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Ⅱ 専属メイド
わたしたちの恋愛事情 6
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「まあ、それでわたしがリティシア家の社交パーティーでアリシアお嬢様たちと出会ったんですよ。その当時、わたしはとても孤独だったんです。兄たちも姉たちもまったくわたしに構ってくれないし、メイドたちのわたしへの扱いは令嬢としての扱いなのでよそよそしくて、友達のような子がいなかったんです」
リティシア家にいた時の寂しい気持ちを思い出す。わたしは裕福ではあったけれど孤独だった。兄も姉も内輪で後継争いに勤しんでいたから、わたしも敵と見做されていて、まともに遊んでもらえることなんてなかった。レジーナお嬢様みたいな妹想いの姉や兄がいればどんなに良かったことか、と思う。
「そんなときに出会ったのが、アリシアお嬢様でした。わたしはパトリシアお嬢様に連れられて、社交パーティーをこっそり抜け出して、山の方に行きました。わたしが抜け出しても、みんなそれぞれの自分の地位の向上に向けて必死だったので、気づくことはなかったです」
随分と懐かしい話を続ける。その間にもエミリアはとても興味深くわたしの話に頷いてくれていた。
「友達なんていなかったわたしにとって、その日はとても忘れられない1日になりました。一日中はしゃぎ回って、ずっと大きな声で叫んだり笑ったりして、あの日だけは普通の子どもでいられました。アリシアお嬢様には当時はパトリシアお嬢様や、もう一人のお姉様……、今思えば、それはレジーナお嬢様のことだったんですけれど、とにかくお姉様たちがいて、とても可愛がってもらっていて、楽しそうにしていて、羨ましかった記憶があります」
今はパトリシアお嬢様がいなくなり、レジーナお嬢様がアリシアお嬢様のために冷たい態度をとっているから、寂しそうではあるけれど。
「わたしにとって幼少期に楽しく遊んだ記憶がアリシアお嬢様だけでした。だから、わたしにとって元々アリシアお嬢様は特別な子だったんです。別れ際、思わず言っちゃったんです『大きくなったら結婚しよう』って……。あ、もちろんさすがにそれで本気で結婚するとか、そんなつもりじゃなかったんですけれどね。でも、そのくらい、わたしにとってはアリシアお嬢様は特別です。それからも、屋敷で嫌なことがあるたびに思い出してたのが、アリシアお嬢様だったんです。また会いたいなって思って……」
「そんな昔から知り合いだったんですね」
エミリアが優しい表情でわたしを見ていたから、わたしは頷いてから続ける。
「わたしにとって、アリシアお嬢様の姿はいつしかアイドルというか、希望というか、なんだか嫌なことを忘れさせてくれる象徴みたいになっていて……。それで、この間も、わたしが家出をするきっかけになった政略結婚のときにも、アリシアお嬢様のことが浮かんだんです……。婚約者と一緒に結ばれるくらいなら、わたしはアリシアお嬢様と一緒になりたいって……。そういえば、小さくされる直前に道端で倒れた時に浮かんでいたのも、幼い時のアリシアお嬢様の姿でした……」
まあ、アリシアお嬢様と会いたいから家出というのは、後から思えばのこじつけみたいなところもあるけれど、少なくともアリシアお嬢様ともう一度なんとか会いたいと思ったのは事実だった。
「だから、まあ小さな体になっちゃったけれど、もう一度アリシアお嬢様と会えたのは幸せだったのかな、なんて思ったりもして……」
わたしが苦笑いをすると、エミリアが顎に手の甲を当てて、考え事をしていた。
「えっと……、一応これがわたしの恋バナですけれど」
「あっ、そうね。とっても楽しかったわ」
エミリアは微笑んだけれど、途中から思考が上の空のような気もしていた。
「エミリアさんはどうしてベイリーさんが好きなんですか?」
「えっと……、そうね。今とってもロマンティックなお話を聞かせてもらったから、わたしの話はつまらなく感じちゃうかもしれないけどいいのかしら?」
