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Ⅲ 大きくなった世界と遠くなった思い人
20分の1の新生活 3
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「カロリーナさん、泣いてるんですか?」
「え、いや……」
ソフィアに尋ねられて、わたしは涙を拭った。不安が募ってきて、一刻も早くアリシアお嬢様に会いたい気分になってきたけれど、会ってもわたしは小さすぎて、文字通り視界に入れてもらえないかもしれない。アリシアお嬢様にもう会えないかもしれないと思うと、さらに強い寂しさが押し寄せてくる、
「わたし、ベイリーさんとキスしてないのに、なんで小さくなったんですかね……」
ベイリーのキスに縮小能力があることは理解した。けれど、わたしはベイリーとキスはしていない。
「エミリアさんに話を聞きましたけれど、カロリーナさんはエミリアさんのポケットの中に入っていたんですよね?」
わたしが小さく頷くと、ソフィアが続けた。
「だからでしょうね。カロリーナさんもそうでしたけれど、小さくなるときに衣類も一緒に小さくなっていたから、きっとあの魔法は当人に直接かけるというよりも、キスをした当人の周囲に魔法が波及するんだと思います。それで、エミリアさんにずっとくっついていたカロリーナさんも一緒に20分の1サイズに小さくされた」
すでにずっと前からソフィアの中には仮説が完成していたみたいにスムーズに答えられたけれど、納得はできなかった。じっと俯いて静かに泣いたまま、ソフィアの視線に晒されていた。そんなわたしの様子を見て、ソフィアが指先で背中をさすってくれた。
「大丈夫ですよ、カロリーナさん。元に戻るまで、ちゃんと私が面倒を見ますから。あなたが不自由しないように、大切に扱いますから」
「早くパトリシアお嬢様を見つけて元に戻りたいです……。それに、パトリシアお嬢様も、もしわたしと同じ大きさでずっといるんだったら、きっと辛いんでしょうから、早く見つけてあげないと。今頃一人で泣いているのかも……」
不安な気持ちを吐き出した。当然、ソフィアはわたしにとって心地良くて、希望に満ちた慰めをしてくれると思ったのに、そうではなかった。
「ベイリーさんは戻してくれるって言ってますけど、そんなの本当かわかりませんよ。見つけたって元に戻してくれないかもしれませんよ」
ソフィアの言葉に一瞬耳を疑った。ソフィアの声が少しだけ大きくなって、なんだか怒っているようだった。わたしは恐る恐る上を見て、ソフィアの顔色を伺った。ソフィアの表情が少し強張っているのがわかった。心当たりはないけれど、ソフィアがわたしの言葉に反応して怒ったように見えた。
「ソ、ソフィアさん、わたし何か変なこと言っちゃったんですかね……」
涙声のまま尋ねると、慌ててソフィアが微笑んだ。
「別にそんなことはありませんよ。ただ、ベイリーさんはあなたたちを小さくした張本人ですから、無理に彼女の指示に従って言うことを聞く必要なんてありません。ベイリーさんを当てにせずに、パトリシアお嬢様を見つけずに元に戻るという方法もあるかもしれませんよ」
「そ、そうなんですかね……」
ええ、と微笑むソフィアの姿はいつも通り優しいはずなのに、どこか不穏な笑顔に見えた。わたしは、このときまさかソフィアがメイド服のポケットに手を入れて、大切な人の口封じをしていたなんて、想像もしていなかった。ただ、微笑むソフィアにすっかり油断をしてしまっていたのだった。
「とりあえず、今日は疲れたと思いますし、寝ましょうか」
ソフィアに促されて、わたしは頷く。すでに部屋着姿になっていたソフィアはメガネを外して、髪の毛を下ろす。本人の言うとおり、雰囲気はかなり変わった。幼い印象のおさげ髪を解いたことで、一気に大人びて見える。わたしとソフィアは同じベッドで眠るようで、そっと横に体を寝かせた。大きな状態のソフィアが横にいるのは少し不安だった。寝返りを打たれたらと思うとちょっと怖い。
「寝相は良いので、大丈夫だとは思いますが、心配だったら机にハンカチでも引きましょうか?」
「いえ、机に一人で寝たら落ちたら怖いので……」
「わかりました」とソフィアが納得してくれた。
ソフィアはわたしの方を向いて、重たく無いように気を使ってくれながら、手のひらをわたしの体の上に置いていた。ソフィアの温かい手のひらに包まれて、安心して眠りにつく。いつの間にか、わたしはソフィアの小指を抱きしめてしまっていた。
すっかり眠っていたわたしが、寝言で「アリシアお嬢様……会いたいです……」と何度も言っていたことは後でソフィアに言われて知った。だから、そのときソフィアの耳元で、わたしと同じくらいのサイズの子が「カロリーナちゃんをアリシアに会わせてあげなよ」と助け舟を出してくれていたことなんて知らないのだった。
「え、いや……」
ソフィアに尋ねられて、わたしは涙を拭った。不安が募ってきて、一刻も早くアリシアお嬢様に会いたい気分になってきたけれど、会ってもわたしは小さすぎて、文字通り視界に入れてもらえないかもしれない。アリシアお嬢様にもう会えないかもしれないと思うと、さらに強い寂しさが押し寄せてくる、
「わたし、ベイリーさんとキスしてないのに、なんで小さくなったんですかね……」
ベイリーのキスに縮小能力があることは理解した。けれど、わたしはベイリーとキスはしていない。
「エミリアさんに話を聞きましたけれど、カロリーナさんはエミリアさんのポケットの中に入っていたんですよね?」
わたしが小さく頷くと、ソフィアが続けた。
「だからでしょうね。カロリーナさんもそうでしたけれど、小さくなるときに衣類も一緒に小さくなっていたから、きっとあの魔法は当人に直接かけるというよりも、キスをした当人の周囲に魔法が波及するんだと思います。それで、エミリアさんにずっとくっついていたカロリーナさんも一緒に20分の1サイズに小さくされた」
すでにずっと前からソフィアの中には仮説が完成していたみたいにスムーズに答えられたけれど、納得はできなかった。じっと俯いて静かに泣いたまま、ソフィアの視線に晒されていた。そんなわたしの様子を見て、ソフィアが指先で背中をさすってくれた。
「大丈夫ですよ、カロリーナさん。元に戻るまで、ちゃんと私が面倒を見ますから。あなたが不自由しないように、大切に扱いますから」
「早くパトリシアお嬢様を見つけて元に戻りたいです……。それに、パトリシアお嬢様も、もしわたしと同じ大きさでずっといるんだったら、きっと辛いんでしょうから、早く見つけてあげないと。今頃一人で泣いているのかも……」
不安な気持ちを吐き出した。当然、ソフィアはわたしにとって心地良くて、希望に満ちた慰めをしてくれると思ったのに、そうではなかった。
「ベイリーさんは戻してくれるって言ってますけど、そんなの本当かわかりませんよ。見つけたって元に戻してくれないかもしれませんよ」
ソフィアの言葉に一瞬耳を疑った。ソフィアの声が少しだけ大きくなって、なんだか怒っているようだった。わたしは恐る恐る上を見て、ソフィアの顔色を伺った。ソフィアの表情が少し強張っているのがわかった。心当たりはないけれど、ソフィアがわたしの言葉に反応して怒ったように見えた。
「ソ、ソフィアさん、わたし何か変なこと言っちゃったんですかね……」
涙声のまま尋ねると、慌ててソフィアが微笑んだ。
「別にそんなことはありませんよ。ただ、ベイリーさんはあなたたちを小さくした張本人ですから、無理に彼女の指示に従って言うことを聞く必要なんてありません。ベイリーさんを当てにせずに、パトリシアお嬢様を見つけずに元に戻るという方法もあるかもしれませんよ」
「そ、そうなんですかね……」
ええ、と微笑むソフィアの姿はいつも通り優しいはずなのに、どこか不穏な笑顔に見えた。わたしは、このときまさかソフィアがメイド服のポケットに手を入れて、大切な人の口封じをしていたなんて、想像もしていなかった。ただ、微笑むソフィアにすっかり油断をしてしまっていたのだった。
「とりあえず、今日は疲れたと思いますし、寝ましょうか」
ソフィアに促されて、わたしは頷く。すでに部屋着姿になっていたソフィアはメガネを外して、髪の毛を下ろす。本人の言うとおり、雰囲気はかなり変わった。幼い印象のおさげ髪を解いたことで、一気に大人びて見える。わたしとソフィアは同じベッドで眠るようで、そっと横に体を寝かせた。大きな状態のソフィアが横にいるのは少し不安だった。寝返りを打たれたらと思うとちょっと怖い。
「寝相は良いので、大丈夫だとは思いますが、心配だったら机にハンカチでも引きましょうか?」
「いえ、机に一人で寝たら落ちたら怖いので……」
「わかりました」とソフィアが納得してくれた。
ソフィアはわたしの方を向いて、重たく無いように気を使ってくれながら、手のひらをわたしの体の上に置いていた。ソフィアの温かい手のひらに包まれて、安心して眠りにつく。いつの間にか、わたしはソフィアの小指を抱きしめてしまっていた。
すっかり眠っていたわたしが、寝言で「アリシアお嬢様……会いたいです……」と何度も言っていたことは後でソフィアに言われて知った。だから、そのときソフィアの耳元で、わたしと同じくらいのサイズの子が「カロリーナちゃんをアリシアに会わせてあげなよ」と助け舟を出してくれていたことなんて知らないのだった。
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