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Third Chapter...7/21
研究論文
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夕飯のビーフシチューを食べ終わって、お風呂で汗を流してから、私は自室で勉強机に向かった。そのまま一分ほど、ペンを手にしたまま目を閉じて待ったけれど、今日は自動筆記現象が起きることはなかった。まあ、起きる方が奇跡的なのだから当然だ。
鬼封じの池について両親にもそれとなく訪ねてみたけれど、何も知らないようだった。そんなところがあるんだな、と驚かれたくらいだ。この街で二年暮らしていても、分からないことはまだ多いなと思わされる。
昼間に散々勉強したので、また教科書を開く気にはとてもなれない。私は暇つぶしにと、スマホを取り出してネットサーフィンに勤しむことにした。今まで試したことはなかったが、千代さんの話でちょっとだけ、調べてみたいという気持ちになったのだ。
「八木優……っと」
八木さんの名前を検索欄に打ち込んで、調べてみる。すると、電波問題に焦点を当てた論文が一つだけ、ネットに掲載されていた。どうやらこれが一番有名なものらしい。正直、その界隈での知名度なんてものは分からないけれど、他のサイトに書かれた批評などを見る限り、それなりに支持は得ているようだった。
電磁波などの影響について、八木さんは過去に戦争で使われていた電波兵器などを例として挙げ、強度次第では実際に人体へ影響が出ることを説明、ただし、基準値以下の電磁波を浴び続けたことで影響が出るかどうかは検証の余地があるとして、判断を保留している。確かに、兵器を例として出してしまうと、元より人体に影響を与えるために作られるものが殆どなのだから、日常生活で浴びる電磁波の強度とは乖離しすぎだ。
実際に、弱い電磁波を浴び続ける実験は行われたことがあるらしく、検証結果もあるのだが、目に見える形での異常は見当たらず、悪いものを浴びたという精神的な悪影響が、心身の不調を引き起こしているのではというのが定説だ。確かその話は、永射さんも説明会で持ち出していたような気がする。
ともあれ、電磁波問題についてはグレーゾーンというのが今の状況だろう。誰もはっきりとしたことは、宣言できないのだ。主張してみたところで、相手を打ち負かす材料にはならないのである。微妙な話だ。
「大変な分野で研究してるんだなあ、八木さんは……」
寝転がる拍子に、そんな独り言が漏れてしまう。まあ、大変と言うならどんな研究者だって大変なのだろうけど。
八木さんの論文を見れただけで、それなりに満足はできたのだが、どうせならと私は久礼さんの名前も検索にかけてみた。するとこちらも、久礼さんが書いたらしい論文がいくつかネットに公開されているのが発見できた。
肩書きは、医科大学の教授となっている。満生台へやってくる前は、そこで働いていたわけだ。そう言えば昔、双太さんからちらっと聞いたが、双太さんと早乙女さんは大学で久礼さんと出会い、その縁でここへ移住してきたそうだ。この大学だったのか。
論文としては、中身を見てもさっぱり分からないながらも、オカルト染みたところなど一片もない、現実的かつ論理的なものだというのはなんとなく理解できる。千代さんが話していたような、残留思念がどうこうと言うような論文を書いているというのはやはり信じられなかった。
プロフィールが書かれたサイトがあったので、そちらも確認してみる。名が知れるとこうやって晒し者にされてしまうのだなあと怖いものを感じつつ、文章に目を通していくと、経歴の一番後ろに、自主退職と記されていた。その後満生総合医療センターで働いているという記述はない。
この街のことは、外部にはそれほど伝わらないのだろう。それに多分、久礼さんもわざとそうしているに違いない。ここは、とても住み良い環境で、発展も目覚ましいけれど、外から見れば秘境のような場所なのだ。なんというか、隠れ住むにはもってこいの街だという感じもする。
有名人も、何も言わずにここへ移り住んだなら、さぞ快適なセカンドライフを満喫できることだろうな。実際、医療センターが目当てでなく、都会のしがらみが嫌になって移住してきた人もいるだろうし、今後もそうした需要はしばらくの間ありそうだった。
「……」
私がここにいることだって、かつての級友たちには伝わっていないだろう。久礼さんと同じように、私はあの時を境に世間に背を向けて、ここへ逃れてきたのだ。
無様に。
「……はぁ」
駄目だ、夜はどうしても感傷的になってしまう。近頃は少し、酷くなっているような気もする。ここでの生活が満ち足りているからこそ、その揺り戻しが来てしまうのだろうか。
きっと、過去に苦しんでいるのは私だけではないのだろうけど。他にも沢山の辛い過去が集まっているのだろうけど。やっぱり、だから自分だけが辛いんじゃない、なんて強がれるような性格ではなかった。
明日は鬼封じの池へ探検に出向く。ひょっとしたら、そのことに対する緊張も影響しているのかもしれない。何にせよ、今は少しメンタルが不調だった。
