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Ⅱ 専属メイド
エミリアの告白 2
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洗濯が終わり、通常通りアリシアお嬢様の部屋の掃除の時間になる。エミリアの呼吸音は普段よりもかなり大きくなっていた。エミリアがアリシアお嬢様抜きでメイド屋敷に近づける唯一の時間。つまり、この掃除の時間に告白を決行しようとしているのだろう。
エミリアは普段からは信じられないくらい緊張しているから、わたしまで緊張してきてしまう。心の中で、頑張れ、と応援しながら小さなメイド屋敷の方へと進んでいく。エミリアはわたしのことをポケットに入れたまま、メイド屋敷の前へとやってくると、大きく深呼吸をした。どうするつもりだろうかと思っていると、エミリアは突然メイド屋敷の屋根をノックし出した。
「ベイリーさん、お話があります! 出てきてください!」
緊張でかなり強い力になっているから、屋根が壊れないか心配になる。
「ちょ、ちょっと屋根を叩いたら2階に直接音が響くからリオナたちがビックリしちゃいますよ!」
ポケットの中から声を出したけれど、もはやその声はエミリアには届いていなさそうだった。
「エミリアちゃん、どうしたのかしら?」
すぐにベイリーの声がしたから、わたしはポケットの中で息を潜める。ていうか、流れでついてこさされているけれど、わたしはエミリアの愛の告白を聞いてしまってもいいのだろうか。なんとなく申し訳ない気もするけれど、エミリアが勝手に連れてきた不可抗力だからと思って諦めてもらうことにした。
「あ、あの……、できればメイド達に聞かれないところがいいです……」
「ドアを閉めたらほとんど聞こえないわ。このメイド屋敷は少しわたしが細工をして、密閉状態なら外の音は聞こえないようにしているから」
そういえば、わたしたちにとって、とても大きいはずのエミリアやアリシアお嬢様の声はもっと屋敷内に聞こえても良いようなのに、何も聞こえなかった気がする。だから、わたしはこのお屋敷に来た当初、外の様子がまったくわからなかったせいで、小さくされたことに全然気づかなかなかったのだ。どういう仕組みかはわからないけれど、ベイリーは極力外の様子がわからないように細工をしているみたいだ。
先日レジーナお嬢様の声が外から聞こえてきたときには、レジーナお嬢様は腕をドアから突っ込んでいて密閉状態ではなかったから、音が聞こえてきていた。つまり、今はアリシアお嬢様の部屋には他に誰もいないし、メイド屋敷は密閉されている。エミリアの告白は、ベイリーと、ポケットに入っているわたしにしか聞こえないと言うわけだ。
「頑張ってね、エミリア」とわたしは誰にも聞こえない小さな声で呟きながら、ポケットの中から応援する。
「ベイリーさん、手に乗せても良いですか……?」
「いいわよ。でも珍しいわね、エミリアちゃんがわたしを手に乗せたがるなんて」
「ちょっと、大事な話があるので……」
「あら、何かしら? 良い話だと良いのだけど」
うふふ、と上品な笑い声が聞こえてきた。ポケットの中からは様子は見られないけれど、いつものように糸目で優しく微笑んでいる姿は容易に想像がついた。
「良い話……、だと良いんですけれど……。ベイリーさんが嫌な思いしなければ良いんですけれど……」
エミリアの困ったような笑いが聞こえてから、大きく息を吸う音が聞こえる。
「今までわたし、ベイリーさんのおかげでメイドとしての生活が楽しかったです。ベイリーさんから色々なことを教えてもらって、本当に感謝してます」
「あらあら、わたしは何もしていないわよ」とのんびりとしたベイリーの声が聞こえてきた。ポケットにも揺れが伝わってくるくらい、エミリアは緊張しているみたいだ。
「あの、ベイリーさん、わたしベイリーさんのことが好きです……」
一瞬空気が固まったのがわかる。
「あら、わたしもエミリアちゃんのこと大好きよ。可愛い後輩だもの」
ベイリーがはぐらかすように言っていたけれど、エミリアが大きく首を振ったのだろう。ポケットが揺れた。
「ち、違うんです。わたし、ベイリーさんに恋しちゃってるんです……」
その声を聞いて、ベイリーが小さく笑っていた。
「嬉しいわ、ありがとう。……でも、ごめんなさい。わたし実はとても強く愛している人がいるのよ」
その瞬間エミリアの体が硬直したのがわかった。フラれたエミリアは必死に瞬時に心情の整理をしようとしていた。
