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Ⅱ 専属メイド

専属メイド 3

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「残念ながら、そういうわけにはいきませんよ。専属メイドになったからには、今度はわたしたちメイドのルールに従わなければなりません」
「メイドのルール? そんなのありますの?」
そうです、とエミリアが頷いた。

「一つ、わたしたちメイドは、専属となったら必ずその主人の言うことを聞かなければならない」
「そんなの知ってますの。だから、カロリーナはわたくしの指示で動けばいいはずですの。わたくしが仕事をしなければいいと言えばしなくてもいいし、わたくしに可愛がってもらうことだって、カロリーナの立派な仕事ですの」
反論するアリシアお嬢様のことは気にせず、エミリアが続けた。

「一つ、わたしたちメイドは、専属となったらその主人の身の回りの世話は全てしなければならない」
「す、全てって言っても、正確に定義をされていなければ全ての範囲は曖昧のはずですわ。わたくしにおやつを食べさせてもらうことが全てと定義すれば、それがカロリーナの仕事の全てになりますの……」
アリシアお嬢様がエミリアから視線を逸らしながら答えていた。

「言い訳が苦しくなってきていますね」
エミリアがだんだんと余裕を取り戻してきている。

「一つ、わたしたちメイドは、専属となったら必ず先輩の専属メイドから仕事についての研修を受けなければならない」
条件を聞いて、わたしとアリシアお嬢様の表情が同時に強張った。
「け、研修って、そんな……」
小さな体でメイドたちに混ざって仕事をするということ? そんなの無事に生きて戻れるかどうかわからないではないか。

「おそらく、他のメイドは小さなメイドと関わることを厄介に思うと思いますので、担当はわたしがすることになります」
エミリアが珍しく中腰になってわたしに視線を合わせてきた。顔を近づけて不敵な笑みを浮かべたかと思うと、思いっきりフーッと息を吐いてきた。その勢いにわたしは耐えられず、後ろに転んで尻餅をついてしまった。

「ちょっと、エミリア、何をしますの!」
アリシアお嬢様がかなりムッとした表情をしているけれど、エミリアは冷静に返す。
「わたしはただ息を吐き出しただけですよ? 何も悪いことはしていないですけど?」
なおもジッと顔を近づけたまま、わたしの方を見つめ続けていた。

「ねえ、このままだったらあなたは意地悪メイドのわたしに従って研修を受けることになるわ。今ならまだ間に合うんじゃないかしら? アリシアお嬢様に土下座でもして、『やっぱり専属メイドにはなれません』って謝ったらどうかしら?」
「エミリア! ほんとに意地悪なことはやめなさい!」

アリシアお嬢様はかなり怒っているようだ。けれど、専属メイドのルールとやらを考えたら、研修がある以上、このまま専属メイドとして働き続けるのがあまりにも危険なことは理解できた。

『カロリーナちゃん、あなたには正しい判断を期待してるわよ』
脳内で、先ほど言われたベイリーからの言葉が響く。正しい判断をするのなら、きっとわたしは専属メイドの話を取り消してもらうべきだとは思った。けれどそれは、せっかくわたしのことを専属メイドとして選んでくれたアリシアお嬢様の好意を無駄にしてしまうみたいで嫌だった。

「わ、わかりましたわ。わたくしはカロリーナが嫌な思いをするのなんて嫌ですの。先ほどの専属メイドの話はなかったことに――」
「しないでください!!」
わたしは精一杯の大きな声を出した。アリシアお嬢様の声にかき消されないように気をつけながら。

「なかったことになんてしないでください!! わたしはアリシアお嬢様とずっと一緒にいたいんですから!」
わたしは叫んでから、エミリアのことを精一杯迫力が出るようにして、睨みつけた。もちろん、今の体で迫力を出すことなんてできていないのだろうけれど。

「研修って言っても、ずっとするわけではないんですよね?」
「ええ、わたしが合格を出したら終わるわ」
意地悪気に笑うエミリアが怖かった。

「エミリアが合否判断をするなんて、不公平ですわ!」
「わたしは真面目なメイドですから、ふざけた態度の子を専属メイドにはできないので、そこを判断するだけですよ」
アリシアお嬢様が悔しそうにしていたけれど、わたしはすぐに答えを出す。

「大丈夫ですよ、アリシアお嬢様。わたし、アリシアお嬢様と一緒にいるためならなんでもしますから!」
「カロリーナ……。気持ちは嬉しいですの。でも、エミリアと2人でなんて、怖いですわ……」
「大丈夫ですよ。わたしを信じてください!」
根拠なんてないけれど、わたしはアリシアお嬢様に失望なんてさせたくなかった。だから、前向きに頑張るしかない。

『アリーちゃん、わたしおっきくなったらアリーちゃんと結婚する!』
『わたくしもですわ! わたくしもリーナちゃんと結婚しますの』

フッと幼い頃に見た夕暮れ時の光景と、温かい手のひらの感触が浮かんできた。わたしは覚悟を決めたのだった。アリシアお嬢様とずっと一緒にいるために。
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