もう寝てしまおうか。そう思い掛け時計に目をやると、時刻は十時を回ったところだった。早いけれど、別に寝てもいい時間だ。私は部屋を出て、さっさと歯磨きをしてから、両親におやすみと告げて、そのまま部屋のベッドに潜り込むのだった。
鬼封じの池について両親にもそれとなく訪ねてみたけれど、何も知らないようだった。そんなところがあるんだな、と驚かれたくらいだ。この街で二年暮らしていても、分からないことはまだ多いなと思わされる。
昼間に散々勉強したので、また教科書を開く気にはとてもなれない。私は暇つぶしにと、スマホを取り出してネットサーフィンに勤しむことにした。今まで試したことはなかったが、千代さんの話でちょっとだけ、調べてみたいという気持ちになったのだ。
「八木優……っと」
八木さんの名前を検索欄に打ち込んで、調べてみる。すると、電波問題に焦点を当てた論文が一つだけ、ネットに掲載されていた。どうやらこれが一番有名なものらしい。正直、その界隈での知名度なんてものは分からないけれど、他のサイトに書かれた批評などを見る限り、それなりに支持は得ているようだった。
電磁波などの影響について、八木さんは過去に戦争で使われていた電波兵器などを例として挙げ、強度次第では実際に人体へ影響が出ることを説明、ただし、基準値以下の電磁波を浴び続けたことで影響が出るかどうかは検証の余地があるとして、判断を保留している。確かに、兵器を例として出してしまうと、元より人体に影響を与えるために作られるものが殆どなのだから、日常生活で浴びる電磁波の強度とは乖離しすぎだ。
実際に、弱い電磁波を浴び続ける実験は行われたことがあるらしく、検証結果もあるのだが、目に見える形での異常は見当たらず、悪いものを浴びたという精神的な悪影響が、心身の不調を引き起こしているのではというのが定説だ。確かその話は、永射さんも説明会で持ち出していたような気がする。
ともあれ、電磁波問題についてはグレーゾーンというのが今の状況だろう。誰もはっきりとしたことは、宣言できないのだ。主張してみたところで、相手を打ち負かす材料にはならないのである。微妙な話だ。
「大変な分野で研究してるんだなあ、八木さんは……」
寝転がる拍子に、そんな独り言が漏れてしまう。まあ、大変と言うならどんな研究者だって大変なのだろうけど。
八木さんの論文を見れただけで、それなりに満足はできたのだが、どうせならと私は久礼さんの名前も検索にかけてみた。するとこちらも、久礼さんが書いたらしい論文がいくつかネットに公開されているのが発見できた。
肩書きは、医科大学の教授となっている。満生台へやってくる前は、そこで働いていたわけだ。そう言えば昔、双太さんからちらっと聞いたが、双太さんと早乙女さんは大学で久礼さんと出会い、その縁でここへ移住してきたそうだ。この大学だったのか。
論文としては、中身を見てもさっぱり分からないながらも、オカルト染みたところなど一片もない、現実的かつ論理的なものだというのはなんとなく理解できる。千代さんが話していたような、残留思念がどうこうと言うような論文を書いているというのはやはり信じられなかった。
プロフィールが書かれたサイトがあったので、そちらも確認してみる。名が知れるとこうやって晒し者にされてしまうのだなあと怖いものを感じつつ、文章に目を通していくと、経歴の一番後ろに、自主退職と記されていた。その後満生総合医療センターで働いているという記述はない。
この街のことは、外部にはそれほど伝わらないのだろう。それに多分、久礼さんもわざとそうしているに違いない。ここは、とても住み良い環境で、発展も目覚ましいけれど、外から見れば秘境のような場所なのだ。なんというか、隠れ住むにはもってこいの街だという感じもする。
有名人も、何も言わずにここへ移り住んだなら、さぞ快適なセカンドライフを満喫できることだろうな。実際、医療センターが目当てでなく、都会のしがらみが嫌になって移住してきた人もいるだろうし、今後もそうした需要はしばらくの間ありそうだった。
「……」
私がここにいることだって、かつての級友たちには伝わっていないだろう。久礼さんと同じように、私はあの時を境に世間に背を向けて、ここへ逃れてきたのだ。
無様に。
「……はぁ」
駄目だ、夜はどうしても感傷的になってしまう。近頃は少し、酷くなっているような気もする。ここでの生活が満ち足りているからこそ、その揺り戻しが来てしまうのだろうか。
きっと、過去に苦しんでいるのは私だけではないのだろうけど。他にも沢山の辛い過去が集まっているのだろうけど。やっぱり、だから自分だけが辛いんじゃない、なんて強がれるような性格ではなかった。
明日は鬼封じの池へ探検に出向く。ひょっとしたら、そのことに対する緊張も影響しているのかもしれない。何にせよ、今は少しメンタルが不調だった。
もう寝てしまおうか。そう思い掛け時計に目をやると、時刻は十時を回ったところだった。早いけれど、別に寝てもいい時間だ。私は部屋を出て、さっさと歯磨きをしてから、両親におやすみと告げて、そのまま部屋のベッドに潜り込むのだった。
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