手乗りメイドはお嬢様に愛されたい!

穂鈴 えい

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Ⅱ 専属メイド

エミリアの告白 1

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次の日の朝は、わたしは早朝にソッとエミリアに体を持ち上げられて、小さなわたしサイズのベッドから強引に出されたところから始まった。

エミリアは音を立てずにドアを開けて、足音も立てずにわたしに近づいてきて、アリシアお嬢様にはまったく気付かれることなくわたしを運び、廊下に出る。暗い部屋でもまったく間違いもせずにわたしだけを正確に触って運び出した。アリシアお嬢様の睡眠の邪魔は一切せずに、器用にわたしだけを部屋の外に連れ出してしまった。

「メイドよりもスパイの方が向いてるんじゃないですか……?」
「何変なこと言ってるの」と冷静にあしらわれる。

今朝もいつものように重たい材料を運んで、朝食を作る。今日はついにエミリアが手伝ってくれたから、普段よりも食べ応えのある料理ができた。美味しそうなオムレツを作ってくれて、最後にわたしが丁寧に盛り付けをしていく。小さな体だから、細かい盛り付けはわたしの方が得意だった。

エミリアと共作で作ったオムレツを食べたアリシアお嬢様は当然のように喜んでくれたけれど、「カロリーナが一人で作ってくれたオムレツもいつの日か食べてみたいですわね」と少し寂しそうに言っていた。そんなアリシアお嬢様のためにも、少しでも早く元の大きさに戻りたかった。

洗濯はわたしはエミリアのポケットの中でのんびりと見守らせてもらった。元の大きさに戻ったら、ちゃんとアリシアお嬢様の衣服はすべて洗うことという条件で、小さい間はずっとエミリアに手伝ってもらうとになったのだった。

「ちゃんと元に戻ったらアリシアお嬢様の面倒は全部見るのよ?」
エミリアはしっかりと洗濯板にレジーナお嬢様の衣服を擦り付けながら話をしていた。雑談をしていても一切手は止めない。

「当たり前ですよ! むしろ早くずっとアリシアお嬢様につきっきりで面倒を見てあげたいですから!」
「そうよね……。わたしももうカロリーナが元の大きさに戻ったら、アリシアお嬢様の部屋には行かずに、ずっとレジーナお嬢様の面倒が見られるわ……」
そう言ってから、エミリアは大きなため息をついた。

「どうしました? レジーナお嬢様の面倒見るの嫌なんですか?」
「ねえ、カロリーナっていっつも絶妙にズレてない……? 今までのわたしだったらレジーナお嬢様に対しての侮辱だと捉えて、あんたのこと握り潰してたと思うわ」
ひえっ、と喉の奥で怯えた声を出したけれど、エミリアはそれ以上わたしを責めようとはしなかった。

「まあ、良いけど。とりあえず、わたしはレジーナお嬢様の面倒を見ることは大好きよ、と訂正はしておく。その上で、アリシアお嬢様の面倒を見に、あの部屋に入れなくなることが辛いのよ。メイド屋敷を見られなくなることが……」
「ベイリーさんに会えなくなるってことですか……?」

「あなたにしては珍しく察しが良いわね。その通りよ。メイド屋敷にご飯を運ぶ時、毎回ソフィアさんかベイリーさんだけが取りにいっていたはずよ。カロリーナたちは一度も食事当番をしていなかったと思うわ。あれは、わたしがベイリーさんとソフィアさんに頼んだのよ。その時しか小さくなった2人と会うことはできなくて寂しいから、せめて会わせてほしいからって」
「そうなんですね……」
「ほんの少しの時間だけれど、2人とお話できる時間はとても楽しいのよ。とくに、ベイリーさんと話すのはすっごい楽しみで、前の晩から何話そうかなって、緊張しちゃうくらいね。5分も会話できる時間はないっていうのにね」

エミリアが可愛らしく、困ったような笑みを浮かべる。たしかに、食事当番はソフィアとベイリーがずっとやっていたけれど、そんな裏事情があったのかと納得した。そんなことを考えているうちに、エミリアは洗濯した衣服をカゴに入れて、立ち上がった。そして、呟く。

「わたし、小さな体で一生懸命アリシアお嬢様のことを思っているカロリーナを見ていたら、なんだか羨ましくなっちゃったわ……」
遠くの方を見ながらエミリアは続ける。
「だから、ベイリーさんに思いを伝えようと思うの」

しっかりと言い切るエミリアの覚悟は、わたしが何を言おうと揺らがないのだろう。きっとわたしがここにやってくるずっと前から抱いていた大きな感情。どうやら、その感情をわたしが動かしてしまったらしい。当然、そんな大切な恋心に水を差すようなこと、わたしにはできなかった。

「頑張ってくださいね」
うん、とエミリアが満面の笑みで頷いたのだった。
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