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Eighth Chapter...7/26

相談できる人

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 家に帰って昼ご飯を食べてから。
 私はベッドに寝転がって、どんよりとした曇り空を何とはなしに眺めていた。
 雨は勢いを弱めることなく、ずっと降り続いている。
 梅雨が明けてから、久しぶりに天気が崩れたわけだが……この霖(ながあめ)はいつまで続くのだろう。
 ……思えば、土砂崩れは説明会の後、雨が降り出してから起きたとみるのが自然だ。深夜に地震があったという証言もあるし、雨で地盤が緩んでしまったために、小さな地震でも地面が崩れるほどの影響を与えてしまったのではないだろうか。
 とすると、あの一帯は地盤が脆くなっている危険性がある。隣町への道路が整備されたのは仁科家が来るよりは前だが、それでもここ十数年以内だろうし、電波塔や観測所など、山中の設備も全て最近造られたものに相違ない。
 満生台は地震の多い地域だと言うが……次に大きな地震が来た場合、より大規模な土砂崩れが発生することもあり得るのではないだろうか。
 昨日、土砂崩れの現場を見に行ったとき、仮に大規模な土砂崩れが起きれば街の北側は相当な被害を受けそうだと感じたが、杞憂とは言い切れないな。
 ……八木さんも、あんな場所に居続けるというのは心配だ。

「……八木さん、か」

 私が悩み事を抱えているとき、相談相手に選ぶのは家族や同級生でなく、双太さんや八木さん、千代さんといった大人な人が多い。その中でも、双太さんは今事件の対応に追われているだろうし、千代さんは事件の話なんてしたくないはず。なら、相談できるのは八木さんくらいだ。
 山の様子も見ておきたいし、彼の観測所に少しお邪魔させてもらうことにしようか。
 どうせ他に暇を潰す方法もないのだ。八木さんとお喋りをして過ごす方が、遥かに有意義に思えた。

「……よし」

 思い立ったらすぐ行動だ。私はお母さんに八木さんのところへ行くことを伝えると、荷物も持たず、傘だけを一本玄関の傘立てから抜き取って、家を出発した。この雨だからあまり外出しない方がいいのではと言われたが、元々の予定だったからと誤魔化したのは少し後ろめたい。
 風だけは、さっきよりも幾分マシになっていた。私は道を真っ直ぐ北へと進み、森の中へと入っていく。
 六日前にもこの道を歩いたが、あのときとは色々なものが変わってしまった。晴れから雨へ、日常から非日常へ。今日はどんな話をしてもらえるのかという思いは同じだが、それは期待から不安へと様変わりしている。
 八木さんは今回の事件をどう捉えているだろうか。学者としての見地からすれば、永射さんの件はともかく、土砂崩れの件は深刻に考えていそうだ。
 あそこに暮らし続けるのは心配だし、できれば山から下りてきてほしいのだけど。あの場所が観測に適しているとか、そういう事情があったりするのかな。
 なだらかな山道を、私はゆっくりと登っていく。途中に見えてくる電波塔を一瞥し、そのままぐるりとカーブして東へ。この辺りは大きな木々も多く、根はしっかり張られている感じはするのだが、土砂崩れの懸念はどれくらいあるのやら。
 観測所へ辿り着くころには、足もそれなりに疲労していた。やっぱり、雨でぬかるんだ坂道を歩き続けるというのは苦行だ。こんな天気のときには、八木さんは一日中ひきこもっているんだろうなあ。
 インターホンを押して、応答を待つ。幸いにも八木さんはすぐに出てくれた。私が来たことに少し驚いた様子だったが、彼は何も聞かずに私を中へ招き入れてくれた。
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