「そ、そうなんですね……」となんとか答えるエミリアの声はかなり震えていた。ポケットの上からソッとわたしの体を優しく触られてきているから、わたしもポケット越しにエミリアの手を触った。
「よく頑張ったね、エミリアさん」と、とても小さな声で呟いたのだった。
エミリアは普段からは信じられないくらい緊張しているから、わたしまで緊張してきてしまう。心の中で、頑張れ、と応援しながら小さなメイド屋敷の方へと進んでいく。エミリアはわたしのことをポケットに入れたまま、メイド屋敷の前へとやってくると、大きく深呼吸をした。どうするつもりだろうかと思っていると、エミリアは突然メイド屋敷の屋根をノックし出した。
「ベイリーさん、お話があります! 出てきてください!」
緊張でかなり強い力になっているから、屋根が壊れないか心配になる。
「ちょ、ちょっと屋根を叩いたら2階に直接音が響くからリオナたちがビックリしちゃいますよ!」
ポケットの中から声を出したけれど、もはやその声はエミリアには届いていなさそうだった。
「エミリアちゃん、どうしたのかしら?」
すぐにベイリーの声がしたから、わたしはポケットの中で息を潜める。ていうか、流れでついてこさされているけれど、わたしはエミリアの愛の告白を聞いてしまってもいいのだろうか。なんとなく申し訳ない気もするけれど、エミリアが勝手に連れてきた不可抗力だからと思って諦めてもらうことにした。
「あ、あの……、できればメイド達に聞かれないところがいいです……」
「ドアを閉めたらほとんど聞こえないわ。このメイド屋敷は少しわたしが細工をして、密閉状態なら外の音は聞こえないようにしているから」
そういえば、わたしたちにとって、とても大きいはずのエミリアやアリシアお嬢様の声はもっと屋敷内に聞こえても良いようなのに、何も聞こえなかった気がする。だから、わたしはこのお屋敷に来た当初、外の様子がまったくわからなかったせいで、小さくされたことに全然気づかなかなかったのだ。どういう仕組みかはわからないけれど、ベイリーは極力外の様子がわからないように細工をしているみたいだ。
先日レジーナお嬢様の声が外から聞こえてきたときには、レジーナお嬢様は腕をドアから突っ込んでいて密閉状態ではなかったから、音が聞こえてきていた。つまり、今はアリシアお嬢様の部屋には他に誰もいないし、メイド屋敷は密閉されている。エミリアの告白は、ベイリーと、ポケットに入っているわたしにしか聞こえないと言うわけだ。
「頑張ってね、エミリア」とわたしは誰にも聞こえない小さな声で呟きながら、ポケットの中から応援する。
「ベイリーさん、手に乗せても良いですか……?」
「いいわよ。でも珍しいわね、エミリアちゃんがわたしを手に乗せたがるなんて」
「ちょっと、大事な話があるので……」
「あら、何かしら? 良い話だと良いのだけど」
うふふ、と上品な笑い声が聞こえてきた。ポケットの中からは様子は見られないけれど、いつものように糸目で優しく微笑んでいる姿は容易に想像がついた。
「良い話……、だと良いんですけれど……。ベイリーさんが嫌な思いしなければ良いんですけれど……」
エミリアの困ったような笑いが聞こえてから、大きく息を吸う音が聞こえる。
「今までわたし、ベイリーさんのおかげでメイドとしての生活が楽しかったです。ベイリーさんから色々なことを教えてもらって、本当に感謝してます」
「あらあら、わたしは何もしていないわよ」とのんびりとしたベイリーの声が聞こえてきた。ポケットにも揺れが伝わってくるくらい、エミリアは緊張しているみたいだ。
「あの、ベイリーさん、わたしベイリーさんのことが好きです……」
一瞬空気が固まったのがわかる。
「あら、わたしもエミリアちゃんのこと大好きよ。可愛い後輩だもの」
ベイリーがはぐらかすように言っていたけれど、エミリアが大きく首を振ったのだろう。ポケットが揺れた。
「ち、違うんです。わたし、ベイリーさんに恋しちゃってるんです……」
その声を聞いて、ベイリーが小さく笑っていた。
「嬉しいわ、ありがとう。……でも、ごめんなさい。わたし実はとても強く愛している人がいるのよ」
その瞬間エミリアの体が硬直したのがわかった。フラれたエミリアは必死に瞬時に心情の整理をしようとしていた。
「そ、そうなんですね……」となんとか答えるエミリアの声はかなり震えていた。ポケットの上からソッとわたしの体を優しく触られてきているから、わたしもポケット越しにエミリアの手を触った。
「よく頑張ったね、エミリアさん」と、とても小さな声で呟いたのだった。
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