手乗りメイドはお嬢様に愛されたい！

Ⅱ 専属メイド

巨大な侵入者 4

巨大な手が何かを探すみたいに再び動き出した。その探している何かがおそらく自分であるということは、カロリーナにも見当はついた。けれど、先日の悪夢を見たばかりで、まだメイド屋敷の外に出るのには抵抗がある。膝が震えてしまっていた。そんなわたしの手をソッと握ってくれたのは、ソフィアだった。

「大丈夫ですよ、カロリーナさん。なんとか帰ってもらいましょう」
「そうしてもらえたら助かるんですけど……」
少し明るい気分になっていたのに、ベイリーが冷たい声を出す。

「無駄じゃないかしら？　レジーナお嬢様は満足するまで諦めはしないので、一度諦めてレジーナお嬢様に連れていってもらってから飽きてもらって帰る方がよっぽど現実的だと思うわ。でないとこのままレジーナお嬢様に暴れられてキャンディちゃんやメロディちゃんが怪我をしてしまうかもしれないわね」
ベイリーがチラリとリオナの方を見た。リオナが困ったような顔をした。そんなリオナにわたしは震えた声で伝える。

「だ、大丈夫だよ。わたしがレジーナお嬢様に連れていってもらうから……。抵抗したらもっと被害出ちゃうよ……」
キャンディとメロディという単語を聞いたらリオナはそっちを助けないといけないだろうから。今わたしが素直に従えば、ことは収まる。

「ねえ、早くしなさいよ。カロリーナ。わたしの手に捕まりなさい」
レジーナお嬢様が苛立ったようにメイド屋敷の床を人差し指でトントントントン叩くから、その度に床が大きく揺れていた。机がガタガタと音を立てて、キャンディとメロディが震えていた。そんな状況に耐えられず、ゆっくりとわたしは歩みを進める。

「なあ、カロリーナはそれでいいのかよ？」
「わたしが行くしか解決策ないし……」
「行きたくないんだな……？」
「そりゃ……」
それでも一歩進もうと思った時に、メイド服の裾が誰かに引っ張られていることに気がついた。

「え？」
後ろを振り向くと、キャンディとメロディが机の下から手を伸ばして掴んでいた。
「行かないで、カロリーナ」
「一緒に居よう、カロリーナ」
涙声で伝えられた。２人の寂しそうな声を聞いて、リオナが小さく息を吐いた。

「決まりだな。とりあえず、最善尽くそうぜ！」
リオナが元気な声を出す。

「最善って……。カロリーナちゃんが今すぐ連れていかれるのが最善なんじゃないかしら？」
ベイリーが一人冷めた視線でいつの間にか椅子に座って、テーブルに肘を置いて、頬杖をついてわたしたちのことを見つめていた。

普段は冷静なのはベイリーよりもソフィアの方なのに、今日は手のひらを握ってくれてわたしが怖くないように気にかけているし、普段とは逆のようだった。まるで、お互いに逆の意見にしなければいけないみたいに動いている。

「最善とか、細けえこと考えるのはもうめんどいし、とりあえずこいつ邪魔だから追っ払うぞ」リオナが今度は飛び蹴りをかました。本当に運動神経の良い子である。リオナの全体重をかけた蹴りは、きっと本来のサイズならかなりダメージを与えられる攻撃ではあるのだと思う。けれど、残念ながら今の大きさでは全然効果はなさそうだった。

「あ、またわたしの手蹴ったわね。ねえ、あなたリオナだっけ？　わたしが誰かわかってるわけ？」
全体重を乗せて綺麗な飛び蹴りをしたから、まだ体勢を崩したままだったリオナの体の上にレジーナお嬢様が手を乗せた。

「これがリオナであってるわよね？　別の子だったら可哀想だから」
「おい、離せよ！」
リオナが必死に手足をばたつかせているけれど、レジーナお嬢様の手はリオナを離そうとはしない。

「時期当主のわたしに歯向かったんだから、ちょっとくらい痛い目に遭ってもらうわよ」
巨大なレジーナお嬢様の手がリオナを掴んで持ち上げた。ドールハウスの屋敷の中だからあんまり持ち上がらず、床から1メートル弱くらい吊り上げられた状態でリオナが手足をバタつかせていた。

「リオナちゃんを離して！」
「リオナちゃんに意地悪しないで！」
そんなキャンディとメロディの声が虚しく室内に響いていたけれど、レジーナお嬢様は手首を軽く振って、リオナのことを放り投げる。

勢いをつけることができないから、きっとレジーナお嬢様にとってはかなり弱い力で投げたのだろうけれど、それでも高身長のリオナの体が簡単に飛ばされて、廊下の壁に体を打ちつけていた。