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Ⅱ 専属メイド
メイド研修 10
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「あの、本当に机の上だけで良いんですか?」
「あなた床の掃除を何時間かけてするつもり? 10分くらいでできるの?」
エミリアが呆れたように尋ねてくるから、わたしは慌てて首を振った。
「で、できないですけれど……。今までは無理やりにでもエミリアさんと同じ内容をさせられてたのに……」
「あなたの能力は大体わかってきたから、もういいのよ」
「それって、わたしがダメメイドってことですか……?」
恐る恐る上目遣いで尋ねたら、エミリアが真面目な顔で首を横に振った。
「まさか。あなたは一生懸命アリシアお嬢様のことを考えながら仕事をしているのは理解できたわ。今まであなたのできる範囲とやるべきことを見極めさせてもらっていたけど、これで研修も終わりにするわね。あなたは晴れてアリシアお嬢様の専属メイドよ」
エミリアがほんの一瞬だけ口元を緩めた気がしたけれど、次の瞬間にはまたいつもの冷淡な表情に戻っていたから、今のは見間違いだったのかもしれない。
「嬉しいですけど、研修ってこんなに早く終わらせても良いんですか?」
「良いも何も、そもそもメイド研修なんてうちのお屋敷にないもの。お嬢様たちの命令は絶対なんだから、アリシアお嬢様があなたを専属メイドにしたいと言ったのなら、本来ならもうそれで話は終わりよ。仮にわたしが猛反対したところで確定事項なのよ」
エミリアが平然とした調子で言う。
「無いって、じゃあ……」
「わたしのご主人様、レジーナお嬢様からの言伝よ。本気でアリシアお嬢様のことを思っているのかどうか、ちゃんと見極めろって言う。まあ、わたしも、そして、指示をしたレジーナお嬢様本人もあなたのアリシアお嬢様への気持ちはほとんど疑っていなかったし、もう充分見極められたわ」
終始真面目な顔で事務連絡でもするみたいに淡々と言われたけれど、エミリアがただの意地悪なメイドではなかったということは改めて確認できた。嫌がらせみたいに思えることもあったメイド研修だけれど、すべてわたしがアリシアお嬢様の専属メイドとしてやっていけるかどうかの適性を確認されていたらしい。
「そうですか……」
わたしは安堵のため息をついた。いろいろあったけれど、これで晴れて正式にアリシアお嬢様の専属メイドになれたらしい。
「さ、これで納得してくれたでしょ。納得したらさっさと掃除始めるわよ。アリシアお嬢様が戻ってくるまでに、わたしはこの部屋とレジーナお嬢様のお部屋の掃除をしなければならないのだから、悪いけど遊んでる場合ではないの」
「わかりました!」
嬉しさからか、普段よりもずっと大きな声を出して、返事をした。わたしは大慌てで勉強用のデスクの掃除にとりかかる。アリシアお嬢様の机上はとても綺麗に整頓されているけれど、物も多いからどうしても机の隙間に埃が溜まってしまっている。
わたしはエミリアにもらった、先端が埃を取るためにモコモコとした小さな箒(わたしからしたら、幼児が箒を持っているみたいな感覚になるくらい大きいけれど)を持って、掃除を始める。エミリアの作ってくれた箒はとてもよく埃を取れるから、スムーズに掃除をできていく。隙間以外にはほとんど埃のない机だから、10分もあれば掃除は終わりそう。
エミリアの方は圧倒的に仕事量が多いのに、ものすごい勢いで床掃除、棚の掃除、ベッドメイクを終わらせていく。小さなメイド屋敷の下の埃も取っているので、今ごろメイド屋敷がいつものように揺れているのかと思うと、少し懐かしい気持ちにもなった。わたしたちの小さな視点から見ても埃一つない綺麗にされている屋敷周りは、こうやってエミリアが毎日掃除をしてくれているおかげだったらしい。
アリシアお嬢様と一緒にいられるのはとても嬉しいけれど、全てがわたしに使いやすいサイズにカスタマイズされているメイド屋敷に居られる頻度が減ってしまうのは、少し寂しい気持ちにもなる。そんなことを考えていると、エミリアの声がした。
「わたしはもう掃除は終わったけれど、カロリーナの方はどうなの?」
「わ、わたしも終わりました!」
「エミリアがスーッと机の端っこに人差し指を滑らせて、真剣な目で確認をする。
わたしは緊張しながら、エミリアの次の言葉を待った。
「うん、良いわね。これで大丈夫だと思うわ」
納得してくれて、ホッとする。
「じゃあ、わたしはこれからレジーナお嬢様の部屋に行って、また戻ってくるから、カロリーナはメイド屋敷に戻って少し休んでおいて」
エミリアは、わたしの返事を待つより先に、わたしのことを手のひらに乗せて小さなメイド屋敷の方へと連れていく。
「30分ほどしたら戻ってくるから、ノックをしたら3秒以内に出てくること。いいわね?」
