見切りをつけ、俺たちは部屋を後にする。
 チホちゃんは変わらず、青ざめた表情でいた。
 俺だけが気付いたであろう、一つの異常。
 それを誰かに伝えるべきか、俺はいつまでも悩んでいた。
 ……新米使用人の日記と思われたあの本は。
 先頭の文章を縦読みすると、別の文章が浮かび上がるようになっていた。
 拾い上げた文章は、こうだ。

『この日記は作り物』

 それが意味するところまでは考察できないが、嫌な予感だけはどんどんと膨れ上がっていくのだった……。
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