手乗りメイドはお嬢様に愛されたい！

Ⅱ 専属メイド

メイド研修 5

「さ、カロリーナ。ご飯ですわ。これはわたくしとカロリーナ２人分ですの」
専属メイドになると、食事はメイドたちと一緒に摂るのではなく、担当のお嬢様と２人きりで摂るらしい。だから、アリシアお嬢様は1人で食事を取るのに、2人で向かい合って食べることのできる机を使っていたようだ。どうやら、本来はもう一人、一緒に食事を取ることのできる人物が想定されていたらしい。

わたしが元いた家では食事は家族で集まってダイニングで食べていたけれど、アリシアお嬢様が一人で食事をさせられているのは、きっとまた不要ないざこざに巻き込まれないようにというレジーナお嬢様の配慮なのだろう。アリシアお嬢様は寂しい思いをしているだろうけれど、それがレジーナお嬢様の愛が理由であることを教えてあげたいけれど、それを教えるとわたしはレジーナお嬢様に泣いても許してもらえないくらい何度も踏みつけられるらしいから、絶対に言えないけれど……。

まあ、2人きりと言っても、この部屋の場合少し離れた場所にドールハウス用のメイド屋敷があるから、厳密な意味で２人きりの状態ではない。そう考えたら、ある意味みんなで食事をしているみたいなものなのかもしれない。今頃みんなもちょうど晩御飯を食べているんだろうな、と少し思いを馳せてみる。

「研修中とはいえ、わたくしの専属メイドになってくれているということは、カロリーナも何か料理を作ってくれたということですの？」
アリシアお嬢様が期待の眼差しをこちらに向けてきた。

「えっと……。作ったことは作ったんですけど……」
「どれですの？」
ワクワクと楽しそうなオーラが滲み出るアリシアお嬢様。わたしは恐る恐るシーザーサラダの乗ったお皿の前に向かった。

「えっと……、これです」
「凄いですわ！　カロリーナが小さな体でこんなたくさんのサラダを作ってくれましたの？　わたくし、一口一口味を噛み締めて食べますわ！」
「えーっと……」

アリシアお嬢様がとても嬉しそうにしているから、訂正するのも申し訳ない気分になってしまう。でも、嘘をつくわけにもいかない。
「ほとんどエミリアさんに作ってもらってます……。わたしが作ったのは、底の方にあるレタスの切れ端みたいなやつだけですね……」

もはや作ったというか、運んだというか……。それでもアリシアお嬢様は微笑んで、サラダの底を漁っている。時折わたしが食べたら数十分かかりそうな巨大なレタスを簡単に摘んで口に含んでいき、お皿の中身を減らしていく。お上品に食べているけれど、その食べ方は大きさのせいでとても豪快に見えた。そして、少し食べてから、アリシアお嬢様がクスッと笑った。

「見つけましたわ。きっとこれですわね！」
たくさんの綺麗な大きさに切り分けられていた大きなレタスと違い、切れ端みたいなサイズの不恰好なレタス。それを器用にフォークに乗せて、わたしに見せてくる。エミリアが大きなサイズのレタスばかり使っていたおかげで、わたしの作ったものを簡単に見つけてくれたらしい。

「それですけど、わたしのよりもエミリアさんが作ってくれた部分の方が美味しいですよ」
ていうか、そもそもレタスを千切っただけだから、味は変わらないとは思うけれど、きっと大きいサイズの方が美味しく感じるだろうなとは思った。だから、エミリアが作ったものの方が美味しいだろうに、アリシアお嬢様は小さな切れ端をしっかり味わうみたいに口に含んでいた。そして、食べ終わったら、優しく微笑んでくれた。

「とっても美味しかったですわ。カロリーナの手料理、とっても美味しいですの！」
ほとんど味のしない料理を食べても喜んでくれたアリシアお嬢様。なんだか中途半端な料理を作ってしまったことが申し訳なくなってしまう。いつか本当に一人で作った手料理を作ってあげたくなってしまう。

「あの……、アリシアお嬢様。わたし、元の大きさに戻ったら、アリシアお嬢様の為に手料理作りますね！　そのときは絶対に食べてください！」
「嬉しいですわ。早く元に戻る方法を探さないと、ですわね！　わたくしも一緒に手伝いますわ！」

アリシアお嬢様が優しく微笑んでくれる。そんなアリシアお嬢様のためにも、絶対に元に戻る方法を探さなければならない。そうしてしばらくの間一緒にご飯を食べ進めていき、終わった頃にエミリアが戻ってくる。