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Fifth Chapter...7/23

八〇二という数字

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「お父さんってさ。八〇二って聞いて思い浮かぶことってない?」

 お風呂上り、部屋に戻る前にリビングへ寄った私は、テレビを見ていたお父さんに訊ねてみた。
 身内と話すくらいなら外部に漏れることはない。そう判断してのことである。
 ただ、お父さんもそんな数字の羅列には思い当たることなどないようで、

「どうしたんだ。東京に新しいスポットでもできたのか」

 などと言うレベルだった。
 なるほど、元々都会暮らしだった仁科家にしてみれば、三桁の数字の羅列からは渋谷のビルを連想してしまうらしい。そういうのとは違うと私が首を振ると、

「ふむ。数学的なことでも、そんな並びは聞いたことがないな」

 そう答えて顎を擦った。
 大人の一般教養でも浮かんでくるものはなし。とすると、数字から意味をとることはできないのかもしれない。ただ割り振られた適当な番号だったら、連想できるものなどないのだから解答は導けないのだ。
 お父さんに一応お礼を言ってから、部屋に戻る。のんびり髪を乾かした後、私はネットで八〇二という数字を検索してみることにした。
 しかし、検索結果に上がってくるのはラジオ放送の情報だ。確認してみると、どうもラジオの周波数が80.2メガヘルツなのに由来しているらしい。電波塔の電磁波が問題になっている今、周波数というのは近しいワードではあるけれど、あの廃墟の経年から考えれば電波云々というのが違う気がする。
 池に眠る謎の廃墟……あの場所は少なくとも、三十年、いやそれ以上昔の建物であるはずだ。

「ずっと昔の建物、かあ……」

 あれが水車の管理小屋にせよ役所にせよ、三鬼村時代のものであるのは間違いない。なら、知っている可能性があるのは地元住民……その中でも瓶井さんのようなお年寄りだけだろう。鬼の伝承も含めて、聞けば何らかの答えは返ってきそうだが、リターンだけでなくリスクも相応に高いと思われる。
 三鬼村時代のこと。街の人に聞かずとも、その情報を得られる媒体はないだろうか。少し考えて、私らしい答えが浮かぶ。
 それは本だ。
 ただ、この街に図書館などという大それたものはない。あるのは学校の図書室だけだ。それも、どちらかと言えば図書スペースというか、物置の隣に申し訳程度に本棚が一つあるだけの貧相なものだった。
 更に言えば、棚に並ぶ本は小中学校の児童向けの書籍、つまり図鑑や辞書などが大半を占める。部屋が埃っぽいことも相まって、私と同じく本好きな玄人でさえ、あそこの本に興味を示すことはなかった。
 あの本棚に、郷土史について書かれた資料のようなものが、万が一にでもあれば。

 ――可能性は低そうだけど、ね。

 試験期間中だし、昼休みがない分チャンスは限られるが、隙を見て図書室を見てみることにしよう。
 どうせあの蔵書数だ。二、三分もあればまず全て確認することができるだろう。
 とりあえずの計画を決めた私は、放置したままのドライヤーを思い出したようにしまいこんで、机の前に座る。一応試験期間中であるわけだし、少しくらいは勉強しておきたかった。
 流石に有り得ないだろうが、今日の虎牙が明日の私、という未来もゼロではないのだから。
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