手乗りメイドはお嬢様に愛されたい!

穂鈴 えい

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Ⅱ 専属メイド

メイド研修 2

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キッチンに入ると、先に5名ほどのメイドが食事の準備をしていた。
「お疲れ様です」
エミリアが入っていくと、年上のメイドたちもかなりしっかりと挨拶をしていた。

エミリアに対しては、今までは散々怖い目に遭わされてきていたから、ネガティブなイメージしかなかったけれど、よく考えたらまだ10代なのに次期当主の専属メイドをしているし、実は凄い子なのかもしれない。身体能力も高いみたいだし、レジーナお嬢様が可愛い妹の護衛につけるくらい信用しているのだから。

「さ、カロリーナも挨拶しなさい」
エミリアがハイソックスにしがみついて目を回していたわたしを、木に止まっているクワガタでも引き剥がすみたいに摘んで持ち上げた。手のひらの上で立ち上がり、大きな声を出した。

「は、初めまして! 本日からアリシアお嬢様の専属メイドになりました、カロリーナです! よろしくお願い致します!」
その瞬間、みんなの視線がエミリアの手のひらにいるわたしの方へと向かった。残念ながら、エミリアのときとは違って、わたしには挨拶は返ってこなかった。代わりに怪訝な目つきが返ってきて、ざわつき出した。一人の20代前半くらいの目つきのきつい女性がツカツカとわたしの前にやってきて、ジッと顔を近づけてくる。

「何? あんた最近入った子よね? 生意気にも、もう専属メイドになったわけ? いくら仕える相手があの地味お嬢様だと言っても、良い気はしないわね」
レジーナお嬢様が内部争いの火種を作らないように気をつけているせいで、アリシアお嬢様はすっかり舐められてしまっているらしい。

「地味お嬢様の専属とはいえ、先に良い思いをされたのはムカつくし、踏み潰してやろうかしら」
わたしの体を掴もうとしてきたから、いつものように素早い動きで、サッとエミリアがわたしの体が乗った手のひらを彼女の指先から遠ざける。エミリアは一応わたしのことを守ってくれたみたいだ。

「この子はともかく、アリシアお嬢様のことを悪く言うのはやめた方がいいですよ」
エミリアの声を聞いて、目つきのきついメイドはバツが悪そうに持ち場に戻った。

「えっと、みなさん、落ち着いてください。この子はソフィアさんとベイリーさんの仲間ですので、あまり酷い目には遭わせないようにお願いします。ただし、あくまでも新人メイドですので不備があったら、きちんと指導をしてもらっても大丈夫です」
ソフィアとベイリーの名前を出したら、メイドたちの不穏な様子もピタリと止んだ。あの2人はメイドたちの中でもかなり信頼されていみたいだ。

そして、しれっとわたしに対してはなかなかに怖いことを言われた気がする。このサイズ差でのきちんとした指導と言われても不安な気持ちしか無いのだが……。さすがエミリアといっていいのだろうか。わたしにはまったく容赦ない。

「では、晩御飯を作りましょうか」
エミリアに言われて、わたしは恐る恐る頷いたけれど、そもそもまともに調理道具も持てないのにどうやって作れば良いのだろうか。そんなことを考えていると、エミリアがわたしの体を掴む。

「まずは手を洗わないと」
サッサっと要領よくわたしの服を脱がせていくから思わず大きな声を出してしまう。

「ちょ、ちょっと! 何してるんですか!」
「じゃあ、メイド服ごと水浸しにした方がよかったかしら?」
「どうして水浸しにする必要があるんですか!」

「あなたまさか人の靴の上に乗った体で、洗いもせずに大切なお嬢様のために調理をしようとしてたの?」
エミリアが呆れたようにため息をついた。
「メイドとしての素養がなさすぎて、この時点で失格にしてしまいんだけれど」
エミリアに普通に呆れられてしまった。確かに、靴に乗った体で、アリシアお嬢様の食事を作るなんて、わたしにとっても不本意だ。

「わかりましたよ。脱ぎますから、それで良いですよね? でも、靴に乗ったからメイド服も汚れてるんですけれど、それは良いんですか? まさか裸でご飯を作るなんて変態じみたことをお嬢様の専属メイドにやらせるつもりじゃないですよね?」
「そんなわけないじゃない。当然あなたの着替えは持ってきているわ」
エミリアが手のひらサイズのメイド服をポケットから取り出す。

「随分と用意周到なんですね……」
呆れてしまった反面、こうやって滞りなく仕事を進めていくところがレジーナお嬢様に信頼してもらっている理由なのだろうなとも思った。
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