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Ⅲ 大きくなった世界と遠くなった思い人
400倍の思い人 2
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「それにしても、エミリアさん心配ですね」
玄関ドアの前に来て、ポケットの中から顔を出したまま呟くと、ソフィアは苦笑いをした。
「カロリーナさんはお人好しですね……」
「だって、あんなにも落ち込んでいるエミリアさんを見たことなかったので……」
「カロリーナさんも自分のことで大変そうですのに」
「そうですけど、それとこれとは話は別ですよ」
人の心配をしている場合ではないということはわかっていたけれど、ついつい見たことないくらい元気のないエミリアを見たせいで心配になってしまっていた。もっとも、ソフィアが玄関ドアを開けた瞬間、そんな感情はどこかに飛んでいってしまったけれど……。
「そっか……」
小さなソフィアのメイド服についている小さなポケットに収まってしまうサイズのわたし。そこから見るアリシアお嬢様の室内はとんでもなく広かった。いつものように真面目に勉強用のテーブルで一生懸命ペンを走らせているアリシアお嬢様。その姿は山のように大きかった。もはや自然物として見た方がサイズとしては適切な気がする。わたしとは別次元の巨大生物として、室内に存在していた。
「エミリアさんの代わりのメイドはいないのですね」
ソフィアが首を傾げていた。てっきりエミリアのようにアリシアお嬢様の護衛をしてくれるメイドが代わりについていると思ったのに、いないようだった。アリシアお嬢様はエミリアがいた時とは違い、ひとりぼっちで部屋の中にいた。
「そもそもレジーナお嬢様は、エミリアさんが小さくなったことを知ってるんですかね?」
「ベイリーさんが間違いなく伝えているはずですよ。あの人は性格は腹黒いですけれど、メイドとしての仕事はかなり忠実にこなしてくれていますから、そんな大事なことを伝えていないはずはないです」
ソフィアは一体ベイリーのことを信頼しているのか、信頼していないのか、よくわからなかった。
「きっとレジーナお嬢様がアリシアお嬢様のことを任せても大丈夫と思えるほど、信頼できるメイドが他にいないのでしょうね……」
ソフィアが心配そうにため息をついた。
「まあ、それはわたしたちの心配することではないですね。気を取り直してアリシアお嬢様のところまで行きますか」
「……まさかと思いますけれど、またカーペットの上を歩いて行くんですか?」
「それ以外どうするつもりですか?」
ソフィアがアリシアお嬢様に運んでと頼むはずはない。すでに机の端までやってきていて、ロープのようになっている糸を掴んでいた。もはやわたしにとっては綱のように太い糸を伝って、ソフィアが勢いよく降りていく。
ドールハウスが置いてあるのは、ソフィアにとっても16メートル程の高所ではあるけれど、わたしにとっては300メートルを越える場所なのだ。ソフィアのポケットの中から顔を出して見ていると、景色の移り代わりと浮遊感が怖すぎて、大きな声で叫んでしまった。降りるまで叫び続けていたから、ソフィアが怪訝な目でわたしの方を見ていた。
「カロリーナさんはただポケットの中から見ていただけだと思いますけれど……」
「だ、だって……」
300メートル以上の高さをものすごい勢いで降りていく恐怖心はソフィアにはわからないのだろう。
「まあ、良いですけれど、先を急がないといけないですね」
気を取り直してソフィアは進み出した。
玄関ドアの前に来て、ポケットの中から顔を出したまま呟くと、ソフィアは苦笑いをした。
「カロリーナさんはお人好しですね……」
「だって、あんなにも落ち込んでいるエミリアさんを見たことなかったので……」
「カロリーナさんも自分のことで大変そうですのに」
「そうですけど、それとこれとは話は別ですよ」
人の心配をしている場合ではないということはわかっていたけれど、ついつい見たことないくらい元気のないエミリアを見たせいで心配になってしまっていた。もっとも、ソフィアが玄関ドアを開けた瞬間、そんな感情はどこかに飛んでいってしまったけれど……。
「そっか……」
小さなソフィアのメイド服についている小さなポケットに収まってしまうサイズのわたし。そこから見るアリシアお嬢様の室内はとんでもなく広かった。いつものように真面目に勉強用のテーブルで一生懸命ペンを走らせているアリシアお嬢様。その姿は山のように大きかった。もはや自然物として見た方がサイズとしては適切な気がする。わたしとは別次元の巨大生物として、室内に存在していた。
「エミリアさんの代わりのメイドはいないのですね」
ソフィアが首を傾げていた。てっきりエミリアのようにアリシアお嬢様の護衛をしてくれるメイドが代わりについていると思ったのに、いないようだった。アリシアお嬢様はエミリアがいた時とは違い、ひとりぼっちで部屋の中にいた。
「そもそもレジーナお嬢様は、エミリアさんが小さくなったことを知ってるんですかね?」
「ベイリーさんが間違いなく伝えているはずですよ。あの人は性格は腹黒いですけれど、メイドとしての仕事はかなり忠実にこなしてくれていますから、そんな大事なことを伝えていないはずはないです」
ソフィアは一体ベイリーのことを信頼しているのか、信頼していないのか、よくわからなかった。
「きっとレジーナお嬢様がアリシアお嬢様のことを任せても大丈夫と思えるほど、信頼できるメイドが他にいないのでしょうね……」
ソフィアが心配そうにため息をついた。
「まあ、それはわたしたちの心配することではないですね。気を取り直してアリシアお嬢様のところまで行きますか」
「……まさかと思いますけれど、またカーペットの上を歩いて行くんですか?」
「それ以外どうするつもりですか?」
ソフィアがアリシアお嬢様に運んでと頼むはずはない。すでに机の端までやってきていて、ロープのようになっている糸を掴んでいた。もはやわたしにとっては綱のように太い糸を伝って、ソフィアが勢いよく降りていく。
ドールハウスが置いてあるのは、ソフィアにとっても16メートル程の高所ではあるけれど、わたしにとっては300メートルを越える場所なのだ。ソフィアのポケットの中から顔を出して見ていると、景色の移り代わりと浮遊感が怖すぎて、大きな声で叫んでしまった。降りるまで叫び続けていたから、ソフィアが怪訝な目でわたしの方を見ていた。
「カロリーナさんはただポケットの中から見ていただけだと思いますけれど……」
「だ、だって……」
300メートル以上の高さをものすごい勢いで降りていく恐怖心はソフィアにはわからないのだろう。
「まあ、良いですけれど、先を急がないといけないですね」
気を取り直してソフィアは進み出した。
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