「は、はい……」とわたしは少し厳しそうな条件に怯えつつも頷いた。
「あなた床の掃除を何時間かけてするつもり? 10分くらいでできるの?」
エミリアが呆れたように尋ねてくるから、わたしは慌てて首を振った。
「で、できないですけれど……。今までは無理やりにでもエミリアさんと同じ内容をさせられてたのに……」
「あなたの能力は大体わかってきたから、もういいのよ」
「それって、わたしがダメメイドってことですか……?」
恐る恐る上目遣いで尋ねたら、エミリアが真面目な顔で首を横に振った。
「まさか。あなたは一生懸命アリシアお嬢様のことを考えながら仕事をしているのは理解できたわ。今まであなたのできる範囲とやるべきことを見極めさせてもらっていたけど、これで研修も終わりにするわね。あなたは晴れてアリシアお嬢様の専属メイドよ」
エミリアがほんの一瞬だけ口元を緩めた気がしたけれど、次の瞬間にはまたいつもの冷淡な表情に戻っていたから、今のは見間違いだったのかもしれない。
「嬉しいですけど、研修ってこんなに早く終わらせても良いんですか?」
「良いも何も、そもそもメイド研修なんてうちのお屋敷にないもの。お嬢様たちの命令は絶対なんだから、アリシアお嬢様があなたを専属メイドにしたいと言ったのなら、本来ならもうそれで話は終わりよ。仮にわたしが猛反対したところで確定事項なのよ」
エミリアが平然とした調子で言う。
「無いって、じゃあ……」
「わたしのご主人様、レジーナお嬢様からの言伝よ。本気でアリシアお嬢様のことを思っているのかどうか、ちゃんと見極めろって言う。まあ、わたしも、そして、指示をしたレジーナお嬢様本人もあなたのアリシアお嬢様への気持ちはほとんど疑っていなかったし、もう充分見極められたわ」
終始真面目な顔で事務連絡でもするみたいに淡々と言われたけれど、エミリアがただの意地悪なメイドではなかったということは改めて確認できた。嫌がらせみたいに思えることもあったメイド研修だけれど、すべてわたしがアリシアお嬢様の専属メイドとしてやっていけるかどうかの適性を確認されていたらしい。
「そうですか……」
わたしは安堵のため息をついた。いろいろあったけれど、これで晴れて正式にアリシアお嬢様の専属メイドになれたらしい。
「さ、これで納得してくれたでしょ。納得したらさっさと掃除始めるわよ。アリシアお嬢様が戻ってくるまでに、わたしはこの部屋とレジーナお嬢様のお部屋の掃除をしなければならないのだから、悪いけど遊んでる場合ではないの」
「わかりました!」
嬉しさからか、普段よりもずっと大きな声を出して、返事をした。わたしは大慌てで勉強用のデスクの掃除にとりかかる。アリシアお嬢様の机上はとても綺麗に整頓されているけれど、物も多いからどうしても机の隙間に埃が溜まってしまっている。
わたしはエミリアにもらった、先端が埃を取るためにモコモコとした小さな箒(わたしからしたら、幼児が箒を持っているみたいな感覚になるくらい大きいけれど)を持って、掃除を始める。エミリアの作ってくれた箒はとてもよく埃を取れるから、スムーズに掃除をできていく。隙間以外にはほとんど埃のない机だから、10分もあれば掃除は終わりそう。
エミリアの方は圧倒的に仕事量が多いのに、ものすごい勢いで床掃除、棚の掃除、ベッドメイクを終わらせていく。小さなメイド屋敷の下の埃も取っているので、今ごろメイド屋敷がいつものように揺れているのかと思うと、少し懐かしい気持ちにもなった。わたしたちの小さな視点から見ても埃一つない綺麗にされている屋敷周りは、こうやってエミリアが毎日掃除をしてくれているおかげだったらしい。
アリシアお嬢様と一緒にいられるのはとても嬉しいけれど、全てがわたしに使いやすいサイズにカスタマイズされているメイド屋敷に居られる頻度が減ってしまうのは、少し寂しい気持ちにもなる。そんなことを考えていると、エミリアの声がした。
「わたしはもう掃除は終わったけれど、カロリーナの方はどうなの?」
「わ、わたしも終わりました!」
「エミリアがスーッと机の端っこに人差し指を滑らせて、真剣な目で確認をする。
わたしは緊張しながら、エミリアの次の言葉を待った。
「うん、良いわね。これで大丈夫だと思うわ」
納得してくれて、ホッとする。
「じゃあ、わたしはこれからレジーナお嬢様の部屋に行って、また戻ってくるから、カロリーナはメイド屋敷に戻って少し休んでおいて」
エミリアは、わたしの返事を待つより先に、わたしのことを手のひらに乗せて小さなメイド屋敷の方へと連れていく。
「30分ほどしたら戻ってくるから、ノックをしたら3秒以内に出てくること。いいわね?」
「は、はい……」とわたしは少し厳しそうな条件に怯えつつも頷いた。
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