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Ⅱ 専属メイド

アリシアお嬢様との一夜 2

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ベッドの中からそっと上半身を起こして、暗闇でアリシアお嬢様を見た。目を瞑っていたけれど、すぐ近くにアリシアお嬢様の呼吸が聞こえるような場所にいて、リラックスして眠れるわけがない。好きな人と至近距離で眠るなんて、平常心ではいられない。

添い寝くらいの近い位置にアリシアお嬢様が眠っている。しかも、横向きで眠っているから、こちらに顔が向けている。目を開けたら、わたしと目が合ってしまいそうでドキドキしてしまう。

「アリシアお嬢様って、やっぱりすっごい綺麗だなぁ……」
思わず視線が釘付けになってしまう。幼い顔だけど、高い鼻とか、起きている時のしっかりと先を見据えたような視線とか、大人びている部分もある。幼さと大人びた雰囲気、そのどちらも持ち合わせているのはアリシアお嬢様の魅力だと思う。

「カロリーナ、まだ起きてますの……?」
わたしはどきりとして、慌てて身を起こして背筋を正してしまった。別にアリシアお嬢様は目を瞑っているのだから、姿勢を正さなくても良いだろうし、そもそもアリシアお嬢様はきっと目を瞑りながらお喋りをしようとして話しかけたのだろうし。

「まだ起きてますよ」
「眠れませんの?」
近くにアリシアお嬢様がいて緊張してなかなか寝付けないとも言えず、わたしは曖昧に「そんな感じですね……」と笑った。

「わたくしも寝付けませんの、近くにカロリーナがいたら緊張してしまいますわ……」
「そ、それってどういう……」
「ご想像にお任せしますの」
どこか含みのあるようなアリシアお嬢様の言い方に緊張してしまう。

「でも、またカロリーナと会えて嬉しいですの」
アリシアお嬢様の長い睫毛が揺れて、突如パッチリとした大きな瞳が開かれた。月明かりがアリシアお嬢様の綺麗な瞳に反射していて、どこか神秘的な様子にも見える。至近距離でしっかりと目がってしまったから、緊張してしまう。

「ねえ、カロリーナ。前はエミリアに邪魔をされて話せませんでしたが、10年前に一緒に遊んだ日、わたくしすっごく楽しくて、今でも思い出しますの。同年代のお友達が全然いないわたくしにとって、カロリーナはずーっと心の底からのお友達だと思ってますの」
恋心ではなくお友達か……、とちょっとしょんぼりした気持ちがないでもないけれど、それでも当然アリシアお嬢様からお友達と言ってもらえた時点で嬉しい。

「本当はわたくし、主従関係ではなく、対等な関係でカロリーナと再会したかったですの……」
アリシアお嬢様が小さくため息をついてから笑った。
「わたしは今のアリシアお嬢様のメイドとしてお世話をするの、すごく楽しいですよ。まあ、ちゃんとお世話できているかどうかはちょっと怪しいですけど……」
わたしが苦笑いをすると、アリシアお嬢様が心配そうに尋ねてくる。

「とはいえ、カロリーナは本来はご令嬢の身ですの。本当はカロリーナにわたしのお世話をさせるなんて、とても心苦しいですわ……」
「でも、アリシアお嬢様のこと、わたしは大好きなので、どんな形でもそばにいられて嬉しいですよ」
わたしがそう言うとアリシアお嬢様は突然体を起こして、わたしの寝ていた小さな籠ベッドの上に顔を持ってくる。わたしの頭上がアリシアお嬢様の綺麗な顔で覆われる。ふんわりとしたアリシアお嬢様の髪の毛が触れて、くすぐったい。いきなりどうしたのだろうかと不安に思っていると、アリシアお嬢様は真面目な顔で尋ねてくる。

「ねえ、カロリーナ。わたくしの寂しい気持ちを埋めてくれているカロリーナはもはやただのメイドとは思えませんの……」
「アリシアお嬢様……」
ゆっくりとアリシアお嬢様の唇が、わたしの方に降ってくる。優しい吐息が顔に吹きつけてきたかと思うと、アリシアお嬢様はわたしに優しく口付けをしてくれた。

「わたくし親から結婚相手を探すように言われてますの……。リティシア家なら、わたくしの結婚相手として相応しいと思いますわ……。女性同士とか関係ないですの……。だから……」
アリシアお嬢様は頬を染めながら、ゆっくりとわたしに伝えてくれている。続きを待ったけれど、残念ながら、アリシアお嬢様はその続きを言わなかった。代わりにわたしが伝える。

「あの……。わたし、元の大きさに戻ったら、アリシアお嬢様に伝えたいことがあるんです!」
リティシア家にいた時に、親に無理やり婚約者を決められた時にはこれっぽっちもときめきの感情はなかった。けれど、今わたしは間違いなくアリシアお嬢様に恋心を抱いている。

本格的に婚約を考えるとしたら、きっと今のわたしのサイズ感ではアリシアお嬢様の両親には認めてもらえない。だから、アリシアお嬢様に思いを伝えるのも元の大きさに戻ってから。まあ、リティシア家の令嬢ではなくなったわたしが婚約を認めてもらえるかどうかはかなり不安ではあるけれど。

「カロリーナのお話楽しみにしてますわね」
アリシアお嬢様が微笑む。きっとお互いに特別な感情を持っていることは理解をしているしている。それでも、今はどちらも思いを伝えることはできなかった。

「じゃあ、これからはより一層カロリーナを元に戻すために、わたくしも頑張りますわ」
そう言って、アリシアお嬢様もわたしも再び眠りについたのだった。
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