「大丈夫ですよ。エミリアさんの恋愛っていう時点で面白いですし」
「それバカにしてない?」
頬を膨らませたけれど、本気で怒っているわけではなさそうだった。わたしはクスクス笑ってエミリアの話を待った。
リティシア家にいた時の寂しい気持ちを思い出す。わたしは裕福ではあったけれど孤独だった。兄も姉も内輪で後継争いに勤しんでいたから、わたしも敵と見做されていて、まともに遊んでもらえることなんてなかった。レジーナお嬢様みたいな妹想いの姉や兄がいればどんなに良かったことか、と思う。
「そんなときに出会ったのが、アリシアお嬢様でした。わたしはパトリシアお嬢様に連れられて、社交パーティーをこっそり抜け出して、山の方に行きました。わたしが抜け出しても、みんなそれぞれの自分の地位の向上に向けて必死だったので、気づくことはなかったです」
随分と懐かしい話を続ける。その間にもエミリアはとても興味深くわたしの話に頷いてくれていた。
「友達なんていなかったわたしにとって、その日はとても忘れられない1日になりました。一日中はしゃぎ回って、ずっと大きな声で叫んだり笑ったりして、あの日だけは普通の子どもでいられました。アリシアお嬢様には当時はパトリシアお嬢様や、もう一人のお姉様……、今思えば、それはレジーナお嬢様のことだったんですけれど、とにかくお姉様たちがいて、とても可愛がってもらっていて、楽しそうにしていて、羨ましかった記憶があります」
今はパトリシアお嬢様がいなくなり、レジーナお嬢様がアリシアお嬢様のために冷たい態度をとっているから、寂しそうではあるけれど。
「わたしにとって幼少期に楽しく遊んだ記憶がアリシアお嬢様だけでした。だから、わたしにとって元々アリシアお嬢様は特別な子だったんです。別れ際、思わず言っちゃったんです『大きくなったら結婚しよう』って……。あ、もちろんさすがにそれで本気で結婚するとか、そんなつもりじゃなかったんですけれどね。でも、そのくらい、わたしにとってはアリシアお嬢様は特別です。それからも、屋敷で嫌なことがあるたびに思い出してたのが、アリシアお嬢様だったんです。また会いたいなって思って……」
「そんな昔から知り合いだったんですね」
エミリアが優しい表情でわたしを見ていたから、わたしは頷いてから続ける。
「わたしにとって、アリシアお嬢様の姿はいつしかアイドルというか、希望というか、なんだか嫌なことを忘れさせてくれる象徴みたいになっていて……。それで、この間も、わたしが家出をするきっかけになった政略結婚のときにも、アリシアお嬢様のことが浮かんだんです……。婚約者と一緒に結ばれるくらいなら、わたしはアリシアお嬢様と一緒になりたいって……。そういえば、小さくされる直前に道端で倒れた時に浮かんでいたのも、幼い時のアリシアお嬢様の姿でした……」
まあ、アリシアお嬢様と会いたいから家出というのは、後から思えばのこじつけみたいなところもあるけれど、少なくともアリシアお嬢様ともう一度なんとか会いたいと思ったのは事実だった。
「だから、まあ小さな体になっちゃったけれど、もう一度アリシアお嬢様と会えたのは幸せだったのかな、なんて思ったりもして……」
わたしが苦笑いをすると、エミリアが顎に手の甲を当てて、考え事をしていた。
「えっと……、一応これがわたしの恋バナですけれど」
「あっ、そうね。とっても楽しかったわ」
エミリアは微笑んだけれど、途中から思考が上の空のような気もしていた。
「エミリアさんはどうしてベイリーさんが好きなんですか?」
「えっと……、そうね。今とってもロマンティックなお話を聞かせてもらったから、わたしの話はつまらなく感じちゃうかもしれないけどいいのかしら?」
「大丈夫ですよ。エミリアさんの恋愛っていう時点で面白いですし」
「それバカにしてない?」
頬を膨らませたけれど、本気で怒っているわけではなさそうだった。わたしはクスクス笑ってエミリアの話を待った。
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