48 / 86
Ninth Chapter...7/27
私に何ができるのか
しおりを挟む
「……久々だな。こんなところで集まってやがるとは」
「ど……どこ行ってたのよッ!」
沢山言いたいことはあった。
そのどれもが、虎牙を心配するものだったのに。
口をついて出てきたのは、怒りにも似た感情の爆発で。
虎牙がたじろぐのに、私はやってしまったとすぐ後悔することになった。
「あ……違うの、そうじゃない。ごめん」
「……いや。すまんかった」
虎牙は、照れ臭そうに鼻をかいて、それから私の傍まで近づいてくる。
そして、私の頭にぽんと手を置いた。
「心配かけた」
「……本当に。心配したのよ……」
「ああ……すまねえな」
まるで、スイッチを入れられたように。
彼に触れられて、私は涙が止まらなくなって。
情けないと分かっているのに、どうしようもなく。
彼の胸にしがみついて、ただ静かに……静かに、泣いた。
虎牙は、私が泣き止むまでの間、辛抱強く私の抱き止めてくれていた。
今まで迷惑をかけた分、今は自分が返さなくてはと思っているようでもあった。
そして、五分ほど彼の胸でさめざめと泣いてから。
私は恥ずかしいやら嬉しいやら、複雑な気分のまま彼からそっと離れるのだった。
「……ん。ありがと」
「はは、珍しいお前が見れて良かったぜ」
「も、もう!」
ご褒美はこれくらいか。もう、いつもの虎牙だ。
なら、私もいつもの龍美に戻らなきゃ。
彼が姿を現したことには、きっと何か意味があるはずなのだから。
「……どうして、ここに」
「まあ、正直誰とも会うつもりはなかった。それがどうしてって言われたら……申し訳なかったからっつーか」
言いながら、虎牙はスマホを取り出す。
……もしかして。
「お前があんまり必死なもんで、その……俺も気にしちまったんだよ」
「や、やっぱり見たの……?」
通知さえオンにしていれば、未読のままでも画面に内容は出る。
それくらいは見ているんじゃと予想してはいたけれど、こうして顔を突き合わせているときに意識させられるとは。
アプリを開くと、私が送ったメッセージ全てが、今は既読になっていた。
「うー、撤回よ撤回! 全部忘れてー!」
「バッカ野郎。今更だっつの」
「アンタが連絡よこさないから悪いのよ!? だから私も気が変になって……」
送ったメッセージを思い返すだけで顔が赤くなる。
直接的な文章は何一つ書いてはいないけれど、読めば書き手の気持ちなんて明らかに分かるような、そんな内容。
こちらから消せるなら、すぐにでも消してやるのに。
相手の端末には残り続けるのだから恨めしい。
「……忘れたりするかよ。絶対」
「う、え……」
虎牙の思わぬ反応に、こちらも動揺して変な声が出てしまった。
……どうして虎牙が照れるんだろう。
今の言葉って、一体。
もしかしたらの、甘い希望が私の中で踊る。
ああ、やっぱり私はこいつのことが――。
「だー! とにかくだな。どうせ迷惑かけるなら、お前にかけるのが一番マシだって思ったんだよ。お前なら怒らねえだろうし、俺もまだ気が楽だ。だから、お前を選んだ。そういうことだ」
「め、迷惑……?」
強引に話題を変えられたせいで、それ以上踏み込んだことは聞けなかったが、虎牙にとっての目的はむしろそちらなのだ。
わざわざ私にだけ会いに来てくれた。それなら、今は自分のワガママは抑えて、彼の期待に応えてあげなければ。
「……分かった、教えて。虎牙が陥ってる状況と……私に、何ができるのか」
「……はは。流石は龍美だ。状況判断が早くて助かる」
それじゃあ、と自分の椅子に腰かけて、虎牙は語り始める。
彼が何に巻き込まれたのか。この街で、何が起きているのか。話せる限りの情報を。
「俺たちの暮らすこの満生台ではどうやら、表にゃ出せねえ怪しげな実験が行われようとしているらしいんだ」
「ど……どこ行ってたのよッ!」
沢山言いたいことはあった。
そのどれもが、虎牙を心配するものだったのに。
口をついて出てきたのは、怒りにも似た感情の爆発で。
虎牙がたじろぐのに、私はやってしまったとすぐ後悔することになった。
「あ……違うの、そうじゃない。ごめん」
「……いや。すまんかった」
虎牙は、照れ臭そうに鼻をかいて、それから私の傍まで近づいてくる。
そして、私の頭にぽんと手を置いた。
「心配かけた」
「……本当に。心配したのよ……」
「ああ……すまねえな」
まるで、スイッチを入れられたように。
彼に触れられて、私は涙が止まらなくなって。
情けないと分かっているのに、どうしようもなく。
彼の胸にしがみついて、ただ静かに……静かに、泣いた。
虎牙は、私が泣き止むまでの間、辛抱強く私の抱き止めてくれていた。
今まで迷惑をかけた分、今は自分が返さなくてはと思っているようでもあった。
そして、五分ほど彼の胸でさめざめと泣いてから。
私は恥ずかしいやら嬉しいやら、複雑な気分のまま彼からそっと離れるのだった。
「……ん。ありがと」
「はは、珍しいお前が見れて良かったぜ」
「も、もう!」
ご褒美はこれくらいか。もう、いつもの虎牙だ。
なら、私もいつもの龍美に戻らなきゃ。
彼が姿を現したことには、きっと何か意味があるはずなのだから。
「……どうして、ここに」
「まあ、正直誰とも会うつもりはなかった。それがどうしてって言われたら……申し訳なかったからっつーか」
言いながら、虎牙はスマホを取り出す。
……もしかして。
「お前があんまり必死なもんで、その……俺も気にしちまったんだよ」
「や、やっぱり見たの……?」
通知さえオンにしていれば、未読のままでも画面に内容は出る。
それくらいは見ているんじゃと予想してはいたけれど、こうして顔を突き合わせているときに意識させられるとは。
アプリを開くと、私が送ったメッセージ全てが、今は既読になっていた。
「うー、撤回よ撤回! 全部忘れてー!」
