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Ⅱ 専属メイド
パトリシアⅢ 1
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パトリシアお嬢様が小さくなってから数ヶ月が経った。パトリシアお嬢様が小さくなるまでは険悪になっていたソフィアとベイリーの仲は、一緒にパトリシアお嬢様を守らなければならないという使命感のおかげで、ほんの少しだけ改善されていた。
「パトリシアお嬢様、ご飯の時間ですので、準備いたしますね」
屋敷にあったドール人形用の食器を使おうとしたけれど、それだとフォークやスプーンが重たすぎるからと言うことで、本物のフォークやスプーンにベイリーが口づけをして、小さくしていった。どうやら、ベイリーのキスは人間の唇同士をくっつけなくても、物であっても小さくすることができるらしい。おかげで少しずつパトリシアお嬢様サイズの私物も増えていっていた。
「ねえ、ベイリー。メイクバックも小さくしてもらって良い?」
パトリシアお嬢様が頼むと、ベイリーは二つ返事で「もちろんです」と快諾をする。そのまま、いつものようにメイクバックにキスをして小さくしようとしたけれど、今日は何の反応もなかった。
「どうしたんですか?」
ソフィアが尋ねると、ベイリーは納得したように頷く。
「たまにあるのよね」
ベイリーがポケットから真っ赤な口紅を取り出して、塗っていく。血色の薄いベイリーの顔にはあまりそぐわない真っ赤な唇それがどことなく妖しさを醸し出していた。そして、もう一度ポットにキスをしたら、メイクバックが小さくなっていく。
「申し訳ございません。おそらくわたしのキスマークがついてしまっているので、拭かせて頂きますね」
ベイリーが謝ると、パトリシアお嬢様が首を横に振った。
「いいよ。なんだか暖かくて好きかも。ベイリーたちとは最近同じ大きさで接することができてないから、こうやって口紅みたいにほんのり温かくて生身の体を感じられるものは好きだな」
どこか寂しそうにパトリシアお嬢様が言った。当たり前だけれど、ずっと近くで、当然同じくらいの大きさで世話をしてきた2人のメイドが自分よりも圧倒的に大きさなサイズで接するようになって、気分が良い訳がない。パトリシアお嬢様は小さくなってからも気丈に振る舞い続けていたけれど、当然辛い面も多かったはずだ。
ソフィアとベイリーが状況を察してそっと顔を見合わせると、ベイリーは首を横に振った。
「わたしには、その資格はないわ」
その答えを聞いて、ソフィアはパトリシアお嬢様の方に手のひらを差し出した。
「どうしたの、ソフィア?」
「乗ってもらってもよろしいですか?」
パトリシアお嬢様が頷いてから、恐る恐るソフィアの手のひらの上に乗っていく。慎重にソフィアの手のひらに乗っていく小さなパトリシアお嬢様があまりにも可愛らしすぎて、ソフィアの口元が無意識に緩んでしまう。手のひらに乗った体はあまりにも軽すぎて、心許ない。
本当に人が一人乗っているなんて信じられなかったけれど、それでもパトリシアお嬢様は間違いなく存在している。そんなパトリシアお嬢様をそっと胸元に抱き寄せた。心臓の近くに、大切なパトリシアお嬢様をできるだけ優しく抱き寄せた。
「温かいですか?」
うん、とパトリシアお嬢様が無邪気に頷いてから笑う。
「なんだか子どもの頃に戻ったみたいで変な感じ」
パトリシアお嬢様を抱きしめつつ、チラリとベイリーの顔色も伺った。これだけパトリシアお嬢様を愛でてしまって、怒っていたらどうしようかと、少し心配になったから。けれど、ベイリーは諦めたように微笑んでいただけだった。今のベイリーにはパトリシアお嬢様を小さくしてしまった負目があって、積極的にパトリシアお嬢様にスキンシップは取れないのだと思う。
発端はベイリーのキスからだったから、また迂闊に密着したら何が起きるかわからないから。出会った時には、瀕死の状態にも関わらず、パトリシアお嬢様とソフィアに迷惑をかけたくないから近づくのを拒んだベイリーが、本当は優しい人なのはソフィアも知っていた。
