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Ⅱ 専属メイド

可愛い妹と過保護な姉 6

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「それで……、協力って、わたしは何をしたら良いんですか?」
何を言われるのか恐る恐る尋ねたけれど、レジーナお嬢様の指示は思ったよりもずっとシンプルなものだった。

「アリシアにわたしと接触させないようにすること。それだけよ。あの子賢いから、あなたが小さくされたことについて、わたしが何か知っていると考えたのね。まあ、わたしは事実を知っているだけで、指示も協力も何もしていないから本当にただ知っているだけだけれど」
「あの、知ってるんだったら、わたしを小さくした犯人を教えて欲しいんですけど……」

わたしが尋ねると、巨大なレジーナお嬢様の人差し指が軽くわたしの上半身を弾いた。軽く、というのはあくまでもレジーナお嬢様にとっての話で、わたしの体がふわりと宙に舞ってしまうくらいの力だった。わたしは、ギャっと声を出して、その場に横たわってしまう。

「今はわたしがあなたに話を聞いてるの。話を逸らすんじゃないわよ」
「はい……」と怯えるように返事を出してから、話を戻す。

「接触させないようにってことは、やっぱりアリシアお嬢様のこと苦手なんですか」
わたしの質問を聞いて、レジーナお嬢様が苛立った声を出した。
「だからね、あなたそんなにわたしに潰されたいのかしら?」

その声に力がこもっていたから、思わずヒッ、と怯えた声を出してしまった。すぐ真上に怒りで小さく震えたレジーナお嬢様の手のひらが翳される。

「す、すいません……」
わたしは慌てて体を起こして、おでこと両手と膝をついて、土下座の姿勢をとった。背中に手のひらが当たったところで、ピタリと止まる。

「もうめんどくさいからその姿勢で聞きなさい」
レジーナお嬢様が小さくため息をついてからわたしの背中にソッと手のひらを当てながらつづける。わたしは身動きが取れなくなり、姿勢を固定したまま話を聞かされることになってしまった。

「まず、勘違いを正しておきたいわ。わたしはアリシアのことが大好きよ。可愛い妹だもの。そんなこと言うまでもないわ」
その声には慈愛の感情が含まれているように思えた。きっと嘘ではないのだろう。それだけに意地悪しているのが不思議だった。

「じゃあ、どうして……」
「あの子に対して負の感情を抱いていることを周りに知らしめておけば、あの子が後継争いに巻き込まれなくて済むからよ」
「後継争い……」

懐かしい響きだった。うちも兄や姉は火花バチバチだった気がする。政略結婚が嫌で逃げてきたわたしにはそんな争いは縁のない話ではあったけれど、それでもわたしにちょっかいをかけてきたり、取り入ろうとしてこようとした人は何人かいた。

「本当はパトリシアお姉様が継いでくれたら、わたしもアリシアも、パトリシアお姉様に着いて行くだけでよかったのに、事情が変わっちゃったのよ。わたしは本当は当主なんて興味がないけわ。当主になったら、対外的に政略や外交のようなこともしていかなければならないし、嫌な思いをしたりさせたりし続けることにもなるし」
「でも、当主になるんですよね?」
「当たり前でしょ? アリシアにそんな嫌な思いさせたくないもの」
真面目な声でレジーナは言う。怖い人と思っていたけれど、本当は妹へのかなり強い愛情を持っている人だったらしい。

「そんなわけで当主はわたしが引き受けることにほぼ決まっても、それでも大本命のパトリシアお嬢様がいなくなってしまうと、勝手に外野が後継争いを始めようとしてしまうのよ。みんな関係ないからって勝手よね」
レジーナお嬢様がため息をついてから続ける。

「後継争いを外野で始められてしまうと、とても困るのよ。もしかしたら勘違いした行動派のメイドがあの子を消してしまおうとしてしまったり、嫌がらせをしたりするかもしないから。だから、あの子がわたしに後継争いで話にならないくらい負けていたら、あの子に危害は加えられない」
「なるほど……。レジーナお嬢様は本当はアリシアお嬢様に嫌がらせはしたくないんですね」
「当たり前でしょ! 好きであの子に嫌がらせなんてするわけないわ」

「じゃあ、それを全部アリシアお嬢様に話して一緒に演技をしてもらったら、レジーナお嬢様は悪者にならなくても済むんじゃないでしょうか?」
アリシアお嬢様に真実を伝えないと、アリシアお嬢様はレジーナお嬢様のことを怖がったままになってしまう。せっかく愛情を持っているのに、怖がられているレジーナお嬢様が少し不憫にも思えてしまう。

「あの子、天使みたいに優しいのよ? 事情を知ってしまったら、絶対にわたしに優しくしてしまうわ。だから、あの子には演技の協力なんて頼めない。接触されると、周りが騒ぎ出してしまう。作戦が台無しになってしまうわ」
確かに、アリシアお嬢様は演技とかは器用にできなさそうだった。きっと誰が見てもレジーナお嬢様に好感度マックスということがわかってしまうような下手な演技しかできないだろう。

納得していると、レジーナお嬢様が続けた。
「パトリシアお姉様がいなくなってしまって、ただでさえ辛いのに、わたしまで敵対しているように見せかけたらあの子がもっと寂しい思いをしてしまうのはわかっているわ。それでも、あの子が一番平和に過ごせるには、そうするしかなかったのよ。今の屋敷内から孤立していて、いないものとして扱われているあの子なら、少なくとも暗殺とか、更迭とか、物騒な目に遭う心配はないわ。運動神経が屋敷で一番良い、わたしの自慢のメイドのエミリアも護衛につけているのだから、滅多なことでは危機にに陥らないはず」

土下座をしたまま手のひらで背中を押さえつけられているわたしには、今のレジーナお嬢様の表情はわからないけれど、今まで聞いたことのないくらい穏やかな声をしていた。
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