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【幻影綺館 ―Institution of GHOST-】

14.霊の存在

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「……どう、するか」

 沈痛な声で、ソウヘイが呟く。
 その問いに、明確な答えを出せる者などいるはずもなかった。

「……何でこんなことに……」

 そう。ただ、それだけだ。
 どうしてこんなことになったのか。
 どうしてテンマくんが死んでしまったのか。
 どうして俺たちは……。

「ごめんね、チホちゃん……」

 ランは涙ぐみながら、チホちゃんに謝る。
 それは黒影館への探検を企画した者としての、責任感からに違いない。
 許しの言葉を得られれば、少しは安堵できたことだろう。
 或いは、怒りの言葉をぶつけられても気持ちの整理はできたかもしれない。
 でも、チホちゃんはどんな返答もしなかった。
 その絶望の深さゆえに、最早意思表示すらも困難になってしまっているのだ……。

「スマホは駄目、固定電話も無理、館からは出られない。どうすりゃいいって言うんだよ……」
「……全ては霊が起こしていることだ。ニンゲンがそれを打破するのは、きっと難しい」

 さっきのことがあったばかりなのに、アヤちゃんは再びソウヘイの逆鱗に触れそうなことを言う。
 ただ、ソウヘイも少しずつ心変わりしてきているのか、アヤちゃんの言葉を否定しようとはしなかった。

「ランさん。アヤちゃんは霊だって言ってるけど、実際どうなんですか……? まぼろしさんの儀式をしたらこんなことになったんですし、何か関係があるんじゃ――」
「そんなの知らないわよ!」

 シグレくんの言葉をかき消すように、ランは吼えた。

「だって、都市伝説じゃない……幽霊が見れたらラッキー、見れなくても楽しけりゃオッケーって、それくらいに思ってたのに……」

 最後は消え入りそうな声になり、彼女は両手で顔を覆った。

「ランも半信半疑だったのか……少し残念だな。私は初めから、霊を疑ってはいないよ」
「じゃあ教えてくれよアヤちゃん! どうやったら俺たちはここから出られるんだよ! 霊とやらを信じて、頭でも下げりゃいいのかよ!?」
「ソウヘイ! ……落ち着け」

 俺がそう窘めると、ソウヘイはバツの悪そうな顔をして俯いた。

「……悪い」

 彼が悪いわけではない。悪いのはこの異様な状況そのものだ。
 こんな状況下で、俺たちがまともでいられるはずなどないのだから。

「……私は霊をここから退けるしかないと思う。方法は……すまない、分からないが」

 流石に調子に乗り過ぎたと感じたのか、アヤちゃんが自分なりの考えを述べる。
 それは霊の存在を前提とした話ではあったが、だとすれば妥当なものだろうと思われた。

「霊がいると認めるだけでも苦労しそうなのに……霊を退ける、か。もうワケ分かんないわ……」

 顔を覆ったままで、ランが呟く。それは全員が共通して思っていることだ。
 霊を退ける。なるほど単純明快だが、その方法など考え付くわけがない。

「……そ、そういえば」

 皆が黙り込んだところで、淀んだ空気を打開しようと思ってくれたのか、シグレくんが声を上げる。

「レイジさん、あの部屋で紙を拾ってましたけど……結局何だったんですか?」
「ああ、そうだったな」

 切り出すタイミングを逸していたが、シグレくんのおかげでこちらに注目が集まった。俺は懐から、テンマくんの部屋で拾ったメモ書きを取り出す。

「……これはテンマくんが書いたものらしい。かなりの長文だ」
「み、見せてくれますか?」

 誰よりも早く反応したのは、やはりチホちゃんだった。俺は頷いて、メモ書きをテーブルの上に広げる。

「ああ、というより皆で見てほしい。ただのメッセージじゃないっぽいんだよ」
「……ふむ」

 俺もまだほとんど内容は読めていなかったものの、テンマくんのメッセージはその書き始めから異質なものだった。
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