「バッカ野郎。今更だっつの」
「アンタが連絡よこさないから悪いのよ!? だから私も気が変になって……」
送ったメッセージを思い返すだけで顔が赤くなる。
直接的な文章は何一つ書いてはいないけれど、読めば書き手の気持ちなんて明らかに分かるような、そんな内容。
こちらから消せるなら、すぐにでも消してやるのに。
相手の端末には残り続けるのだから恨めしい。
「……忘れたりするかよ。絶対」
「う、え……」
虎牙の思わぬ反応に、こちらも動揺して変な声が出てしまった。
……どうして虎牙が照れるんだろう。
今の言葉って、一体。
もしかしたらの、甘い希望が私の中で踊る。
ああ、やっぱり私はこいつのことが――。
「だー! とにかくだな。どうせ迷惑かけるなら、お前にかけるのが一番マシだって思ったんだよ。お前なら怒らねえだろうし、俺もまだ気が楽だ。だから、お前を選んだ。そういうことだ」
「め、迷惑……?」
強引に話題を変えられたせいで、それ以上踏み込んだことは聞けなかったが、虎牙にとっての目的はむしろそちらなのだ。
わざわざ私にだけ会いに来てくれた。それなら、今は自分のワガママは抑えて、彼の期待に応えてあげなければ。
「……分かった、教えて。虎牙が陥ってる状況と……私に、何ができるのか」
「……はは。流石は龍美だ。状況判断が早くて助かる」
それじゃあ、と自分の椅子に腰かけて、虎牙は語り始める。
彼が何に巻き込まれたのか。この街で、何が起きているのか。話せる限りの情報を。
「俺たちの暮らすこの満生台ではどうやら、表にゃ出せねえ怪しげな実験が行われようとしているらしいんだ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
暗闇の中の囁き
葉羽
ミステリー
名門の作家、黒崎一郎が自らの死を予感し、最後の作品『囁く影』を執筆する。その作品には、彼の過去や周囲の人間関係が暗号のように隠されている。彼の死後、古びた洋館で起きた不可解な殺人事件。被害者は、彼の作品の熱心なファンであり、館の中で自殺したかのように見せかけられていた。しかし、その背後には、作家の遺作に仕込まれた恐ろしいトリックと、館に潜む恐怖が待ち受けていた。探偵の名探偵、青木は、暗号を解読しながら事件の真相に迫っていくが、次第に彼自身も館の恐怖に飲み込まれていく。果たして、彼は真実を見つけ出し、恐怖から逃れることができるのか?
【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—
至堂文斗
ホラー
――その幻想から、逃れられるか。
降霊術。それは死者を呼び出す禁忌の術式。
歴史を遡れば幾つも逸話はあれど、現実に死者を呼ぶことが出来たかは定かでない。
だがあるとき、長い実験の果てに、一人の男がその術式を生み出した。
降霊術は決して公に出ることはなかったものの、書物として世に残り続けた。
伍横町。そこは古くから気の流れが集まる場所と言われている小さな町。
そして、全ての始まりの町。
男が生み出した術式は、この町で幾つもの悲劇をもたらしていく。
運命を狂わされた者たちは、生と死の狭間で幾つもの涙を零す。
これは、四つの悲劇。
【魂】を巡る物語の始まりを飾る、四つの幻想曲――。
【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
「――霧夏邸って知ってる?」
事故により最愛の娘を喪い、 降霊術に狂った男が住んでいた邸宅。
霊に会ってみたいと、邸内に忍び込んだ少年少女たちを待ち受けるものとは。
【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
「どうか、目を覚ましてはくれないだろうか」
眠りについたままの少女のために、 少年はただ祈り続ける。
その呼び声に呼応するかのように、 少女は記憶の世界に覚醒する。
【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】
「……だから、違っていたんだ。沢山のことが」
七不思議の噂で有名な流刻園。夕暮れ時、教室には二人の少年少女がいた。
少年は、一通の便箋で呼び出され、少女と別れて屋上へと向かう。それが、悲劇の始まりであるとも知らずに。
【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
「……ようやく、時が来た」
伍横町で降霊術の実験を繰り返してきた仮面の男。 最愛の女性のため、彼は最後の計画を始動する。
その計画を食い止めるべく、悲劇に巻き込まれた少年少女たちは苛酷な戦いに挑む。
伍横町の命運は、子どもたちの手に委ねられた。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
秋月真夜は泣くことにしたー東の京のエグレゴア
鹿村杞憂
ミステリー
カメラマン志望の大学生・百鳥圭介は、ある日、不気味な影をまとった写真を撮影する。その影について謎めいた霊媒師・秋月真夜から「エグレゴア」と呼ばれる集合的な感情や欲望の具現化だと聞かされる。圭介は真夜の助手としてエグレゴアの討伐を手伝うことになり、人々、そして社会の深淵を覗き込む「人の心」を巡る物語に巻き込まれていくことになる。
Mary Magdalene~天使と悪魔~
DAO
ミステリー
『私は血の様に赤い髪と赤い目が大嫌いだった。』『私は真っ赤に染まる姉さんが大好きだった』
正反対の性格の双子の姉妹。 赤い髪のマリアは大人しく真面目。 青い目のメアリは社交的なシスコン。
ある日、双子の乗船した豪華客船で残虐非道な殺人事件が起きるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる