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Ⅱ 専属メイド

パトリシアⅢ 3

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ベイリーはソフィアの方に早足でやってくる。
「ねえ、どういうつもり? わたしたち、パトリシアお嬢様のピンチに一緒に協力して助け合おうって、そういう風にお互い信頼し合ってやっていたのだと思ってたのに……」

ベイリーは思いっきりソフィアに顔を近づけていた。何も言えずに黙っていたソフィアを見て、ベイリーが悔しそうに涙を滲ませていた。
「ねえ、何か言いなさいよ……」

そんなベイリーの様子を見て、机の上からパトリシアお嬢様が必死に「ベイリーやめて!」と叫んでいたけれど、その小さな声は、興奮状態のベイリーには届いていなかった。

「私はパトリシアお嬢様に食事を提供していただけで……」
明らかにキスをしようとする寸前を見られていたのだから、苦しい言い訳にはなっていた。ベイリーが呆れたように鼻を鳴らした。
「やっぱりあんたのことなんて信頼できないわ」
ベイリーが苛立った様子でガチャガチャと大きな音を立てながら食器を片付けていく。

「パトリシアお嬢様はわたしが面倒を見るわ。淫乱メイドに任せておいたらこの屋敷の風紀が乱れてしまう」
ソフィアにもメイドとしてのプライドはあった。パトリシアお嬢様のことを掴もうとするベイリーの手首をとる。

「何するのよ? あなたにはもうパトリシアお嬢様のことは任せないわよ?」
「さっきから淫乱淫乱って、人のこと侮辱してくれてますけれど、一体誰のキスのせいでパトリシアお嬢様は小さくなってしまったと思ってるんですか! あなただって好きでパトリシアお嬢様のことを縮めたわけではないのですから、必要以上に責めるつもりはありませんでしたよ! ですが、先にメイドとしての職務を放棄して、あろうことかお仕えしているお嬢様にキスをしたのはあなたですからね!」

今度はソフィアが背伸びをして、ベイリーに顔を近づけた。ソフィアに気圧されて、ベイリーが半歩ほど後ろに下がる。

「だ、だから、わたしはパトリシアお嬢様にはもう触れないようにして離れた場所から見守っていたわ。あなたが正しくパトリシアお嬢様と接してくれさえいれば、わたしは全てをあなたに任せるつもりだった……。けれど、それを裏切ったのはあなたでしょ? それならわたしが面倒を見るっていう話よ!」
「どんな魔法を自分が使えるかも把握できていない魔女に、大切なパトリシアお嬢様のお世話なんて、絶対にさせたくないです!」
「小さくなったパトリシアお嬢様に平気でキスをするようなメイドに任せられる方がよっぽど可哀想だわ!」
ソフィアとベイリーが今にも手が出てしまいそうなくらい殺伐としていると、パトリシアお嬢様のかなり強めの叫び声がした。

「2人とも、いい加減にして!!!」
ソフィアとベイリーの体が大きく震えた。こんなにも怒っているパトリシアお嬢様の声を聞くのは滅多にない。というか、初めて聞いたかもしれない。恐る恐るパトリシアお嬢様の方を見つめた。パトリシアお嬢様がかなり御立腹なことが表情からわかったので、ソフィアもベイリーも2人とも慌てて跪いて、視線を低くして話を聞く。

「主人のピンチに喧嘩を始めるメイドなんてメイド失格だよ。もう2人ともわたしの面倒なんて見なくていいから、早く部屋に戻して!」
「申し訳ございませんでした……」
泣きそうな声で返事をした後、ソフィアが手のひらに乗せてドールハウスにパトリシアお嬢様を戻した。

「2人の顔なんてしばらく見たくないから、屋敷も閉めて!」
今は断面図とか魚の開きみたいに、真ん中で開いて、両方向に開くことのできるドールハウスだけど、持ち運び用に閉じることもできる。閉じてしまえば、中から見ると普通の家のように使えるのだ……と思う。実際に入ったことはないから、あくまでも想像にすぎないけれど。

ベイリーが言われるがままにゆっくりとドールハウスを閉めてしまった。閉め際にパトリシアお嬢様が大きな声を出す。
「後、もうこの屋敷が開かないように完全に閉じなさい。接着剤でも錠前でもなんでもいい。ベイリーの魔法はダメよ。とにかくわたしの意思以外でどちらか一方がわたしのことを好きにできる状態は作られたくないから」

ソフィアとベイリーのどちらかが抜け駆けしてパトリシアお嬢様と愛しあったりできないように、一方が自由には開けられないような屋敷を作らされた。ソフィアが言われたように接着剤で器用に密閉したから、これでパッと見はサイズ感以外本物の屋敷と遜色がない。力任せに無理やり接着剤を剥がすことができても、剥がした後が残るから、どちらかが抜け駆けをしたらすぐにわかってしまう。パトリシアお嬢様は、ソフィアとベイリーの両方に心を閉ざして、引きこもってしまったのだった。
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