本当はベイリーが手を出せない状態でパトリシアお嬢様のことを積極的に愛でることはフェアじゃないかもしれないけれど、小さくなってしまったパトリシアお嬢様は人の温もりが恋しくなっている。だから、これはメイドとしての大切な仕事。ベイリーを出し抜くためにしているわけじゃない。そうやって自身に言い聞かせながら、ソフィアは毎日パトリシアお嬢様を愛でるのだった。
「パトリシアお嬢様、ご飯の時間ですので、準備いたしますね」
屋敷にあったドール人形用の食器を使おうとしたけれど、それだとフォークやスプーンが重たすぎるからと言うことで、本物のフォークやスプーンにベイリーが口づけをして、小さくしていった。どうやら、ベイリーのキスは人間の唇同士をくっつけなくても、物であっても小さくすることができるらしい。おかげで少しずつパトリシアお嬢様サイズの私物も増えていっていた。
「ねえ、ベイリー。メイクバックも小さくしてもらって良い?」
パトリシアお嬢様が頼むと、ベイリーは二つ返事で「もちろんです」と快諾をする。そのまま、いつものようにメイクバックにキスをして小さくしようとしたけれど、今日は何の反応もなかった。
「どうしたんですか?」
ソフィアが尋ねると、ベイリーは納得したように頷く。
「たまにあるのよね」
ベイリーがポケットから真っ赤な口紅を取り出して、塗っていく。血色の薄いベイリーの顔にはあまりそぐわない真っ赤な唇それがどことなく妖しさを醸し出していた。そして、もう一度ポットにキスをしたら、メイクバックが小さくなっていく。
「申し訳ございません。おそらくわたしのキスマークがついてしまっているので、拭かせて頂きますね」
ベイリーが謝ると、パトリシアお嬢様が首を横に振った。
「いいよ。なんだか暖かくて好きかも。ベイリーたちとは最近同じ大きさで接することができてないから、こうやって口紅みたいにほんのり温かくて生身の体を感じられるものは好きだな」
どこか寂しそうにパトリシアお嬢様が言った。当たり前だけれど、ずっと近くで、当然同じくらいの大きさで世話をしてきた2人のメイドが自分よりも圧倒的に大きさなサイズで接するようになって、気分が良い訳がない。パトリシアお嬢様は小さくなってからも気丈に振る舞い続けていたけれど、当然辛い面も多かったはずだ。
ソフィアとベイリーが状況を察してそっと顔を見合わせると、ベイリーは首を横に振った。
「わたしには、その資格はないわ」
その答えを聞いて、ソフィアはパトリシアお嬢様の方に手のひらを差し出した。
「どうしたの、ソフィア?」
「乗ってもらってもよろしいですか?」
パトリシアお嬢様が頷いてから、恐る恐るソフィアの手のひらの上に乗っていく。慎重にソフィアの手のひらに乗っていく小さなパトリシアお嬢様があまりにも可愛らしすぎて、ソフィアの口元が無意識に緩んでしまう。手のひらに乗った体はあまりにも軽すぎて、心許ない。
本当に人が一人乗っているなんて信じられなかったけれど、それでもパトリシアお嬢様は間違いなく存在している。そんなパトリシアお嬢様をそっと胸元に抱き寄せた。心臓の近くに、大切なパトリシアお嬢様をできるだけ優しく抱き寄せた。
「温かいですか?」
うん、とパトリシアお嬢様が無邪気に頷いてから笑う。
「なんだか子どもの頃に戻ったみたいで変な感じ」
パトリシアお嬢様を抱きしめつつ、チラリとベイリーの顔色も伺った。これだけパトリシアお嬢様を愛でてしまって、怒っていたらどうしようかと、少し心配になったから。けれど、ベイリーは諦めたように微笑んでいただけだった。今のベイリーにはパトリシアお嬢様を小さくしてしまった負目があって、積極的にパトリシアお嬢様にスキンシップは取れないのだと思う。
発端はベイリーのキスからだったから、また迂闊に密着したら何が起きるかわからないから。出会った時には、瀕死の状態にも関わらず、パトリシアお嬢様とソフィアに迷惑をかけたくないから近づくのを拒んだベイリーが、本当は優しい人なのはソフィアも知っていた。
本当はベイリーが手を出せない状態でパトリシアお嬢様のことを積極的に愛でることはフェアじゃないかもしれないけれど、小さくなってしまったパトリシアお嬢様は人の温もりが恋しくなっている。だから、これはメイドとしての大切な仕事。ベイリーを出し抜くためにしているわけじゃない。そうやって自身に言い聞かせながら、ソフィアは毎日パトリシアお嬢様を愛でるのだった。
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